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海外の研究者が解説する日本のイージス・アショアの配備中止

2020年6月17日、河野太郎防衛大臣は陸上に配備するタイプの弾道ミサイル防衛システムである「イージス・アショア」を国内に配備する計画を中止すると発表し、日本だけでなく、米国の専門家をも驚かせました。 この問題は2020年7月6日に米国有数のシンクタンクであるランド研究所でも取り上げられており、アジア太平洋の安全保障を専門とする政治学者ホーナング(Jeffrey Hornung)が解説しています。 Jeffrey W. Hornung, Japan Is Canceling a U.S. Missile Defense System, Commentary(Foreign Policy), RAND, July 6, 2020.  https://www.rand.org/blog/2020/07/japan-is-canceling-a-us-missile-defense-system.html (7月13日) ホーナングの解説によれば、この決定は理解できるものであり、日米同盟に与える影響は否定できないものの、克服することができる性質のものだとされています。 今回の配備計画の中止の理由については、防衛省として二つの理由が示されてました。 一つ目の理由は、迎撃のために発射するミサイルのロケット・ブースターが周辺地域に落下し、住民の生命と財産を脅かす可能性を完全に取り除くことが難しいというものでした。 第二の理由として、この危険を除去するために、ソフトウェアを改修することが検討されたものの、ミサイルのハードウェアを再設計しなければならない可能性が高く、18億ドルの追加経費と10年の開発期間を要する見積が出されました。 これら二つの要因を総合すると、イージス・アショアの配備に伴う危険は許容できず、またその解決は合理的な費用の範囲では不可能だったと理解することができます。 ホーナングはこの防衛省の説明に関連して、日本がイージス・システムを調達することを決めた当初に作成した見積を上回る費用が既に発生していることを指摘しています。 「イージス・システムの購入、運用、維持にかかる費用は当初、30年間の運用期間で21.5億ドルと見積もられていたが、18億ドルの追加費用を差し引いても41億ドルに膨れ上がっていた」 ホーナングは政治的な反発があったことにも言及していますが、この要因...

学説紹介 嘉手納を弾道ミサイル攻撃から守り抜けるか

沖縄県の嘉手納飛行場は台湾に最も近接した米軍基地であるだけでなく、第一列島線上に位置する空軍基地でもあります。 米軍の対中作戦において嘉手納のような基地は戦力投射能力の基盤としての意味を持っていますが、これが弾道ミサイル攻撃で機能停止に追い込まれる危険はどれほどあるのでしょうか。 今回は、中国軍の弾道ミサイルの脅威を踏まえ、嘉手納飛行場の防空問題に関する分析を取り上げ、最近のデータも交えてその要点を紹介したいと思います。 弾道ミサイル攻撃の被害見積 1977年に撮影された嘉手納飛行場の航空写真、国土交通省作成 元海兵隊員で、米海軍大学校の元教授のMarshall Hoylerは嘉手納に対する弾道ミサイル攻撃について次のような想定で検討しています。 「中国が嘉手納の滑走路を破壊しようとすると想定しよう。高い命中精度のミサイルがあれば、わずか12発の単一弾頭で実行することができるだろう。6発の弾頭は3,700メートルの滑走路を3つに分断することが可能であり、戦闘機はおろか、AWACSや輸送機も着陸することができなくなる」(Hoyler 2010: 94) さらにHoylerは滑走路だけでなく、地上に配備された機体もクラスター弾を搭載したCSS-6を40基ほど使用すれば一掃できると推計しています(Ibid.: 95)。 ちなみに、CSS-6(DF-15)は射程が600kmの短距離弾道ミサイルであり、中国では1990年から配備が確認されています。 2017年版の『ミリタリー・バランス』では推定81基保有していると報告されており、CSS-7(DF-11)の推計数と合計すると、短距離弾道ミサイルは189基と見積もられています(Military Balance 2017: 279)。 ただし、嘉手納飛行場には15カ所の掩体壕が設置されているので、それらに格納していれば、ある程度の被害軽減を図ることは可能とも指摘されています(Hoyler 2010: 95)。 中国軍の攻撃要領としては、まず滑走路を破壊し、航空機の離陸を封じてから、シェルターで防護されない機体をクラスター弾で広範囲に破壊する、という手順になるだろうとHoylerは判断しています(Ibid.)。 嘉手納飛行場の防空能力 PAC-3を整備する米兵、実戦での使...

