スキップしてメイン コンテンツに移動

投稿

ラベル(交戦)が付いた投稿を表示しています

論文紹介 陸軍の格闘指導官が必要だと考える訓練期間とメンタル・スキルについて

軍隊は有限な時間と労力で兵士に教育訓練を施し、一定の効率で任務を遂行できるようにしなければなりません。つまり、教育訓練の合理化は軍隊の最重要課題の一つであり、そのためには多くの調査研究が重ねられてきました。格闘訓練もその例外ではありません。 今回は、格闘訓練に必要とされる時間がどの程度なのか、特にどの項目を集中的に指導すべきなのかについて考察した論稿を取り上げてみたいと思います。 論文情報 Susan Goodman. Combat Feedback from US Army Combatives Instructors, Infantry , July-September 2017, pp. 14-18. 格闘訓練にどの程度の所要時間を見積もるべきか 戦争を遂行する上で兵士が習得すべき技能の種類は多くありますが、格闘もその一つです。 現代のイラク戦争でも格闘技術の必要性は変わっておらず、イラクに派遣された歩兵旅団に所属する兵士のおよそ4分の1が8カ月の間に徒手格闘の技術を必要とする場面に遭遇したと報告されています(Goodman 2017: 14)。 また別の研究でも2004年から2008年にかけて戦闘任務に19%の兵士が格闘技術を使用したことが報告されています(Ibid.)。 小銃射撃や部隊単位の戦闘訓練などの訓練との兼ね合いも考えなければなりませんが、基本的に兵士にとって格闘技術は必要な技能だということが分かります。 問題は適切な訓練の時間ですが、著者が訓練指導官に調査した結果として得られた所要時間の平均値は79.69時間でした(Ibid.)。 ただし、興味深いことに多くの格闘指導官が一致して毎月、毎週にわたって定期的に訓練を実施すべきだとも主張しており、戦闘員として所要の練度に到達するためには1週当たり4.46時間の訓練が必要であると考えていることが分かりました(Ibid.)。 なぜそれだけの時間を必要とするのか根拠を調査したところ、無意識に格闘技術が使用できる自動化と、状況に応じた技術の選択ができるようになる適応化のために、それだけの時間が必要だと説明されていました。 特に格闘技術の自動化は特に重要だと過半数の指導官(81.48%)が報告しており、定期的な訓練を実施しなければ、成果を出すことは難しいとされていま...

学説紹介 現代海軍戦術を学ぶための4つの概念:攻撃、打撃、交戦、戦闘

今日の陸軍の戦術の研究では、師団、旅団などの部隊の戦術だけでなく、より小規模な部隊の戦術も研究されるようになっています。 このような研究動向は海軍の戦術にもあり、海戦における戦術行動より小さな戦術行動が分析の対象になっています。 今回は、海軍の戦略・戦術の研究で世界的に知られたアメリカ海軍大学校の教授ミラン・ヴェゴ(Milan N. Vego)の著作を取り上げ、現代の海軍戦術を分析する上で基本となる4つの概念、攻撃、打撃、交戦、戦闘の意味の違いに関する彼の考察を紹介したいと思います。 海軍戦術の基本となる攻撃(attack)の範囲 ヴェゴの説明によれば、海軍の戦術行動の範囲には敵と接触する前に実施する哨戒から戦闘に至るまで多岐に渡る行動が含まれます。 それらの行動は複数の艦艇・航空機(以下、プラットフォーム)で実施される場合もあれば、完全に単独で実施される場合もあるため、これらを一つの枠組みで分析することには問題があります。 多種多様な海軍の戦術行動を分類整理するためには、戦闘(海戦)よりも小さな規模の戦術行動を区分することが必要であり、ヴェゴは攻撃、打撃、交戦、戦闘という4種類のカテゴリーを設けることを唱えています。 「海上部隊と航空部隊の戦術的運用に関する主な方式とは、攻撃(attack)、打撃(strike)、交戦(engagement)、戦闘(battle)である。   攻撃とは小規模な戦術的目標を達成するために、単一または複数のプラットフォームによって実施される戦術的な機動と射撃を組み合わせたものである。…(中略)…攻撃は水上艦艇、潜水艦、航空機によって発射されるミサイル、魚雷、ASW装備、爆弾などによって実施される。通常、交戦あるいは海戦の一部を構成しているが、独立して実施されることもあり得る」(Vego 2013: 129) ここで述べられている攻撃とは、使用するプラットフォームや武器の種類によって容易に分類できるような単純な戦術行動であり、分析で最も基礎的な単位になります。 この攻撃という概念が次に述べる打撃を考える際にも基本となります。 主要な戦術行動に位置付けられる打撃(strike) 4種類のカテゴリーの中でヴェゴが攻撃の上位に位置付けている戦術行動、あるいはそれを包括すると見なされている...

