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2016年8月18日木曜日

海上で強制外交を成功させるには

国家は自らの政策を遂行する手段として軍隊を保有していますが、それを積極的に使用する事態は可能な限り避けなければなりません。
しかし、相手国が軍事力を背景とした現状変更の動きを示すとなれば、我が国としても軍事力をもって現状維持のために抵抗する用意があることを相手国に知らしめなければなりません。

国際関係、外交の研究では、我が国の武力をもって相手国の脅迫を制止するためには、どのような外交方策が必要であるかが研究されてきました。
今回は、特に海上において強制外交を成功させるために、どのような条件があるのかを考えてみたいと思います。

強制外交とは何か
強制外交(coercive diplomacy)とは、本格的な武力紛争を回避しつつ、相手国の望ましくない行動を撤回させるために、我が国に武力行使の準備があることを誇示して行う外交の一形態です。
強制という用語が持つ語感から、現状打破を試みる外交と勘違いされることもありますが、あくまでも強制外交は現状維持のための外交であり、いわゆる武力を背景にした脅迫に対抗する外交として位置付けられます。

例えば、政治学者のジョージは、強制外交の趣旨について、「相手が納得するのに十分な信頼性があると思わせるような、不服従のための報復の脅威を伴って、相手に要求を撤回させること」を追求するものだと説明しています(George 1991: 4)。
これは現状維持という目的から強制外交を定義したものと理解できます。
つまり、強制外交は本質的に攻撃的な特徴を持つ脅迫(blackmail)とは区別すべきものであり、防御的な方策として理解しておかなければなりません。

政治学の文献では、強制外交の重要性を示す事例として、しばしばキューバ危機を取り上げています。
1962年、ソ連はキューバに対して核ミサイルの提供を含む軍事支援を実施しました。
米国は本土を射程に収めるミサイルを深刻な脅威と判断し、ソ連の動きを止めるために、海上封鎖を行いながらソ連との折衝を重ねました。最終的に、米国はトルコに配備していたミサイルを撤去することを条件として、キューバからのミサイルの撤去にソ連を同意させ、核戦争勃発を回避することができました。

この事例からも分かるように、強制外交は硬軟織り交ぜた外交技術であり、一方で平和を保ちながら交渉を重ねつつ、他方では戦争の準備として部隊の動員や展開を進めていかなければなりません。

強制外交と相性がよい海軍
強制外交で常に重要な問題となるのは、使用する兵力の規模とその形態です。
定説というわけではありませんが、強制外交と一般に相性がよい兵力は海上戦力であると言われており、その理由として運用上の柔軟性がしばしば挙げられています。

陸上戦力は領土とその住民を継続的に支配し続ける際には便利ですが、機動性が乏しく、一度その地域に展開すると、撤退させることも容易ではありません。
航空戦力は機動性に優れており、地理的制約を受けずに迅速かつ柔軟に展開することができますが、航空機の特性上、長時間にわたって同一の地域に展開し続けることができません。

海上戦力は、陸上戦力や航空戦力に比べれば、作戦運用において大きな柔軟性を持っています。航空戦力ほどの機動力はありませんが、それでも海上であれば世界中に迅速かつ機動的に展開し、洋上補給を受けることができれば、長期間にわたって海上に留まることも不可能ではありません。

また海面に展開する兵力の規模についても状況や作戦の方針によって必要な変更を加えやすく、陸上戦力ほど撤退に時間を要しません。
こうした理由から、強制外交にとって海軍は最も都合がよい軍種と考えられています。
敵対関係にある国家に対する強制外交だけでなく、友好関係にある国家との防衛交流を展開することもできることから、海軍を用いた外交全般を海軍外交(naval diplomacy)と総称する研究者がいることも、海軍の外交的意義を裏付けるものです(Booth 1977: 27)。

戦力の規模が一つのメッセージになる
強制外交を成功させるためには、軍事力が必要となりますが、それは陸上戦力や航空戦力ではなく、海上戦力の展開が原則として望ましいと言えます。
艦艇を派遣し、現地の状況に応じた任務を与え、相手の対応によって展開する戦力を拡大または縮小させれば、そのことが相手国の政府に伝わり、引いては外交交渉での姿勢を変化させることにも繋がります。

