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2014年4月2日水曜日

ルーデンドルフと全体戦争の問題


平素より本ブログをお引き立て下さいまして、誠にありがとうございます。
気が付けば既に閲覧数1000を超えており、つきましてはこの場を借りて、皆様にお礼を申し上げます。今後も安全保障に関する記事を投稿していきます。

さて、今回は戦略学の観点から全体戦争についての議論を紹介したいと思います。

戦略学で全体戦争の議論が始まるきっかけとなったのは第一次世界大戦であり、この時期にドイツでのちの日本の戦略思想にも影響を与えたルーデンドルフが『全体戦争論』という著作を発表します。(日本では『国家総力戦』という題名で知られています)
ルーデンドルフは一次大戦の教訓として次のように論じました。

「しかるに世界戦争は過去150年間の全ての戦争と全く異なる性質を現した。
つまり参戦国の軍隊はそれぞれその相手の軍隊の殲滅に努力したばかりでなく、国民自身もまた戦争遂行の作業に深く関係して、戦争行為は直接的に国民に課せられ、国民自身も戦争の困苦を直接経験した。

こうして国民も軍隊も一体となって、その間には明確な区別はなく、文字通りの全体戦争となり、世界の諸国民はそれぞれ終結した全力を挙げて対峙した。
ここにおいて単に軍隊だけでなく参戦国の全国民の生活と精神に及ぼす、いわゆる全体戦争が生じてきたのであり、このことは一つには過去と異なった政治的形態により、一つは人口の増加とこれに伴う一般兵役法の採用、さらにますます威力が増大してきた新兵器に起因するものである。

今や戦場は文字通り交戦国の国土のすべての地域にわたって軍隊だけでなく国民全般もその程度の差こそあれ、直接的、または間接的に戦闘行為の対象となり、ともに戦禍に悩むことになってきたのである

(中略)全体戦争の本質は全国民に対する致命的な脅威が実際に発生し、しかして国民が戦争の重荷を担う決意に満たされた場合に初めて実行することができるような性質のものであり、内閣による戦争の時代、限定された政治的目的を持つ戦争の時代は過ぎ去ったのである」

中央の人物 エーリッヒ・ルーデンドルフ
ルーデンドルフの業績は全体戦争という概念を戦略概念としてかなり早い段階から定式化し、それに基づいた戦争指導の抜本的な見直しを主張したことでした。戦略的に特に重要な主張として次のものがあります。

・戦域の範囲が著しく増大して国家の領土の全体を含むようになったということ。
・戦闘の拡大や長期化に伴って投入される軍事力の規模も増大し、兵站支援との関連で従来の軍事部門に限らず民間部門においても物的・人的資源の徴発や徴兵を通じた動員が必要となったこと。
・国民の経済活動と軍隊の兵站支援の区別がなくなった結果として、国民の経済活動を妨害、破壊する活動が戦争行為としての性格を帯びたこと。

防衛産業がますます民間部門の産業に依存を強めると、それらの間に区別を設けることは困難です。現代の戦略爆撃の理論でも指揮中枢を中心に、基幹産業、インフラストラクチャー、住民、そして戦闘配置にある軍隊という五種類の目標を設定しています。

こうした目標をあえて狭く設定する戦略理論に限定戦争の理論がありますが、これが登場するのは核戦争の危険が認識されるようになった後のことです。この議論はまた別の機会に。

全体戦争の理論は戦略家にとって非常に重要なものです。
というのも、私たちは普段、軍事と非軍事を区別して安全保障を考えていますが、ルーデンドルフが指摘しているのは「戦争に結び付かないものは存在しない」ということなのです。
戦略で最も難しいのは戦争を見る視野を広く持つことです。あらゆる活動や施設が攻撃目標になりうるということは戦略家であればだれもが一度は考え抜かなければならない問題だと思います。

KT

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