学説紹介 戦場における歩兵と戦車―グデーリアンが考える諸兵科連合―

第一次世界大戦で戦車が初めて実戦に投入されて以来、この新兵器をどのように運用すべきかをめぐって議論が交わされてきました。 ある者は歩兵を支援する兵器として戦車を位置付け、ある者は戦車を独立して運用すべき兵器として位置付けたのです。 今回は、ドイツ陸軍軍人である グデーリアン が戦間期に歩兵と戦車の協同についてどのように考察していたのかを取り上げ、複数の兵科の部隊を協同させる諸兵科連合(combined arms)の観点からそれにどのような意義があったのかを考察してみたいと思います。 歩兵と戦車の協同はどうあるべきか グデーリアンは第一次世界大戦の戦闘を経験して以来、戦車の役割に関する論争が二つの陣営に分かれて繰り広げたことを紹介しています。 一方の論者は歩兵こそ唯一無二の「戦場の女王」であると考え、それ以外の兵科は歩兵部隊を援助する役割を果たすべきだと主張しました(邦訳、グデーリアン、393頁)。 すなわち、歩兵部隊が徒歩で戦場を移動している間、機甲部隊は動く楯のように歩兵の前方で行動するべきだということです(同上)。 この思想に反対するのが機甲部隊の独立を主張する論者であり、彼らはその機動力を活用して敵の側背を突き、さらに縦深にわたって敵陣地を突破するという新しい戦術運用を構想していました。 このことによって、防御陣地に立て籠もる敵部隊を奇襲することが可能となり、塹壕戦で手詰まりになる事態を避けようということです(同上、394頁)。 グデーリアン自身の思想は基本的に後者のものでしたが、諸兵科連合という観点から見て機甲部隊と歩兵部隊との協同が重要であることも認識していました。次の記述からもそのことが読み取れます。 「他兵科との協同は、装甲部隊にとって必要なことである。それ単独では(他の兵科もまたそうであるように)、与えられる戦闘任務のすべてを遂行できないからだ。装甲部隊には他兵科の部隊と協同する義務があるし、逆もまた真なり、他兵科の部隊が恒常的に戦車との協同用に配されているとあらば、なおさらである」(同上、394頁) 機甲部隊の独立性が重要だとしても、機動力が全く異なる二つの兵科を戦場でどのように運用すべきかという問題への解答にはなりません。 将来の戦争で歩兵と戦車の協同を実現するためには、戦術の観点から詳細な分析が求めら...

