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中国軍の近代化の成果が研究者によって評価されている

習近平政権は中国軍の大規模な改革を推進しており、その動向は世界中の専門家や研究者の注目を集めています。 特に米国では中国軍の能力を調査しているため、この改革の影響が継続的に分析されており、2019年には米国防大学出版会から『 習近平主席が作り変える人民解放軍:中国の軍制改革を評価する(Chairman Xi Remakes the PLA: Assessing Chinese Military Reform) 』が出版されました。 文献情報 Phillip C. Saunders, Arthur S. Ding, Andrew Scobell, Andrew N.D. Yang, and Joel Wuthnow, eds.  Chairman Xi Remakes the PLA: Assessing Chinese Military Reform , National Defense University Press, 2019. これは米国防大学やランド研究所などの研究者が集まって行った2016年から2017年の研究会の成果をまとめたものです。論集として出版されているのですが、いずれの論文にも共通している特徴は、2015年から2016年にかけて習近平政権が主導した大規模な改革の軍事的影響を分析していることです。 2015年、中国軍に7個あった大軍区が5個の戦区に再編されることや、30万名の人員を大胆に削減することが決定されました。 また弾道ミサイルなどの装備を運用する第二砲兵がロケット軍という独立軍種として再定義され、宇宙作戦やサイバー作戦を遂行する戦略支援部隊が創設されています。 これ以外にも装備体系や教育訓練の刷新など、軍備の近代化に関するさまざまな改革が同時並行的に実施されています。 2017年10月の党大会で習近平は「2035年までに国防と軍隊の近代化を基本的には実現」すると明言しているので、この時期を目標に中国軍の戦闘力が最も高まるように改革を進めるものと予測されます。 この文献では改革が中国軍の戦闘力に与える影響が多面的に分析されているのですが、その結果はそれほど単純ではありません。 確かに中国軍は戦力を統合的に運用する能力を向上させ、将来の情報戦に適応する準備を進めていますが、まだ多くの課題が残されていることも事実です。 例えば、中国軍の...

論文紹介 兵士の士気を保つ要因は何か―軍事社会学者の分析―

軍隊の戦闘効率にとって士気が極めて重要であるということは疑問の余地がありません。士気とは戦闘に進んで参加する兵士の心理的状態であり、これが部隊の中で共有されることによって、戦闘力を効果的に発揮することが可能になります。 しかし、士気の発揚にとってどのような要因が重要なのかについては、さまざまな議論があります。 今回は、第二次世界大戦におけるドイツ軍の士気について軍事社会学の方法で分析している有名な研究成果の一部を紹介してみたいと思います。 論文情報 Shils, E. A., & Janowitz, M. (1948). Cohesion and disintegration in the Wehrmacht in World War II. Public Opinion Quarterly, 12(2), 280-315. プロパガンダで士気は維持できない 1939年に第二次世界大戦が勃発した頃、評論家や専門家の多くがドイツ軍の士気の高さをプロパガンダの巧妙さで説明しようとしていました。 つまり、ドイツ軍は自国の兵士に対する心理的操作が優れているからこそ、士気を保つことができている、という考え方が主流だったのです(Shils and Janowitz 1948: 280)。 しかし、戦後に改めて分析が進むと、著者らはこうした通説が間違っているのではないかと考えるようになりました。 つまり、ドイツ軍の心理戦の能力が特に優れていたから士気を維持できたと主張することには無理があることが判明してきたのです。 「過去3年間におけるドイツ陸軍の士気と戦闘効率に関する研究は、そのような仮説に対して数多くの疑問を投げかけている。というのも、科学的な厳格さに立脚して追及されてきたそれら研究によれば、ドイツ陸軍の忠誠心は政治的な確信や広い意味での民族的な信念から非常に間接的、部分的な影響しか受けていないことが見出されている」(Ibid.) それまでの理解はナチ党が展開するプロパガンダのイメージに引きずられているところがあり、より客観的な観点から説明の仕方を見直すべきだと著者らは指摘します。 その代わりに出された説が親密な個人的関係を共有する一次的集団(primary group)を重視するものでした。 小さな社会集団こそ士...

