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2016年5月26日木曜日

論文紹介 中国の航空母艦は脅威となるのか

2012年9月25日、「遼寧」と命名された航空母艦が配備されたのは、中国海軍にとって大きな転機となりました。
「遼寧」は基準排水量53,000t、全長305mの航空母艦ですが、国内で建造された艦艇ではなく、ソ連で建造が中断された航空母艦ヴァリャーグを購入し、修理を行ったものです。航空母艦の配備によって、より遠方で海上作戦を遂行することが可能になることが期待されました。

しかし、艦艇を配備したからといって、それが本来の戦闘機能を発揮できるとは限りません。今回は、中国海軍の航空母艦の問題を考察した研究を紹介したいと思います。

文献情報
Andrew Scobell, Michael McMahon, and Cortez A. Cooper III. 2015. "China's Aircraft Carrier Program: Drivers, Developments, Implications,"Naval War College Review, Volume 69, Number 4(Autumn), pp. 65-80.

なぜ中国は航空母艦を必要とするのか
そもそも中国が防空母艦の配備が必要とした背景にはどのような判断があったのでしょうか。
著者はその要因を官僚的利益、民族主義の高まり、戦略的必要性の三つに区分して説明しています。

第一の官僚的利益としては海軍の地位向上が関係していると見られています。
それまで陸軍の影響力が強かった中国軍で海軍の発言権が増大したことを受けて、航空母艦の取得が進められており、2004年以降の中央軍事委員会では海軍の司令官が出席するようになったこともその表れであるとされています(Scobell, et al. 2015: 66-7)。

二つ目の要因として、航空母艦は民衆の民族主義的な支持を集める手段としても利用されていると述べられています。
著者は1996年の台湾海峡危機で中国が台湾に対する軍事的圧力を強めた際に、米国が2隻の航空母艦を送り込んだ経験から、海上支配を強化すべきという考え方が広がり、その世論が航空母艦の取得を後押ししていると述べています(Ibid.: 67)。

無論、こうした政治的要因だけでなく、軍事的要因が存在することについても著者は言及しています。
この要因を重視する立場によれば、1980年代初頭から中国海軍は段階的にその戦力を拡充させていく方針を定めており、2000年までに東シナ海と南シナ海、黄海を含む近海で活動が可能となるようにし、第一列島線を戦略的防衛線として確保し、2020年までには第二列島線にまで海上勢力を推進し、2050年までに地球規模に海軍を展開できるようになることを目指していると見られています(Ibid.: 67-8)。(第一列島線、第二列島線に関しては過去の記事「今さら聞けない中国軍の接近阻止/領域拒否(A2/AD)」を参照)

航空母艦を離発着できる飛行隊が必要
「遼寧」の飛行甲板はスキー・ジャンプ方式を採用しており、発進する航空機は搭載可能な武器の重量が制約されるだけでなく、発進の時点で多くの燃料を使用せざるを得ないため、在空時間の減少にも繋がる。
確かに中国は航空母艦を運用することができるようにはなり、すでに2013年12月に南シナ海で駆逐艦、フリゲート、潜水艦との訓練も行っていますが(Ibid.: 72)、その戦力化にはまだ時間を要すると考えられています。著者は「遼寧」がまだ十分に戦力として運用できない理由を次のように説明しています。
「しかし、組織化され、訓練された航空部隊と、完全に試験されて艦隊を構成する航空母艦の二つの要素が一緒に実現するまでは、中国は真の航空母艦の能力を獲得できないであろう」(Ibid.: 73)
「さらに加えて、中国が独自の手法で設計、建造すると見られる第二の航空母艦の公試に向けた予定を考慮すれば、中国が航空部隊の訓練と組織化を進展させており、またJ-15の全面的な生産だけでなく、恐らくは将来的に第五世代の艦載機となるであろうJ-31の開発を進めていることも説明がつく。もちろん、これらの予定は国産の航空母艦の設計と同時並行で進められている。この二つのプロセスを均衡させる中国の取り組みは、次の中国海軍の航空母艦の設計と建造開始の進行速度に関する思慮深さを示唆しているかもしれない」(Ibid.)
著者の見積によると、航空母艦に搭載する艦載機J-15の部隊が任務遂行に必要な能力を獲得するためには2018年以降のこととされています(Ibid.)。
とはいえ、中国海軍の予算も無尽蔵ではなく、航空母艦の保守管理に伴う経費は他の艦艇と比較手しても大きく、予定通り戦力化できると断定すべきではありません。
著者は中国海軍は中国空軍と競合することになる可能性を示唆しており、経済成長の動向と併せて軍事関係の予算が今後どのように変化するかを検討する意義を強調しています(Ibid.: 74)。