学説紹介 戦場で小隊長は何をしているのか―歩兵小隊の組織構造と小隊長の役割について―

時代や地域を超えて、歩兵部隊は常に陸軍の中核的戦力であり続けてきました。 歩兵は文字通り最前線において徒歩で近接戦闘などを遂行する兵科であり、主たる武器は小銃、機関銃、迫撃砲です。 今回は、そんな歩兵小隊がどのように編成されているのかについて、米軍の教範を参考にしながら、戦術の観点から解説してみたいと思います。 そもそも歩兵小隊とは何か 標準的な陸軍の編制として、小隊は分隊の上位、中隊の下位に位置付けられる部隊です。 部隊の規模もさまざまですが、30名から50名程度で編成される場合が多いようです。 現在の米軍の教範では、その組織について次のように説明されています。 「歩兵小隊は、3個の歩兵分隊、武器分隊、小隊本部によって編成される。小隊本部は小隊隷下の分隊及び随伴する部隊を指揮統制し、火力支援システムと後方支援システムとの連絡調整を行う。すべての歩兵小隊は戦闘において教義として定められた同じ基本原則を用いるが、それらの原則を応用する方法については、任務を割り当てた部隊によって異なる」(FM 1.11-1.12) 米軍では歩兵分隊の規模が9名とされ、小銃、自動小銃、擲弾などの装備を使用する人員で編成されるのですが、武器分隊(Weapon Squad)だけは機関銃、対戦車誘導弾といった装備を運用する人員がおり、必要に応じて通常の歩兵分隊を支援できるようになっています。さらに小隊本部には小隊長をサポートする小隊陸曹、小隊無線手がいます。 歩兵小隊は小隊本部(PLT HQ)、3個の歩兵分隊、武器分隊(WPN SQD)で構成されている。 小隊本部には小隊長、小隊陸曹、無線通信手が、武器分隊には機関銃班、対戦車班がある。(FM 31-8: 1.12)を参照。 以上が歩兵小隊の大まかな組織構造であり、状況にもよりますが、攻撃の時には100メートルの正面にわたって分隊を展開し、防御の時にはその2倍の正面を担当する場合もあります。 こうした数値を踏まえると、小隊という部隊の規模は交戦の際に全体を一目で見通すことができる、ぎりぎりの規模だと言えるかもしれません。 したがって、小隊長の仕事として求められるのは、現場で状況の変化に素早く反応し、必要な指揮をとることであると理解することができます。 小隊長は何をすればいいのか さて、この...

文献紹介 戦術学をゼロから学ぶ人への入門書

最近、戦術に関する入門書が少しずつ増えているようで、大変喜ばしいことだ思います。 しかし、戦術について何も知らない読者は、その書籍の内容がどれほど優れているのか、またどのような問題があるのかを判断できないため、その議論をそのまま受け取ってよいのか困ることも少なくないようです。 今回は、今年出版された戦術の入門書を取り上げ、その内容について簡単なコメントを行ってみたいと思います。 文献情報 木本寛明『戦術の本質 戦いには不変の原理・原則がある』サイエンス・アイ新書、SBクリエイティブ、2017年 戦いの原則から始まる堅実な解説 戦術学の研究文献にもさまざまなタイプがあり、思想的・概念分析的アプローチによるものもあれば、歴史的・定性分析的アプローチによるもの、そして理論的・定量分析的アプローチによるものなどがあります。 この著作は思想的・概念分析的アプローチに重きが置かれており、歴史的事例の分析や数理モデルの議論はほとんど出てきません。 その代わりに、初めて戦術に関心を持った読者が基本概念を幅広く理解することが目指されています。 著者が研究の基礎としているのはイギリス陸軍軍人フラー(J.F.C. Fuller)が提唱した「戦いの原則」です。 これは1924年に英陸軍が刊行した『野外要務令第2部』に初めて記載されたもので、後に米陸軍、陸自の教範にも影響を与えました。 その中には目標を確立してそれを徹底的に追及するという目標の原則や、戦闘で敵に対して主動的地位を確立することの意義を説いた攻勢の原則などがあり、『戦術の本質』の第1章「戦いには不変の法則がある」はほぼこれらの原則の解説に費やされています。 ストライカー旅団戦闘団に焦点 第2章以降は米陸軍の教範の記述に沿って戦術のさまざまなテーマについて説明がなされており、特に第2章「戦いの基盤」においては戦闘力の構成要素にどのようなものがあるのかが論じられています。 ここで印象的なのは、著者はあまり歴史上の部隊編制の分析に踏み込むことを避け、ストライカー旅団戦闘団(SBCT)のような現代の部隊に絞って紹介している点です。 SBCTはネットワーク化された米陸軍の歩兵部隊であり、3日間程度の戦闘を独立して遂行する能力を備えています。 SBCTは高度な指揮統制システ...

