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2017年7月13日木曜日

論文紹介 市街戦でも榴弾砲は活用できる

砲兵はその強力な火砲の威力を随時、随所に発揮し、歩兵や戦車の攻撃前進を支援することができます。
しかし、砲兵火力は市街地に立てこもる敵が相手になると、さまざまな建物で弾道が妨げられ、その威力を発揮しにくいという問題もあります。

今回は、そんな砲兵部隊が市街戦で火力を発揮するため、どのような射撃方法を採るべきかを考察した砲兵科下士官の論文を紹介したいと思います。

論文情報
Coyle, Patrick J. "Indirect Fire in MOUT," Infantry, Vol. 72, No. 2(March-April 1982), pp. 11-13.

市街地に数多く生じる死角の問題
市街地は部隊行動にとって狭隘なだけでなく、無線通信が通じにくいことも多く、部隊は容易に現在地を見失います。これら事情によって砲兵部隊は市街地でさまざまな戦術問題に直面することになります。
高層建築物で掩護された目標に対してどのように射撃を行うのかもその一つといえます。

この論文で著者が取り上げているのは、市街地に特有の高層建築物で掩護された射撃目標、いわば砲兵にとって死角に潜む目標を榴弾砲で撃破する方法です。
「これら弾道学的な諸問題の基本とは、都市部における目標に対して射撃を行う間接照準射撃装備〔火砲〕の限界である。この問題は火砲から放たれた砲弾の落角(angle of fall)と建築物の高さが組み合わさることで生じる。この組み合わせが間接照準射撃にさまざまな大きさの死角をもたらし、そこに適当な数の砲弾を到達させることができなくなる」(Coyle 1982: 11)
落角とは射撃用語の一種であり、弾道の原点から延びる延長線と砲弾が落下する際に描く線とが交わる角度をいいます。地面に対する砲弾弾道の入射角とイメージしてもよいでしょう。

いくら強力な榴弾砲といえども、射撃の目標となる敵陣地や敵部隊が建築物で掩護されていれば、命中させることは物理的に不可能です。
これは高層建築の密度が高まる都市中枢において特に深刻な問題であり、この地区に突入する歩兵部隊は必要な火力支援を要請できないということになってしまいます。

しかし、著者はそのことを理由に砲兵火力の利用をあきらめるのではなく、市街戦に特有の砲兵火力の利用方法を考えるべきだという立場をとっています。

砲弾の落角を大きくせよ
この問題を解決する最も単純な方法は陣地転換であり、邪魔になっている建築物を避けるように火砲を移動させるべきです。しかし、これは敵を掩護する建築物が1カ所だけに存在する場合にしか通用しません(Ibid.)。

そこで第二の方法として著者が提案するのは、地面に対する砲弾の落角を可能な限り大きく調整するという方法です。分かりやすくいえば、砲弾が弾道の頂点に達してから地面に落下するまでの角度を大きくするような射撃をせよ、ということです。
まるで迫撃砲の射撃について話しているようですが、著者がここで念頭に置いてるのはまぎれもなく榴弾砲であり、榴弾砲も市街戦ではこのような射撃方法を行うべき場合があると論じているのです。

このような射撃をすれば敵の対砲迫レーダーで容易に部隊の場所が特定されてしまうことは明らかなので、著者の主張は一見すると不可思議に思えるかもしれません。しかし、著者はこの方法には戦術的な正当性があるとして、次のように論じています。
「対砲迫レーダーを回避するため最小限の射角で射撃せよと指示する陸軍の現行教義と、この問題解決法は明らかに対立している。しかし、これは二つの理由で市街戦において許容可能なリスクである。第一に、市街地の地形は対砲迫レーダーの精度を低下させる。第二に、射角を増すことによって高層建築物のより近くに火砲を前進させることが可能となり、敵の間接照準射撃の死角に入ることになる」(Ibid.)
つまり、市街戦では地形の影響で射撃音が乱反射するため、砲兵部隊の場所が特定されるリスクは野戦よりも大幅に小さくなります。さらに、射角を大きくとれば建築物の近くで火砲を使用できるため、砲兵部隊も装備を建物で掩護しながら射撃可能できると著者は訴えているのです。

詳細な実施要領は伏せられていますが、著者は155ミリ榴弾砲のような装備でも適用可能な方法だと示唆しており(Ibid.)、市街戦における米陸軍の砲兵射撃の考え方を抜本的に見直すことを促しています。

実施の際に注意すべき事項
ただし、このような運用方法には注意事項があるとも著者は述べています。それは射角を小さくするほど掩護に使う建物から火砲を離しておく必要があることと関係があります。

もしその火砲が1070ミル(*)以上の射角で射撃を行っている場合、掩護として使う建物の高さの半分に当たる距離を超えて火砲を接近させてはいけません(Ibid.: 12)。
また800ミルよりも大きな射角で射撃を行う場合、その建物の高さと同じだけの距離を確保しなければなりません(Ibid.)。
最後に、535ミルよりも大きな射角で射撃を行う場合、建物の高さの2倍の距離を確保するようにすべきです(Ibid.)。

著者は以上の原則さえ覚えておけば、地面に対する砲弾の落角を大きくすることが可能となり、建物が密集する地区の目標であっても撃破できると述べています。

むすびにかえて
現代の戦争でも市街地は防御者に有利な地形であり、砲兵火力を発揮しにくい地形であるという事情は大きく変わっていません。
著者の研究はそうした状況を受け入れたとしても、砲兵火力の利用を全面的に断念すべきではなく、その地形に応じた射撃によって火力支援を行うことが戦術的に可能な場合があることを示唆してみせたのです。

提案の実用性についてはより詳細な検討が必要ですが、市街戦における砲兵部隊の戦術について理解を深めることに繋がる興味深い議論だと思います。

補足(*)ミルは射撃で一般的に使用されている角度の単位であり、1ミルは円周の6400分の1の弧に対する角度をいいます。もしある基線に対して1ミルの角度をつけて射撃を行えば、1000メートル先で基線から1メートル離れたところに弾丸は命中すると見積もることができます。

KT

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