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2017年3月12日日曜日

演習問題 小斥候か、部隊斥候か

斥候(patrol)は戦闘、偵察、警戒などの任務のために本隊から派遣される部隊です。
通常、斥候に当たる部隊は1個分隊程度ですので、下士官が斥候長となる場合が多いのですが、状況によっては1個小隊規模の斥候が派遣される場合もあるため、そうなると士官が斥候長になるという場合もあります。

今回は、中隊レベルの観点から斥候に関する簡単な戦術的問題を示し、それについて考察してみたいと思います。

そもそも斥候とは何か
斥候(patrol)とは厳密には部隊のことであって、任務のことではありません。例えば米陸軍では次のように斥候について説明しています。
「斥候とは、特定の戦闘、偵察、または警戒の任務を遂行するために、より大きな部隊によって派遣される。斥候の編成は直近の任務に一時的かつ具体的に対処する。斥候は任務ではなく、組織のことをいうため、ある部隊に「斥候」の任務を与えると語ることは正しくない」(FM 3-21.8: 9.1)
つまり、斥候は主力から離れてさまざまな任務を遂行する分遣隊であり、任務によってその内容が規定されるものではありません。捜索や偵察のために斥候が送られることもあれば、戦闘のために送られる場合もあります。次に示す定義もそうした斥候の役割の幅の広さが述べられています。
「敵情、地形その他諸種の状況を偵察・捜索させるため、部隊から派遣する少数の兵士をいう」
「情報資料の収集又は戦闘行動の実施のために、部隊主力から派遣された分遣隊をいう」(『防衛用語辞典』231頁)
ただし、斥候は分隊や小隊と異なっているのは、敵地で主力から離れて行動する分遣隊であるということです。つまり斥候長には指揮官として程度の戦術能力が必要だということです。中隊や大隊の一部として動くのではなく、状況の変化に応じた指揮をとれる人物が求められます。

適切な斥候の規模を考える
ここでは次のような状況を想定しておきたいと思います。
我が方のA国は隣接するB国と戦争状態にありますが、まだ両国の国境地帯ではまだ本格的な戦闘が発生していません。A国の主力である青師団は国境から離れた地点で動員を行っており、直ちに行動に出ることができない状態にあります。

しかし、情報によると本日未明にB国の騎兵がすでに国境付近に進出したとのことです。越境したのかどうかははっきりしません。敵情を把握するため、師団長は師団主力とは別に、先遣隊として1個大隊を国境地帯に向かわせることを決めます。大隊長は国境地帯に進出した敵を発見するため、払暁と同時に現地に向かう一本道を前進すると決心し、行進縦隊の隊形をとらせて、その前衛には歩兵中隊1個を配置します。

このようにして戦争の最前線に送り込まれることになった前衛の歩兵中隊ですが、この中隊には3個の小隊があり、各小隊の勢力はそれぞれ3個分隊だと想定します。
すると、中隊長は中隊が前進する際に、その前方にどのような斥候を出すのかを考察しなければなりません。もし中隊長の立場であれば、その斥候の勢力はどの程度の規模であるべきだと考えるでしょうか。

(1)軽快に敵に接近できる二名から三名の小斥候
(2)小規模な敵と遭遇しても交戦できる分隊規模の部隊斥候
(3)本格的な交戦も可能な小隊規模の部隊斥候

適当な斥候の勢力は状況によって異なる
この問題を考える上でポイントとなるのは、この状況でどのような危険が考えられるのかということです。
現時点の情報だけでは、その騎兵がどの程度の部隊の規模なのかを正確に判断できません。ただし、越境が事実だと仮定した場合、敵の騎兵隊もこれから進む道路を前進していると考えられるため、主力が不意に遭遇することがないように、斥候を出して敵情を探る必要があります。

そうなると(1)の小斥候の案は選択肢から排除されます。というのも、敵部隊が接近している場合、我だけでなく敵も斥候を出してくるはずだからです。しかも、それが騎兵斥候であるとすれば、いくら軽快な小斥候といっても機動力が違いすぎます。我が方の小斥候は騎兵突撃に抵抗することも、また追撃から逃れることもできずに撃破されてしまうでしょう。

そこで部隊斥候を出すべきという判断になります。部隊斥候であれば敵の騎兵部隊が小斥候を出してきたとしても、一定時間ならば抵抗する術もありますし、その間に誰かを主力に送って敵情を報告させることもできます。
ただし、部隊斥候のためにどの程度の規模の部隊を使うべきかという問題を考えなければなりません。

斥候は本隊から離れて行動する分遣隊ですので、中隊長は行進の途中で斥候の様子を直接うかがうことはできませんし、当然のことながら命令を出すことも困難です。
中隊の戦力の3分の1にも当たる1個小隊を部隊斥候にすると、中隊の戦力は分断され、戦術の原則である戦力の集中は実現困難となってしまうでしょう。
斥候の基本的な役割はあくまでも地形を偵察し、敵を捜索し、情報をもたらすことにあります。もし(3)のように本格的な交戦を予期した部隊を出すとすれば、それは斥候というよりも前衛(advanced guard)と呼ぶべきでしょう。以上の考察から、(2)の1個分隊を斥候とすることが原案となります。

むすびにかえて
斥候はさまざまな運用の仕方があるため、ここで述べた斥候はそのほんの一例にすぎません。米陸軍の教範でもその運用の幅が非常に広いことが指摘されています。
「斥候任務は、本隊付近の警戒の斥候から、敵地深層への襲撃までさまざまである。斥候を成功させるためには、詳細な緊急時計画と十分に訓練された小規模部隊の戦術が必要である。計画された活動によって斥候の種類が決まる」(FM 3-21.8: 9.2)
だからこそ、斥候を理解することは戦術的に大事なことです。斥候を状況に応じて適切に使いこなす方法を知っておけば、敵情をより効率的に察知することができるようになりますし、また敵の小斥候を我の部隊斥候で駆逐できれば、敵は我が方について知り得ることがますます少なくなっていきます。

KT

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参考文献
真邉正行『防衛用語辞典』国書刊行会、2000年
U.S. Department of the Army. 2007. Field Manual 3-21.8: The Infantry Rifle Platoon and Squad, Washington, D.C.: U.S. Department of the Army.

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