文献紹介 どのように歩兵小隊の戦術は変わってきたのか

戦術の発展を促してきた要因は一つではありません。その時代、その地域に主流だった隊形や編制、武器や装備など、多くの要因が相互に影響し合っています。 しかし、兵役制度が戦術思想の発展に与えた影響は比較的理解されているところが少ないかもしれません。 今回は、20世紀の兵役制度の変化が歩兵小隊の戦術をどのように変化させたのかを考察した社会学者アンソニー・キングの研究を紹介したいと思います。 文献情報 King, Anthony. 2013. The Combat Soldier: Infantry Tactics and Cohesion in the Twentieth and Twenty-First Centuries . Oxford: Oxford University Press. 歩兵小隊の戦術が重要な理由 この研究は20世紀に徴兵制から志願制へ兵役制度の移行が進む中で、陸軍の歩兵戦術、特に歩兵小隊の戦術にどのような変化が生じていたのかを研究したものです。 20世紀初頭の各国陸軍では徴兵制によって人員を集めることが一般的でしたが、戦闘効率で問題を抱えていたことを著者は指摘しています。 「20世紀の大衆軍(mass armies)は近代的な武器を使用させる上で集団行為の問題の解答を探し求めるために努力した。市民からなる歩兵部隊は、集団としての戦闘効率で問題を抱えていた」(King 2013: 60) つまるところ、徴兵制で集めた兵士で効率的な戦い方を行わせることには限界があったということです。 また著者は第二次世界大戦で兵士の行動を調査したマーシャルの有名な研究を取り上げ、第一線における兵士の発砲率の低さが指摘されていたことを紹介していますが、この研究も徴兵制で作り上げた陸軍の戦闘効率の低さを示唆しているものだと評価しています(Ibid.)。 しかし、マーシャルをはじめとする過去の研究は、この戦闘効率の改善が進んだ背景として、兵役制度の影響を十分に考察しておらず、この研究はその空白を埋めるためのものとして位置付けられています。 戦術単位としての歩兵小隊の成立 著者の調査によれば、19世紀末から20世紀初頭の歩兵戦術は短間隔、つまり密集した状態で部隊が行動することが前提とされていました。 この思想はプロイ...

論文紹介 市街戦でも榴弾砲は活用できる

砲兵はその強力な火砲の威力を随時、随所に発揮し、歩兵や戦車の攻撃前進を支援することができます。 しかし、砲兵火力は市街地に立てこもる敵が相手になると、さまざまな建物で弾道が妨げられ、その威力を発揮しにくいという問題もあります。 今回は、そんな砲兵部隊が市街戦で火力を発揮するため、どのような射撃方法を採るべきかを考察した砲兵科下士官の論文を紹介したいと思います。 論文情報 Coyle, Patrick J. "Indirect Fire in MOUT," Infantry , Vol. 72, No. 2(March-April 1982), pp. 11-13. 市街地に数多く生じる死角の問題 市街地は部隊行動にとって狭隘なだけでなく、無線通信が通じにくいことも多く、部隊は容易に現在地を見失います。これら事情によって砲兵部隊は市街地でさまざまな戦術問題に直面することになります。 高層建築物で掩護された目標に対してどのように射撃を行うのかもその一つといえます。 この論文で著者が取り上げているのは、市街地に特有の高層建築物で掩護された射撃目標、いわば砲兵にとって死角に潜む目標を榴弾砲で撃破する方法です。 「これら弾道学的な諸問題の基本とは、都市部における目標に対して射撃を行う間接照準射撃装備〔火砲〕の限界である。この問題は火砲から放たれた砲弾の落角(angle of fall)と建築物の高さが組み合わさることで生じる。この組み合わせが間接照準射撃にさまざまな大きさの死角をもたらし、そこに適当な数の砲弾を到達させることができなくなる」(Coyle 1982: 11) 落角とは射撃用語の一種であり、弾道の原点から延びる延長線と砲弾が落下する際に描く線とが交わる角度をいいます。地面に対する砲弾弾道の入射角とイメージしてもよいでしょう。 いくら強力な榴弾砲といえども、射撃の目標となる敵陣地や敵部隊が建築物で掩護されていれば、命中させることは物理的に不可能です。 これは高層建築の密度が高まる都市中枢において特に深刻な問題であり、この地区に突入する歩兵部隊は必要な火力支援を要請できないということになってしまいます。 しかし、著者はそのことを理由に砲兵火力の利用をあきらめるのではなく、市街戦に特有の砲兵火力の利用方...