しかし、強制外交の問題はこれだけでは終わりません。結局、自国が戦力を展開したとしても、相手がそれについて考慮するに値しない規模だと判断すれば、強制外交は成り立たなくなるためです。これは相手国の動向に応じた戦力を自国としても展開しなければならないことを意味します。

1996年の台湾海峡危機では、中国軍が台湾海峡で演習を繰り返し実施し、その規模を拡大し、頻度も増加させるという方法で、軍事的に威嚇してきました。
具体的な活動の内容としては、台湾の港湾都市を海上封鎖し、着上陸作戦を実施し、台湾の海岸から20浬の地点にミサイルの発射実験を行い、また10万名以上の地上部隊を海峡に終結させ、公然と演習の目的が台湾の独立を阻止することであると表明したのです(Ross 2000: 15)。
この時の米国は空母を派遣して中国を牽制したとよく言われていますが、単に空母を派遣したのではなく、2個の空母戦闘群に相当する大規模な海上部隊を展開していました。

戦闘で空母を運用する場合、空母戦闘群(Carrier Battle Group, CVBG)が編成されますが、これは1隻の航空母艦または原子力航空母艦、6隻の巡洋艦、駆逐艦、フリゲート(内最低でも3隻はイージス・システム搭載)、2隻の潜水艦で構成されるもので、後方支援のために1隻の高速戦闘支援艦(Fast Combat Support Ship)も行動を共にします。
これだけでも大変な規模の戦力と言えますが、空母1隻だけでは艦隊の防空のために相当の艦載機を使用しなければならないため、実際に敵に指向できる打撃力が限定されてしまいます。
したがって、空母として最大限の打撃力を発揮するためには、空母戦闘部隊(Carrier Battle Force, CVBF)を編成する必要があります。
これは複数のCVBGの兵力を組み合わせた海上部隊であり、CVBGが8隻で編成されますが、CVBFの勢力は16隻を超える場合もあります。

少し細かい説明になってしまいましたが、要するに当時の台湾海峡危機で米国が送り込んだ戦力は、中国軍が動員した部隊の規模に見合うだけのものであり、米国として台湾を防衛するという姿勢を確固として示すものでした。中国は軍事的な不利を認めたからこそ、それ以上の行動を差し控えたと考えられるのです。

むすびにかえて

近年の中国の海洋進出にどのように対応するかは、日本にとって真剣な安全保障上の問題になっています。
これは自衛隊を出動させればよい、という単純な問題ではありません。中国は戦争に至らない範囲で緊張状態を作り出すことで、有利に外交交渉を主導しようとしています。このような相手に軍事力で問題解決を図れば、我が方にも軍事的損害が発生しますし、外交的な事態収拾が図れなくなる危険もあります。

このような状況で重要なことは、緊張事態を不必要にエスカレートさせず、かつ日本として相手の現状変更の企図を断念させることであり、そのためには強制外交を確実に実施できるように備えるべきです。
しかし、強制外交を日本の海上自衛隊だけで実施することには自ずと限界があります。相手の出方によっては非常に大規模な戦力を現場に展開しなければならないことは、台湾海峡危機の事例で述べた通りです。

一つの考え方として、有事に至らない危機的状況であっても、在日米海軍の部隊が現地に迅速に展開できるように日本として可能な限り支援することが重要でしょう。海自の即応体制を平素から強化しておくことも、強制外交の成功に寄与する取り組みだと思います。
今後、日本が中国と渡り合うためには、こうした取り組みを通じて、強制外交で有利な立場に立てるように努力すべきではないでしょうか。

KT

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参考文献
Booth, Ken. Navies and Foreign Policy, London: Croom Hlem Ltd., 1997.
George, Alenxder. Forceful Persuasion, Washington, D.C.: U.S. Institute of Peace, 1991.
Ross, Robert S.  "The 1995-1996 Taiwan Strait Confrontation: Coercion, Credibility, and Use of Force,"International Security, Vol. 25, No. 2, (Fall 2000) pp. 87-123.

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