文献紹介 どのように歩兵小隊の戦術は変わってきたのか

戦術の発展を促してきた要因は一つではありません。その時代、その地域に主流だった隊形や編制、武器や装備など、多くの要因が相互に影響し合っています。 しかし、兵役制度が戦術思想の発展に与えた影響は比較的理解されているところが少ないかもしれません。 今回は、20世紀の兵役制度の変化が歩兵小隊の戦術をどのように変化させたのかを考察した社会学者アンソニー・キングの研究を紹介したいと思います。 文献情報 King, Anthony. 2013. The Combat Soldier: Infantry Tactics and Cohesion in the Twentieth and Twenty-First Centuries . Oxford: Oxford University Press. 歩兵小隊の戦術が重要な理由 この研究は20世紀に徴兵制から志願制へ兵役制度の移行が進む中で、陸軍の歩兵戦術、特に歩兵小隊の戦術にどのような変化が生じていたのかを研究したものです。 20世紀初頭の各国陸軍では徴兵制によって人員を集めることが一般的でしたが、戦闘効率で問題を抱えていたことを著者は指摘しています。 「20世紀の大衆軍(mass armies)は近代的な武器を使用させる上で集団行為の問題の解答を探し求めるために努力した。市民からなる歩兵部隊は、集団としての戦闘効率で問題を抱えていた」(King 2013: 60) つまるところ、徴兵制で集めた兵士で効率的な戦い方を行わせることには限界があったということです。 また著者は第二次世界大戦で兵士の行動を調査したマーシャルの有名な研究を取り上げ、第一線における兵士の発砲率の低さが指摘されていたことを紹介していますが、この研究も徴兵制で作り上げた陸軍の戦闘効率の低さを示唆しているものだと評価しています(Ibid.)。 しかし、マーシャルをはじめとする過去の研究は、この戦闘効率の改善が進んだ背景として、兵役制度の影響を十分に考察しておらず、この研究はその空白を埋めるためのものとして位置付けられています。 戦術単位としての歩兵小隊の成立 著者の調査によれば、19世紀末から20世紀初頭の歩兵戦術は短間隔、つまり密集した状態で部隊が行動することが前提とされていました。 この思想はプロイ...

学説紹介 下士官の権威で兵卒は戦う

戦場で兵士を戦わせることは大変難しい仕事です。敵前で戦列を乱し、指揮官が射撃を命じても発砲を躊躇し、挙句の果てには旗色が悪いと逃げ出す者まで出てくるのが戦場の実態でした。 軍事学者は19世紀頃から心理学的アプローチによって、兵士の統制や士気に関する問題に取り組むようになるのですが、今回は兵卒を戦わせるために下士官が果たす役割を心理学者デーブ・グロスマン(Dave Grossman)がどのように考察しているかを紹介したいと思います。 攻撃行動につきまとう心理的負担 軍隊の戦闘効率を向上するためには、武器や戦術の問題の前に、すべての兵卒が戦場で集団的な攻撃行動に参加していなければなりません。 ところが兵士全員に照準具の向こう側にいる敵を攻撃させようとしても、見も知らない他人に対して自分から攻撃を加えることを避けたいという心理が働いてしまいます。 敵との物理的、心理的な距離が小さくなるほど、殺人に対する心理的負担は大きくなる傾向があるため、敵と最前線で対峙する兵卒ほど攻撃を回避する傾向が強まっていきます。こうなると戦闘部隊の効率性は致命的なレベルにまで低下してしまいます。 グロスマンはこうした攻撃行動に伴う心理的負担を軽減するため、現場に指揮官が直接命令を達することが重要であると指摘しており、次のように論じています。 「この問題を研究したことがない人は、兵士が敵を殺す際の指揮官の影響をさほど重視しないかもしれない。だが、戦場を経験したことのあるものはそんな愚は犯すまい。1973年の研究において、クランス、カプラン、およびクランスの3人は、兵士が発表する理由を調査している。戦闘経験のない人は、「撃たないと撃たれるから」というのが決定的な理由だと考えたが、戦闘経験者が最大の理由として挙げたのは「撃てと命令されるから」だった」(邦訳、グロスマン、244頁) 実はこのような心理はイェール大学の心理学者スタンリー・ミルグラムによって実証されたことがあり、ミルグラム実験として広く知られています。 ミルグラム実験で分かる攻撃と服従の心理 ミルグラム実験の概略図。実験の略図。被験者であるTは、Lに問題を出して解答を間違える度に電気ショックを次第に強くするよう、実験者Eから命令される。実験ではLはEと打ち合わせし、電気ショックで苦しく様子を演じ...