学説紹介 どうすれば士気を高めることができるか

Staff Sgt. Katherine Spessa. Feb. 17, 2017.  士気(morale)は部隊に所属する各個人の心理状態を合わせたものであり、戦闘効率を高める重要な要因として位置付けられています。 統率力(リーダーシップ)を発揮して士気を高めることは、指揮官が任務を遂行する上で欠かすことができないといえます。 今回は、アメリカ海軍協会から刊行された統率論の参考書に沿って、部下の士気を高めるために必要な措置に関する解説を紹介したいと思います。 士気は小さいことの積み重ねである Lance Cpl. Sarah Stegall. Jan. 4, 2017.  Basic Warrior Training is a 48 hour training evolution that covers land navigation. 古来から軍人は士気を高めることの重要性を認識し、統率者の使命はこれを高いレベルに保つことだと考えてきました。 というのも、士気が低下すれば部隊の能力は低下し、転属や退職を願い出る者、規律を乱して事故を起こす者、最悪の場合には命令に従わないなどの重大な事態にまで発展する危険があるためです。 軍隊の戦闘力への影響で見れば、物理的要因の3倍の効果を心理的要因が及ぼすとナポレオンが主張したことは決して誇張ではありませんでした(アメリカ海軍協会、226-7頁)。 しかし、部下の士気を高めることは決して簡単な仕事ではなく、日頃の地道な取り組みがなければ士気を改善することができないと文献でも述べられています。 「「士気とは小さいことの積み重ねである」といわれている。これほど、この重要な要因を正確に表したものはあるまい。なぜならば、人間に満足感を覚えせしめるすべてのものは士気を増強し、個人としての人間を煩わすすべてのものは士気を低下せしめるからである」(同上、227頁) こうした士気の複雑性は、手っ取り早い改善策が存在しないことの裏返しでもあります。 士気とは究極的には各個人の心理状態に起因するものですので、生活状況、食事、住宅、規律、給与、職務内容のすべてが影響してきます(同上)。 こうした諸条件において、その個人が集団の一員として重要な働きをしてい...

敵前で休止するときは前哨を忘れずに

前哨(outpost)とは、休止する部隊がその敵方に向けて出す小規模な警戒部隊のことです。その状況の危険度に応じた兵力で主力を敵の監視や襲来から掩護することが前哨の役目です。 今回は、米軍の教範に沿って、最も危険度が大きい状況に用いられる戦闘前哨(combat outpost)の要領について紹介し、どのような戦術的考察がなされているのかを紹介したいと思います。 戦闘前哨の任務とは何か 戦闘前哨の配置例を示した状況図 前哨本隊の警戒方向に対して視界が良好な2カ所の地点に哨所を配置している (FM 3-90-2: 3-24) 戦場といっても毎日間断なく銃弾が飛び交っているわけではありません。 特に動きがない時期もあり、にらみ合いが続くことになります。 しかし、ただにらみ合っているわけでもなく、実際には敵と味方が相手の戦力や配備を探ろうと斥候を密かに送り込むことが一般的です。 前哨はこうした敵の斥候を発見し、また可能であれば射殺、捕獲することによって、主力の安全を確保しているのです。 戦闘前哨はこうした前哨の機能に加えて、ある程度の規模の敵襲を受けても、主力が態勢を整えるまで、持ち堪えて時間をかせぐことが求められます。 それだけに、通常よりも強力な武器や装備を戦闘前哨は保有していなければなりません。 とはいえ、戦闘前哨の任務は自ら進んで敵と戦うことではありません。 あくまでも戦闘前哨は敵襲の可能性が高い地域で主力が敵から監視されることを防ぎ、また安全を確保することにあります。 「戦闘前哨は限定的な戦闘行動を遂行できる強化された前哨である。戦闘前哨を用いることは、その地域を監視することを妨げるほど険しい地形で警戒部隊を運用する技術である。戦闘前哨はより小規模な前哨では警戒区域に敵部隊が進出し、突破する危険に晒される恐れがある場合にも使用される。指揮官は戦闘前哨を用いることで、警戒区域の縦深を拡げることや、敵の主力を監視できるまで前方に我の前哨を保持し、または敵の部隊によって囲まれる可能性がある前哨の安全を確保できる」(FM 3-90-2: 2-24) 上図は戦闘前哨の配備の一例を示したものですが、中央の前哨本隊が敵方の警戒方向に向かって監視所を設けていることが分かります。 この場合、河川の対岸から通報を受けた前...