航空母艦を掩護する能力が不十分
鄧小平が主導して海軍の本格的増強が始まった1982年以降、中国海軍はその能力を継続的に向上させてきたが、装備の開発、人員の訓練、教義の研究などの課題も多く、現段階においては本格的な海上作戦を遂行する能力を取得するには至っていないと見られる。
海上作戦において航空母艦は打撃力の要となり、大きな攻撃的能力を発揮することができますが、その一方で敵の航空機や潜水艦の脅威に対して脆弱であるという特性もあります。
1982年のフォークランド紛争に関する研究で中国海軍はイギリス海軍の勝因に航空母艦の役割を指摘していますが、同時に対潜戦闘能力、早期警戒管制能力の問題について言及されています(Ibid.: 74)。
現在の中国海軍では対潜哨戒機や早期警戒機を航空母艦で運用することには技術的課題が少なくなく、大きな脆弱性となっていると著者は指摘しています。

また東アジア地域の軍事情勢を考えれば、中国海軍が必要とする航空戦力の規模は航空母艦1隻では到底十分ではなく、2隻をもってしても不足する恐れがあるとも述べられています。
「第一列島線の内側で生じる紛争において航空母艦が1隻であることと、2隻であることは、どのような相違をもたらすのか。南シナ海の衝突において「遼寧」は敵対する勢力に対して余剰の航空戦力の投射能力を提供し、特にそれは同海域の南端にまで達するだろう。それもまた敵にとって『素晴らしい、でかい的だ(nice, big target)』となる恐れがある。東シナ海の戦闘において1隻では当然のことながら、2隻でも戦力が不足することになるだろう。台湾有事において、航空母艦の飛行隊は台湾と日本から離れたより容易に防護されやすい地区において牽制するには役立つかもしれないが、戦闘それ自体に貢献できないだろう」(Ibid.)
 「遼寧」の飛行甲板は米国の空母とは異なりスキージャンプ方式を採用しているため、発進可能な機体やその機体に搭載できる装備の重量が制限されてしまいます(Ibid.)。これは対潜戦闘、対空戦闘の能力発揮を困難にし、また通常動力であることもあって、定期的な洋上補給が必須であることからも、作戦遂行に大きな支障が出ると予想されるのです(Ibid.)。

むすびにかえて
中国はその政治的、軍事的理由から航空母艦の強化を重視していますが、それが安全保障上の脅威としてどの程度の水準なのかを判断するためには、航空母艦がどのように戦闘力を発揮するのかを理解していなければなりません。
この論文は中国が航空母艦を使って達成しようとする目標に対して、実際の作戦上の能力には格差があることを示唆しており、今後の予算の推移や訓練の状態によって状態が急速に改善される可能性があるものの、直ちに戦力化することは困難であるものと評価されています。

これは日本の立場から見れば有利な状況であると言えますが、これは本格的な地域戦争を想定した評価として受け取らなければなりません。
中国は必ずしも軍事力を戦時にのみ運用するものと考えているわけではなく、平時または危機において戦闘に至らないように恣意的、威嚇的に使用する場合も見られます。また、21世紀後半を目指して中国海軍がさらに航空母艦の数を増やすような事態もなくなったわけではありません。こうした可能性を踏まえて、今後も中国軍の動向に注意を払うことが重要でしょう。

KT

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