学説紹介 どうすれば士気を高めることができるか

Staff Sgt. Katherine Spessa. Feb. 17, 2017.  士気(morale)は部隊に所属する各個人の心理状態を合わせたものであり、戦闘効率を高める重要な要因として位置付けられています。 統率力(リーダーシップ)を発揮して士気を高めることは、指揮官が任務を遂行する上で欠かすことができないといえます。 今回は、アメリカ海軍協会から刊行された統率論の参考書に沿って、部下の士気を高めるために必要な措置に関する解説を紹介したいと思います。 士気は小さいことの積み重ねである Lance Cpl. Sarah Stegall. Jan. 4, 2017.  Basic Warrior Training is a 48 hour training evolution that covers land navigation. 古来から軍人は士気を高めることの重要性を認識し、統率者の使命はこれを高いレベルに保つことだと考えてきました。 というのも、士気が低下すれば部隊の能力は低下し、転属や退職を願い出る者、規律を乱して事故を起こす者、最悪の場合には命令に従わないなどの重大な事態にまで発展する危険があるためです。 軍隊の戦闘力への影響で見れば、物理的要因の3倍の効果を心理的要因が及ぼすとナポレオンが主張したことは決して誇張ではありませんでした(アメリカ海軍協会、226-7頁)。 しかし、部下の士気を高めることは決して簡単な仕事ではなく、日頃の地道な取り組みがなければ士気を改善することができないと文献でも述べられています。 「「士気とは小さいことの積み重ねである」といわれている。これほど、この重要な要因を正確に表したものはあるまい。なぜならば、人間に満足感を覚えせしめるすべてのものは士気を増強し、個人としての人間を煩わすすべてのものは士気を低下せしめるからである」(同上、227頁) こうした士気の複雑性は、手っ取り早い改善策が存在しないことの裏返しでもあります。 士気とは究極的には各個人の心理状態に起因するものですので、生活状況、食事、住宅、規律、給与、職務内容のすべてが影響してきます(同上)。 こうした諸条件において、その個人が集団の一員として重要な働きをしてい...

論文紹介 クルスクの戦いは軍事理論で説明できるか

軍事学が取り組む課題の一つに、ある条件の下で発生した戦闘の勝敗や損害を説明したり、事前に予測することがあります。地形や兵力等の諸条件からその戦闘の結果をうまく説明できれば、それは学術的に価値があるだけでなく、軍事教育の現場でも役に立ちますし、ある事態が生起した場合に国家として確保すべき兵力の規模やそれに見合った予算の規模を見積もることも理論的には可能となります。 今回は、軍事理論の中でも火力評点アプローチを応用し、第二次世界大戦のクルスクの戦い(battle of Kursk)の結果を説明できるかどうかを検討した研究を紹介したいと思います。 文献情報 Ramazan, Gozel. 2000. Fitting Firepower Score Models to the Battle of Kursk Data , Master's Thesis, Monterey: Naval Postgraduate School. 火力評点アプローチとは何か まず、この研究の狙いについて著者は次のように説明しています。 「戦闘単位のレベルによって戦闘モデルは2種類に分類される。一つ目はそれぞれの戦闘車両または兵士が単位として明確に表現される高分解能な戦闘モデルがある。二つ目は低分解能(集約的)な戦闘モデルであり、これは大隊以上の規模の部隊が単位である。集約の問題は、長年にわたって多くの研究者が取り上げてきた。損害の方法論に関する多数の研究では、ランチェスターの法則のような主題から、歴史的、工学的、経験的なデータソースの対立といった主題、さらに火力評点のような評点体系の組み合わせに関する主題があった。本稿が主とする目標は、低分解能(集約的)な戦闘モデルにおける消耗の問題に対して火力評点のアプローチが持っている妥当性である」(Ramazon 2000: xxiv) ここで著者が述べている損害の問題とは、その戦闘で発生する人的、物的な損失のことです。損害の規模は戦闘でもたらされる結果の中でも最も重要なものであり、彼我の損害の大きさの比率は戦闘の勝敗にとって決定的な意味を持っています。 火力評点(firepower score)アプローチは軍事理論で部隊の能力を数値化する手法の一種のことをいいます。ある基準に基づいて付与された武器の価値を部隊ご...