演習問題 小斥候か、部隊斥候か

斥候(patrol)は戦闘、偵察、警戒などの任務のために本隊から派遣される部隊です。 通常、斥候に当たる部隊は1個分隊程度ですので、下士官が斥候長となる場合が多いのですが、状況によっては1個小隊規模の斥候が派遣される場合もあるため、そうなると士官が斥候長になるという場合もあります。 今回は、中隊レベルの観点から斥候に関する簡単な問題を示し、それについて考察してみたいと思います。 そもそも斥候とは何か 斥候(patrol)とは厳密には部隊のことであって、任務のことではありません。例えば米陸軍では次のように斥候について説明しています。 「斥候とは、特定の戦闘、偵察、または警戒の任務を遂行するために、より大きな部隊によって派遣される。斥候の編成は直近の任務に一時的かつ具体的に対処する。斥候は任務ではなく、組織のことをいうため、ある部隊に「斥候」の任務を与えると語ることは正しくない」(FM 3-21.8: 9.1) つまり、斥候は主力から離れてさまざまな任務を遂行する分遣隊であり、任務によってその内容が規定されるものではありません。 捜索や偵察のために斥候が送られることもあれば、戦闘のために送られる場合もあります。次に示す定義もそうした斥候の役割の幅の広さが述べられています。 「敵情、地形その他諸種の状況を偵察・捜索させるため、部隊から派遣する少数の兵士をいう」 「情報資料の収集又は戦闘行動の実施のために、部隊主力から派遣された分遣隊をいう」(『防衛用語辞典』231頁) ただし、斥候は分隊や小隊と異なっているのは、敵地で主力から離れて行動する分遣隊であるということです。 つまり斥候長には指揮官として程度の戦術能力が必要だということです。中隊や大隊の一部として動くのではなく、状況の変化に応じた指揮をとれる人物が求められます。 適切な斥候の規模を考える ここでは次のような状況を想定しておきたいと思います。 我が方のA国は隣接するB国と戦争状態にありますが、まだ両国の国境地帯ではまだ本格的な戦闘が発生していません。 A国の主力である青師団は国境から離れた地点で動員を行っており、直ちに行動に出ることができない状態にあります。 しかし、情報によると本日未明にB国の騎兵がすでに国境付近に進出したとのことです。越境したのか...