論文紹介 敵地攻撃能力から考える日本の防衛

現在、日本が戦略として採用する基本的な考え方は専守防衛に依拠しています。 政府の公式見解によれば、専守防衛とは相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する自衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢と規定されます。 そして、戦略より下位の作戦、戦術はすべてこの戦略に基づいて組み立てられるのです。 今回は、この専守防衛を採用する日本が弾道ミサイルの脅威に対応する上で必要とする敵地攻撃能力の意義と限界を、戦略的観点から考察した論文を紹介したいと思います。 文献情報 高橋杉雄「専守防衛下の敵地攻撃能力をめぐって――弾道ミサイル脅威への1つの対応――」『防衛研究所紀要』第8巻第1号、2005年10月、105-121頁 敵地攻撃と国土防衛は矛盾しない 正規空母「ロナルド・レーガン」の飛行甲板。洋上から固定翼機を発進させることができる正規空母は、攻撃的能力を強化する代表的な装備と見なされていることから、現在の日本では整備されていない。 専守防衛のような受動的な防衛戦略を宣言しているのは、必ずしも日本だけではないのですが、著者は攻撃的能力の保持を厳格に自制してきた点に特異性があると見ており、「他国に対する攻撃性を極小化した防衛力を構築してきた」と述べています(高橋, 106頁)。 これは攻撃的能力に該当する装備として、射程や航続距離等から大陸間弾道ミサイル、戦略爆撃機、航空母艦等を保持しない方針を日本が堅持していることを意味しますが、これらの装備は必ずしも国土防衛の考え方に矛盾するわけではありません。 そもそも攻撃的能力を持つことが侵略的意図を持つことを必ずしも意味せず(同上)、現に多くの国家が侵略的意図を持つことなくこうした装備を運用しているためです(同上、107頁)。 純粋に自国の防衛だけを追求した戦略であっても、単に防御を固めるばかりではなく、状況によっては攻撃に移行する必要があることを、著者は次のように説明しています。 「相手が自国を攻撃するのを防ぐために、自ら敵地を攻撃して敵の軍事力を撃破することは、『攻勢防御』あるいは『積極防御』と呼ばれる防御的な軍事戦略の1つである。また、純粋に防御に徹しているだけでは、ある程...

軍事的観点から考える水爆の重要性

2016年1月に北朝鮮が水爆実験に成功したことを発表したことが世界で大きなニュースとなっています。しかし、核兵器にあまり詳しくない人にとっては、原爆と水爆の相違がそれほど重要な理由も分かりにくいものと思います。 もちろん、北朝鮮の水爆実験成功の報道が完全に間違いであり、心理戦の一手段に過ぎないという可能性も大きいのですが、この機会に水爆の開発が核戦略において重要な意味を持つ理由を歴史的事例から説明してみたいと思います。 水爆の研究が始まったきっかけソ連の核保有 1949年8月、ソ連が最初の原爆実験に成功したことによって、アメリカは核の独占を失うことになりました。1948年のベルリン危機の経験からソ連の脅威を強く感じていたアメリカ大統領トルーマンにとって、これは重大な安全保障上の危険でした。 すでにソ連は核兵器の研究を次の段階に進めていると判断し、アメリカ政府も直ちに原爆より優れた性能を持つ大量破壊兵器の研究を進め始めます。歴史的に見れば、これが米ソの核開発競争の出発点となりました。 アメリカがまず考えていたのは、次世代型の核兵器はより高出力かつ軽量小型でなければならないという構想でした。 当時、核兵器は非常に重かったので、敵国の政経中枢に投射するためには専用の大型爆撃機が必要でした。もし核兵器をより小型化することができれば、戦場の第一線に展開する地上部隊のような軍事目標に対しても使用可能であると期待されたのです。このような目標は都市住民よりも広範囲に分散展開しており、しかも部隊としての生存性を高めるための防護手段もあるため、より高威力の核兵器でなければなりませんでした。 熱核融合爆弾の基本的な原理とは ここで着目されたのが熱核融合爆弾であり、これが現在では水爆と一般に呼ばれているものです。 そもそも原爆とは、ウラニウム235やプルトニウム239という質量が極端に重い元素の原子核を分裂させ、それが放出するエネルギーを破壊力として利用した爆弾のことです。しかし、この方式でより大きな爆発力を得るためには、ウラニウムやプルトニウムといった熱核材料が大量に必要であり、どうしても大型化、重量化してしまいます。 しかし、水素のような軽い元素の原子核を融合させた時に放出されるエネルギーを破壊力として利用できれば非常にエネルギー効率がよく、小型でありなが...

