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2014年4月21日月曜日

三対一の法則は「法則」なのか?


今回は「三対一の法則」の妥当性を論点として取り上げたいと思います。

戦闘で攻撃者が防御者を撃破するためには防御者の三倍あるいはそれ以上の勢力が必要である。

三対一の法則は防勢優位仮説とも関係する重要な仮説で、言い換えれば攻撃を行うよりも防御を行えば三倍の戦闘力を発揮することができることを意味します。

さて、ここで問題なのは、この三対一の法則というのは本当に現代の軍事学の見地から見て妥当なのかどうかということです。

諸説あるのですが、一説によると三対一の法則についての記述は、第一次世界大戦に関するイギリスの公刊戦史に由来するようです。
そこでは「勇気、訓練、士気、装備が等しい両軍において、敵を陣地から駆逐するためには三倍の勢力を必要とするとみられる」(出典未確認)という箇所があり、そこから派生して攻撃者には防御者の三倍の勢力が必要という議論になったようです(栗栖1997: 179)。

この「3」という定数がどのような計算から導き出せるのかということは明らかにされていないにもかかわらず、冷戦期の教範でもこの仮説は長らく参照され続けていました。

そのため、三対一の法則は研究者の間でも論争的な研究テーマであり、参照されることがあったとしても、確実な法則として見なされていません。

この仮説を批判的に検証したプリンストン大学のエプスタイン教授の研究では、攻撃者が防御者の3倍の勢力が必要とは必ずしも言えないことを報告しています。

エプスタインの説によると、陸上戦闘における防勢作戦には長期持久を狙った陣地防御と短期決戦を狙った機動防御で戦闘の結果が異なるだけでなく、攻撃者がどのような方法で攻勢作戦を行うかによっても結果が変化するため三対一の法則には科学的根拠が欠けているということが指摘されています(Epstein 1989)。

三対一の法則を擁護する立場の議論として、シカゴ大学のミシャイマー教授の研究があります。
ただし、ミアシャイマーも三対一の法則を手放しで擁護しているのではなく、いくつかの条件を設定した上で限定的な妥当性があるということを主張する立場です。

ミアシャイマーの研究によると、三対一の法則は攻撃者が20から50キロメートル程度の戦闘正面で突破を行う場合においてのみ適用される法則です(Mearsheimer 1989)。
つまり、三対一の法則は、特定された戦術の下で防御陣地に対する正面攻撃が成功するかどうかを大まかに予測するための一つの基準だという見方です。

これはこれで興味深い主張なのですが、残念ながらその後に統計データの解釈やその操作の不備があることが指摘されており(Dupuy 1989)、結局のところ三対一の法則がどの程度妥当するのかは不明とされています。

ここまでの研究活動の結論として言えることは、三対一の法則は「法則」と呼ぶことはできないということです。

この問題についての私の個人の考えを述べるならば、三対一の法則はイギリス軍の研究が「敵を陣地から駆逐するためには」と想定し、ミアシャイマーも陣地に対する攻撃に必要な兵員の目安として考えていることから、三対一という仮説を安易に一般化することは避けなければならないと思います。

しかし、作戦計画を立案するためには見積もりが必要である以上、三対一の法則はこれからも所要戦力の規模を大ざっぱに見積もるための定説として生き残っていくことであろうとも思います。

KT

参考文献
  • Mearsheimer, J. J. 1989. ''Assessing the Conventional Balance: The 3:1 rule and Its Critics,'' International Security, 13(4): 54-89.
  • Epstein, J. M. 1989. ''The 3:1 Rule, the Adaptive Dynamic Model, and the Future of Security Studies,'' International Security, 13(4): 90-127.
  • Dupuy, T. N. 1989. ''Combat Data and the 3:1 Rule,'' International Security, 14(1): 195-201.
  • 栗栖弘臣『安全保障概論』ブックビジネスアソシエイツ社、1997年