狙撃手にも独自の戦術運用がある

狙撃手の主な任務は監視と狙撃にありますが、戦術上の役割がどのようなものかは理解しずらいところがあります。 広い視野で捉えれば、狙撃手は小銃手や機関銃手、迫撃砲手のように重要な歩兵部隊の一要素に位置付けられます。 しかし、狙撃手の戦術的運用は通常の歩兵部隊と大きく異なることは確かなので、その特性について知らなければなりません。 今回は、米陸軍の野戦教範に沿って狙撃手の戦術的運用について紹介してみたいと思います。 狙撃手の役割 通常、狙撃手は分隊、小隊、中隊に配属されることはあまりなく、大隊レベル以上の部隊で運用されています。 戦術上の機能は大きく分けて二つあり、一つは敵部隊が持つ小銃や機関銃のような小火器の射程外から重要な目標を殺傷、破壊すること、もう一つは味方が持つ他の武器体系を使用することが難しい場合に目標を殺傷、破壊することです。 「狙撃手と観測手は、歩兵中隊の作戦において重要な役割を果たす。狙撃手は大隊レベルよりも下位の部隊では滅多に配属されることがないため、それぞれの歩兵分隊は選抜射手を有している。部隊の狙撃手は部隊の編成表において認められた配置を介して配属される。高度に訓練された狙撃手は、正確性と差別性に富んだ長射程の小火器火力を指揮官に与え、緊要地形と接近経路を直接観察できる。狙撃手の射撃または長射程の精密射撃を最もよく使う二つの方法は、集団的に使われる小銃または自動火器の射程外から重要な目標を狙うこと、または射程、規模、位置、可視性、警戒、ステルス性能のために、その他の武器体系で破壊できない目標を狙うことである」(FM 3-21.8: E1) その武器の特性として、狙撃手は多数の目標を短期間で撃破するような射撃ができません。 しかし、他の火力にはない大きな心理的影響を与えることができ、敵の活動を中断させ、士気低下を引き起こし、混乱を拡大させることも可能です。 「狙撃手の戦術、戦技、要領は重要かつ詳細な敵情を直接収集し、中継することを可能にする。狙撃手の有効性は、死傷者または破壊された目標以外のもので測定される。指揮官は、狙撃手が敵の活動、士気、決心に対しても影響を与えることを知っている。狙撃手が存在することが分かると、敵の移動が妨げられ、混乱が発生し、個人的な恐怖が続く。また、敵の作戦と準備を中断し、狙撃手に...

学説紹介 戦術家でもあったリデル・ハート:機械化歩兵の着想

リデル・ハート(Basil Liddell Hart, 1895-1970) といえば、間接接近(indirect approach)の概念で知られる著名な戦略家であり、特に機動戦の研究に大きな影響を与えたことで知られています。しかし、彼の研究領域は決して戦略だけに限定されておらず、戦術にまで及んでいました。このことは、初期の研究の内容に特に反映されています。 今回は、歩兵戦術におけるリデル・ハートの研究成果を再検討し、それが持つ意義を現代の観点から考察してみたいと思います。 歩兵戦術の近代化に貢献したリデル・ハート リデル・ハート(Basil Liddell Hart, 1895-1970) イギリスの軍事学者、主著に『戦略論』、『抑止か、防衛か』等 もともとリデル・ハートが本格的に軍事学の研究に取り組むきっかけとなったのは、第一次世界大戦を経験したことがあり、その出発点となったのは歩兵戦術の研究でした。リデル・ハートは1914年から1924年(除隊は1927年)までの軍務を通じて歩兵戦術の近代化のために研究努力を重ねたのです。 リデル・ハートは1914年、つまり第一次世界大戦が勃発した年に陸軍に入隊します。西部戦線に送られたのは勃発から少し時間が経った1915年9月のことでしたが、その後のソンムの戦いで負傷してしまいました。しばらく病院で治療した後に義勇兵の訓練に従事しています。 リデル・ハートが最初に刊行した著作が1918年の『義勇兵部隊のための新歩兵訓練要綱(Outline of the New Infantry Training, Adopted to the Use of the Volunteer Force)』であったのは、この時の経験があったためです。この著作はすぐに『歩兵訓練の新手法(New Methods in Infantry Training)』として再刊されています(Liddell Hart 1918)。 この著作は短い著作であり、また学術文献というよりも教育資料としての性格が強かったのですが、戦術の観点から見て一つの新しい思想が盛り込まれていました。それは歩兵部隊の戦闘行動の基本単位を分隊とすべきだ、という考え方でした。 この考え方は1919年に発表された論文「戦闘部隊の将来的発展に関する提言」でさ...