論文紹介 航空母艦に将来性はあるのか

海軍の歴史を振り返ると、それは技術革新の歴史であったことが分かります。内燃機関の導入、砲弾の威力向上、軍艦の機能分化、装甲艦の一般化など新たな技術が登場すれば、それは海上戦闘の様相を一変させ、引いては国際政治の勢力関係を変えてきました。 今回は、20世紀の海軍史に大きな影響を与えた航空母艦を取り上げ、21世紀における将来性について評価した研究論文を紹介したいと思います。 文献情報 Rubel, Robert C. 2011. "The Future of Aircraft Carriers." Naval War College Review , 64 (4): 13–27. この論文で著者は教義という観点から米海軍における空母の運用を考察した上で、現在の海軍を取り巻く技術的環境を分析し、両者を総合することで空母の将来性を評価しています。 空母の発達と主力艦としての運用 当初、米海軍における空母の運用は情報収集を主眼としたものでした。これは軍事目的での航空機の運用が(第一次世界大戦における)陸上作戦の航空偵察から始まったことが関係しており、いわば空母は海上で偵察機を運用するためのプラットフォームとして位置付けられていたのです(Rubel 2011: 15)。しかし、このような空母の運用は航空機の性能が改善されるにつれて変化していきました。 米海軍で空母が戦闘で決定的役割を果たすことが認識されるようになった契機は第二次世界大戦であり、日本海軍による真珠湾攻撃、米海軍によるドゥーリットル空襲で一撃離脱を基本とする空母の集中運用の有効性が確認されることになります(Ibid.)。 それまで海軍では主力艦(capital ship)という用語は主として排水量が大きく、砲力に優れた艦艇に対して用いられてきましたが、航空攻撃の威力が増大するにつれて空母も主力艦としての役割を果たし得るという考え方が広がり、主力艦の一種として見なされるようになります(Ibid.: 15-6)。 技術革新による空母の脆弱性の増大 第二次世界大戦が終結すると、空母の新たな役割として核攻撃のプラットフォームが追加されることになりました。核ミサイルを塔載した原子力潜水艦の運用が確立されるまでの間、空母は洋上から戦略爆撃機を発進させるという任務を担い、核...

論文紹介 安定的抑止(stable deterrence)とは何か、なぜ重要なのか

1970年代、米国ではソ連軍による核戦力の増強にどう対処すべきなのか議論が起きていました。 個別誘導多弾頭、潜水艦発射弾道ミサイルなど、それまで米国が技術的に独占していた分野でソ連が次第に追い付き始め、戦略環境が大きく変わりつつあったためです。 今回は当時の論争にも大きな影響を与えたケーハン(Jerome H. Kahan)の論文を取り上げ、米国が追求すべきは安定的抑止であるという考察について紹介します。 文献情報 Kahan, Jerome, H. 1971. "Stable Deterrence: A Strategic Policy for the 1970s," Orbis , 15. Summer, pp. 528-543. 安定的抑止とは何か 著者の核戦略の考え方は、ソ連が一定程度の抑止力を持つことを認めながら、米国の核戦略を調整すべきだというものでした。 これが安定的抑止の基本的な戦略思想であり、そのため第一撃に対する脆弱性を低下させることが最優先事項とされていました。 「1970年代の米国にとって確実な戦略的政策は次の二つである。(1)確実かつ多様な抑止力を維持し、報復能力に高い信頼度を与えること。(2)ソ連の抑止力を脅かすようなシステムあるいは戦略をとらないこと。このような政策を『安定的抑止(stable deterrence)』と呼ぶ」 つまり、著者はソ連の核戦略を一方的に破綻させるような戦略をとるのではなく、相互に共存できる範囲で互いの核戦略を規定することを目指すべきだと考えていたのです。 「抑止は二面性を持つため、米国はその計画がソ連の戦力・政策・認識に対して与えうる効果についてよく知らなければならない。もし米国の計画がソ連の抑止を危険にするとソ連が認識すれば、ソ連は米国からの第一撃を恐れることは間違いない。危機に対して先制攻撃を始める傾向がより強まってしまう。このような条件では核戦争の危険が増大することになる。その報復能力を保全するためにはソ連は戦略戦力を拡充、改革するに違いない」 いわば、相手の攻撃を完全に阻止する特徴を持つ武器や戦略は、相手の攻撃を抑止することができると同時に、相手が自国の攻撃を抑止することを困難にしてしまう二面性があるということです。 相手はもはや自国を抑止す...