学説紹介 戦闘で兵士の内面で何が起きるのか

戦場から戻ってきた兵士はその経験を生涯にわたって忘れることはありません。 その経験は兵士でない人々にとって理解しがたいことが多く、退役軍人は社会復帰しても深い孤独感にさいなまれることがしばしばあります。 軍事心理学の研究者たちは、戦闘という経験が兵士の心身の健康状態にどのような影響を与えるのかを長年考察してきました。 今回は、マーシャルとシャイの研究成果を紹介し、それらに基づいて戦闘経験が精神状態に与える影響を考察したいと思います。 戦闘ストレスから逃れようとする兵士 第二次世界大戦、太平洋戦域で従軍する米軍の兵士たち。マーシャルの研究によって実際に戦闘行動に参加して射撃している兵士が極めて少数であることを解明し、その後の戦闘訓練の考え方に大きな影響を及ぼした。: - National Park Service (National Archives). Marines mopping up Tinian Island drop into firing positions when enemy is sighted. マーシャルは第二次世界大戦に従軍したアメリカ軍の兵士を調査し、軍事心理学の研究を発展させることに大きく貢献した研究者です。 彼は兵士に戦闘を回避しようとする一般的な傾向があるという大胆な仮説を打ち出したことでよく知られています。 彼の研究成果によれば、戦闘において実際に自分の武器を使用しているのは全体の15%から20%だと見積もられており、その原因として戦闘が兵士に与える身体的、心理的なストレスが大きいためであると説明されています。 ここで述べているストレスとは、必ずしも戦闘で自分の命を危険に晒すことだけではありません。 マーシャルによれば、兵士は敵を殺傷する行為そのものに対する嫌悪感を持っており、その遂行にストレスを感じてしまうのです。 したがって、戦闘ストレスは殺される恐怖だけでなく、殺すことへの恐怖が複合して生じていることになります。 この画期的な研究は軍事訓練のあり方を見直す必要性を強く示唆していました。従来の方法であれば、兵士をうまく戦闘に従事させることができないことは明らかでした。 後にマーシャルは朝鮮戦争にも派遣され、兵士の低い発砲率を改善するための訓練方法の研究に取り組み、55%程...

精鋭の証明

ある国の軍隊の強さは印象論的な方法で説明されることが多いと思いますが、先行研究ではより定量的な取扱い方で説明することも検討されています。 戦闘理論における戦闘効率値(Combat Effectiveness Values, CEV)は、部隊の質の高さを表す指標の一つであり、デュピュイ(Trevor N. Dupuy)の代表的な研究では次のように定義されています。(赤軍と青軍の二つの部隊が交戦する場合の定義です) 赤軍の戦闘効率値=(赤軍の戦果/青軍の戦果)/(赤軍の戦闘力/青軍の戦闘力) ここでは戦闘力質的要素は考慮しておらず、純粋な規模を表しています。また、戦果についても敵に対して与えた人的損害等から判定されているものです。 この定式で軍事力の効率を測定すると、どのようなことが分かるのでしょうか。 デュプイはこの定式を用いて第二次世界大戦における米軍、英軍、ドイツ軍の戦闘を分析したところ、次のような結果を得ています。 ここでは第二次世界大戦で戦った主要な師団の戦闘回数と、その師団の戦闘効率値の平均値がまとめられています。 これらの部隊の戦闘効率値を分析すると多くの知見が得られます。 例えば、国家別にまとめて平均すると、ドイツ軍が全般的にアメリカ軍、イギリス軍よりも効率的に戦うことが多かったことが分かります。 二次大戦におけるドイツ軍、イギリス軍、アメリカ軍の主力師団の平均戦闘効率値。 ドイツ軍は1.1、イギリス軍は0.76、アメリカ軍は0.84となっている。 ここで高いレベルの戦闘力を示していた部隊のトップ3がいずれもドイツ軍の部隊であることであることは、ドイツが効率的な軍事力を構築する能力に優れていたことを示しています。 米軍の部隊で最優秀だったのは第5位の第88師団、英軍で最優秀だったのは第11位の第46師団でしたが、全般として見ると英米軍の部隊はドイツ軍の部隊ほど質的側面で優れていたとは認められません。 もう一つ指摘するべきは、戦闘の経験の豊富さが必ずしも高い戦闘効率と結び付いているとは言えない点です。 ドイツ軍の第3装甲擲弾兵師団は17回の戦闘を経験していますが、平均した戦闘効率値は1.17とドイツ軍の他の主要な師団と比べて高くなっているわけではありません。 米軍の第88師団は戦闘の回数は...