不眠不休の軍隊は敗北する

戦闘を遂行するに当たり、指揮官は部隊の健康状態を適切に管理し、その人的戦闘力を維持する必要がありますが、そのために気を付けなければならない問題が睡眠時間の確保です。 睡眠の剥奪が健康状態に与える影響は極めて大きいことは知られていますが、それが部隊の戦闘力に与える影響については必ずしも十分に議論されておらず、具体的な数値が示されることも多くありません。 今回は、野外衛生の観点から睡眠剥奪のリスクについて説明した米陸軍の野外教範の記述を紹介し、それが人的戦闘力に及ぼす影響について考えてみたいと思います。 睡眠剥奪の心理的影響 米陸軍の教範では、戦闘ストレスを軽減し、部隊の人的戦闘力を維持する上で、睡眠の重要性が指摘されています。その具体的な症状がいくつか紹介されています。 ・(最後の睡眠から)24時間後:不十分または新規に学習した活動、単調な活動、警戒を要する活動の効率が低下 ・36時間後:情報を記録し、理解する能力の著しい低下 ・72時間後:あらゆる活動の効率が通常と比較した場合に50%の効率に低下 ・3日から4日後:精神的、身体的要素を含めて、集中的な作業に制約があり、特に生物化学兵器などを用いた状況においては、この段階またはそれ以前から幻覚が発生する可能性あり ・特に0300時から0600時は一日の中でパフォーマンスが最も低下する時間帯(FM 3-21.10:A-13) 睡眠不足の症状として特徴的なのが、血走った目、支離滅裂な発言、ふらつき、顔面蒼白、茫然自失などですが、それ以外にも士気の低下(環境に対する無関心や、活動レベルの低下)、記憶の喪失、言語の不明瞭、情報を理解する所要時間の増加、短期記憶の喪失、集中力の欠如、標準作業の間違いなども生じてきます(Ibid.)。 睡眠の不足は第一線で戦う兵士の戦闘ストレス耐性を低下させる恐れがありますが、さらに影響が大きいのが指揮官に対する影響です。 教範によると、「素早い反応、複雑な推論、詳細な計画立案を要求されるため、指揮官は睡眠剥奪の影響を最も受けやすい。指揮官は睡眠をとらなければならない。自制心のある指揮官は、睡眠を取らないことは逆効果であると認識し、睡眠をとるための措置をとるものである」(Ibid.)と述べられています。 適切な睡眠時間を奪われた場合、最初に制約を受けるの...

論文紹介 現代の戦場に格闘は必要なのか

現代の戦場で一般にイメージされるのは、小銃、機関銃、携帯無反動砲などを使った戦闘でしょう。それにもかかわらず、現代においても多くの軍隊で格闘の研究や訓練が続けられています。これは果たして軍事的に合理的なことだと言えるのでしょうか。 この疑問に答えるためには、戦場で兵士が格闘技術をどれだけ使用しているのかを調査する必要があります。 今回は、2004年から2008年にかけて米軍で実施された格闘技術の使用実態に関する研究成果を紹介してみたいと思います。 文献情報 Peter R. Jensen. 2014. Hand-to-Hand Combat and the Use of Combatives Skills: An Analysis of United States Army Post-Combat Surveys from 2004-2008 , West Point: Center for Enhanced Performance, U.S. Military Academy. 戦場での徒手格闘の特徴 格闘という言葉からテレビで見る柔道や総合格闘技のようなスポーツをイメージするかもしれませんが、軍隊で訓練される格闘技術は徒手格闘の技術だけでなく、武器格闘の技術も含まれており、すべて戦闘状況が想定されているため、根本的に別のものです。 まず、徒手技術を構成する技術には、当身技、投げ技、関節技、絞め技があり、武器技術とは小銃、銃剣などを使用した打撃または刺突が含まれています。 もちろん、武器格闘で使用が想定される武器は小銃や銃剣だけでなく、えんぴや棍棒なども含まれています。軍隊の格闘はスポーツではないため、特別な制約が課されているわけではありません。 研究の背景について述べておくと、米陸軍では1990年代以降になって格闘の研究が重視されるようになっていった経緯があります。現在米陸軍で採用されている格闘技術は1995年に第2レンジャー大隊が中心となって策定した現代陸軍格闘計画(Modern Army Combatives Program)の成果を踏まえたものが中心となっており、これは実戦で起こりうる格闘にも対応できるように配慮されたものでした(Jensen 2014: 1)。 その後、米陸軍格闘学校(U.S. Army Comb...