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2016年7月16日土曜日

戦技研究 一瞬の撃発こそ優れた射手の証

引金さえ引けば銃から弾丸は発射されますが、それを遠くの目標に命中させるためには、引金の正しい引き方、つまり撃発の技術を身に着けることが射手として必要になります。
撃発それ自体は複雑な技術ではありませんが、射手が動作としてそれを身に着け、完全に無意識に実施できるようになるまでには十分な練習が必要です。

今回は、米陸軍の教範を踏まえ、撃発をどのように行うのかを解説し、射撃についての理解を深める参考にして頂きたいと思います。

撃発と呼吸法について
これはよく知られていることですが、小銃を肩づけしていると、呼吸に伴って銃が上下に動揺します。このことは激しい運動をした直後に特に顕著であり、射撃の結果に与える影響は極めて大きなものがあります。
そのため、撃発では呼吸を止めなければなりませんが、大きく分けると呼吸の止め方には三通りのやり方があります。

(1)息を吐いてから止める方法、
(2)息を吸ってから止める方法
(3)息を少しだけ吐いてから止める方法(FM 3-22.9: 4-21)

これらの方法でどれが一番よいのかは、射手の個性によって一概には言えませんが、米軍では射撃の状況に応じて使い分けるように指示されています。一つの目標を射つ場合には(1)を、咄嗟に出現した目標を射つ場合には(2)、(3)の呼吸法が示されています。
撃発時の呼吸管理について解説した図。
上が(1)の呼吸サイクルを示した図であり、息を吐いた後に呼吸を止めて撃発する。
下が(2)、(3)の方法を示したもので、息を吐く途中か、息を吸った後に呼吸を止めている。
(FM 3-22.9: 4-22)
戦場で兵士は激しく運動することになるため、走力がないと射撃の位置についてから呼吸を整えるまでに時間がかかってしまいます。
そのため呼吸管理ができなくなるほど全力疾走すると、後になってから正確な射撃に支障を来す危険も生じてきます。射撃術と直接関係のない話ではありますが、撃発する際に呼吸を安定させることができるかどうかということは、射手にとって非常に重要な意味を持っているのです。

撃発の基本的な要領
射手の手の大きさによっても多少異なる点ですが、基本的に銃の握把を右手で握ると、右手の人差し指の第一関節が引金の最も中央の部分にかかります。
この第一関節で引金を引く際の注意事項としては、まっすぐ引金を引くということが重要です。引金を深く引こうと突き出し気味に握把を握ると、まっすぐ引金を引くことができず、右斜め後ろに圧力がかかりやすくなります。
これは手に余分な力を加え、銃に不必要な動揺を加え、正確な撃発を妨げる要因となります。

米軍の教範では撃発の要領について次のように説明しています。
「適切な撃発は当初の照準の間における引金に対する弱い圧力から始めるべきである。的に対して照星が安定した後で射手はさらに圧力を加え、同時に呼吸を止める。」
「射手の技量は練習によって向上するため、射手は撃発に時間を費やす必要がある。射撃の初心者は適切な撃発に5秒を費やすが、より熟練すると、2秒かそれ以下で撃発できるようになる」(Ibid.: 4-23)
ここでも述べられているように、銃の引金には「あそび」があるため、それは照準している段階で既に引いておき、これ以上少しでも力を加えたらすぐに撃発してしまうという状態を作っておきます。

照準が定まれば、呼吸を止め、撃発する動作に入るのですが、最初はどの程度の力で引金を引けばいいのかも分からなかったり、また慎重に撃発しようとするあまり、引き後れになる場合があります。
また反対に急いで引金を引き寄せた結果、右手の筋肉の緊張が銃に伝わってがく引きになってしまうということもあります。いずれも命中を妨げる要因であり、繰り返し激発練習を行う以外に解消する方法はありません。

米軍では撃発の練習として、射手の撃発の要領を観察して指導する他に、射手の手の上から射撃教官が手を重ね合わせながら適切な撃発の要領を体験させる等の方法が述べられており(Ibid.: 4-23)、射手が具体的にどの程度の力加減で引金を引くべきなのかを体得できるような練習が重要であることが示されています。

いずれにせよ、適切な撃発を実施できるようにならなければ、せっかく姿勢が堅固で照準が正確でも命中に繋がりません。
熟練された射手は撃発はまさに一瞬の動作ですが、それは撃発にかける時間が短いほど照準、呼吸の管理も容易となり、正確な射撃に寄与するためです。
しかし、最初からそのような撃発ができるわけではないため、まずは2秒という時間を目安に撃発要領を終えることができるようにならなければなりません。

しかし、弾道というものの気難しさは右手人差し指の微妙な力加減と残りの指の緊張だけでもかなりの偏差が発生することにあります。まずは適切な力加減で撃発ができるようになることに集中し、それができるようになってから徐々に時間を短縮していくという段階を踏んでいかなければなりません。

むすびにかえて
今回の記事で取り上げなかった連射の撃発についてですが、こちらは実弾射撃で発射音を聞きながら指切りのタイミングを覚えるという、撃発とはまた別の技能が必要となります。
自分が射ちたいと思う弾数を発射した後で正確に引金を戻すことができれば、射撃の状況に応じて弾数を管理し、不意に弾倉を交換しなければならなくなる状況を避けることもできます。そのため、撃発は引金を適切に引くだけの技術というわけでもないのです。

撃発に関する話を聞いて、非常に精密な技術の話であり、普通の戦闘員にそこまでの精度が要求されるのか疑問に感じられるかもしれません。
確かに、市街地のような地形における交戦では、そこまでの精度は必要とされませんが、平野や山地で米軍が経験した戦闘の調査から、歩兵分隊の交戦距離が500メートルになる場合も珍しくないことが指摘されており(Ehrhart 2009)、射距離500で命中させる射撃術を習得していることは、やはり重要なことであると言えます。

KT

関連項目
射撃雑学 正しい銃の射ち方を理解するために
射撃雑学 狙いを付ける前に正しい見出しを

参考文献
Ehrhart, Thomas P. 2009. Increasing Small Arms Lethality in Afghanistan: Taking Back the Infantry Half-Kilometer, School of Advanced Military Studies Monographs, Fort Leavenworth: U.S. Army Command and General Staff College.
U.S. Department of the Army. 2008. Field Manual 3-22.9, Rifle Marksmanship M16-/M-4-Series Weapons, Washington, D.C.: Governmental Printing Office.

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