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2016年1月30日土曜日

戦技研究 正しい銃の射ち方を理解するために

正しく目標に向けて銃を射つ能力、技術のことを射撃術(marksmanship)といいます。この言葉の由来となったmarksmanは中世において国王の親衛隊に配属された弓の射手のことを意味していたそうですが、近代以降には銃の射手を意味するようになりました。

射撃術は兵士にとって最も重要な戦技であり、また心理的、精神的要素の影響も非常に大きい奥深い技術でもあります。
しかし、日本では射撃を経験できる機会がほとんどないので、そもそも射撃というものにどのような技術が必要なのかイメージしにくいかもしれません。
このような知識のギャップは戦争の最前線で起きている出来事を理解する上で一つの妨げかと思います。

今回は射撃術の基礎を理解する一助として、主に米軍の教範を参考にしながら、射撃術の基礎となる姿勢(position)、照準(aiming)、呼吸(breath control)、撃発(trigger squeeze)の四点のうち姿勢について説明したいと思います。

正確な射撃は姿勢によって基礎付けられる
米軍の教範においては、姿勢、照準、呼吸、撃発の四点が射撃術の基礎とされており、これら四つの動作を迅速かつ一貫して組み合わせることが正確な射撃に繋がると述べられています。

その中でも姿勢は射撃術の重要な一領域であり、正しい射撃姿勢の理解は射撃術の基礎となります。
とはいえ、射撃姿勢は小火器の発達とともに絶えず変化発展してきた歴史があり、その種類も一通りではありません。伏射ち(ねうち)、ひざ射ち、しゃげみ射ち、肩射ち、かかえ射ち、腰射ち、かがみ射ち、突き射ちなどさまざまな状況に適応した射撃姿勢が考案されているだけでなく、現在においても新たな射撃姿勢の研究が進められています。

このように複雑多岐な射撃姿勢に共通する要素を単純化して取り上げるとすれば、それは左腕、肩、右手、頬の四点で銃を固定するということです。
小銃射撃の場合、銃を次の四点で保持することが重要となる。
(左手の)銃の保持、肩づけ、(右手の)握把の握り、頬づけ。
ここではひざ射ちの姿勢で説明されているが、伏射ちの着眼も同様である。
(FM3-22.9: 4-17)
(1)左腕の銃の保持については決して力を入れて握りこんではいけないという原則があります。銃が動揺する要因となるためです。
そこで努めて手のひらを水平にしてからV字の形にし、そこに銃を「置く」というイメージを持ち、残りの指は銃の被筒部に「添える」という感覚で保持するとうまく保持できます(Ibid.: 4-18)。

(2)肩づけは銃床を何となく肩にひきつけるだけではなく、肩の「ポケット」になっている箇所で正確に肩づけすることが重要です(Ibid.)。この「ポケット」は肩を前に突き出しながら、鎖骨から肩に向かって指を添わせると三角筋の手前で見つかるくぼみのことです。そのくぼみの頂点の部分に銃床を重ねると、銃が非常に安定します。

(3)右手の態勢でポイントとなるのは握把を手のひらに密着させ、引金をまっすぐ引ける位置に人差し指を位置させることです。この際に右手でV字を作り、握把を右後方から握ると人差し指は自然と引金にかかる位置にかかります。残った指については握把を肩に向かって引き付けるようにしてください(Ibid.)。

(4)頬づけの基本は頭部の軸を傾けず、地面と水平に維持したまま銃に密着させるということです。この際に注意したいのは無理のない箇所で頬づけをすることです(Ibid.)。そうしないと、姿勢をとるたびに頬づけをする場所が変わり、目と照門の距離が安定しないためです。

伏射ちの射撃姿勢を取る際の注意点
伏射ちの姿勢の一例。
伏射ちでは足を適度に開く考え方と、少し閉じて姿勢をとる考え方があり、これは後者の立場に基づく射撃姿勢。
地形、地物の状況によって足の開きは使い分けることができます。
(FM3-22.9: 4-21)
以上のような着眼を踏まえて射撃姿勢の練習をする際に有用なのが伏射ちの訓練です。
伏射ちは最も安定した射撃姿勢であり、また敵から見ても狙いにくいという利点もあります。上の図でその基本的な特徴を知ることができます。教範では伏射ちの要領が次のように解説されています。

(1)目標に対して正対する。
(2)両足の幅を適度に開く。
(3)銃床をつけながら膝を落として姿勢を低くする。
(4)小銃の銃床を軸として意識し、(左手をつきながら)後方に下半身をつきだして横になり、左肘を弾倉付近の地面につける。
(5)基本的な伏射ちの姿勢になるためには、両足を離して広げ、両足とも地面に対して平行にする。別の伏射ちの射撃姿勢の場合には右足を曲げて引き付ける。
(6)銃を安定させ、反動を吸収するために、肩のくぼみに銃床をつける。
(7)右手で握把を握る。
(8)右肘を地面に置く。
(9)地面に接した両肘で上半身を支持する。
(10)保持する手をV字の形で据銃する。
(11)肩づけが崩れない範囲で右肘の態勢を修正する。
(12)しっかりと銃を引き付ける。
(13)肩づけを確保し、かかとは努めて地面に近付ける。
(Ibid.: 4-25-26)

これはあくまでも米軍の教範で示されている伏射ちの射撃姿勢の要領である点に注意しなければなりませんが、基本的な注意事項は分かると思います。

実際に銃か、それと同じ重さのある物(89式は3.5キロ、64式4.3キロ)を持って姿勢をとってみると分かると思いますが、最初のうちは銃の重さと上半身の重さが右肘と左肘に不均等にかかり、射手への負担が大きいと感じる場合があります。
この場合、体軸と銃の角度を調整するとおおむね両肘に均等に重量がかかる姿勢が見つかるはずです。
銃と体の角度は射手の身長によって変化するため一概に言うことはできませんが、まずは40度を目安とし、そこから各人で適切な角度を調整するとよいでしょう。その射撃姿勢を最も長時間にわたって保持できるであろう姿勢がよい姿勢と言えます。

(ちなみに、伏射ちの姿勢がつらいのは単なる射手の筋力不足の場合もあります。この場合、腕立て伏せが最も効果的ですが、それもできないという場合には体幹を鍛えるプランク、つまりうつぶせの姿勢から両肘で体軸を地面と水平にして維持する姿勢の練習から始めるとよいと思います)

いずれにせよ、一度自分に適した射撃姿勢を見つけたら、それを武術の練習のように日頃から反復演練しておくと、とっさの時に適切な射撃姿勢をとることができるようになります。

まとめ
射撃姿勢は人と銃が一体となるための基礎技術であり、射撃の結果に与える影響は大きなものです。
例えば、右肘が銃から離れた位置にあって不安定だと、射撃時の弾痕は的の中心点から右下の方向に向かって散布する傾向があると考えれます。
反対に、左肘が極端に銃に近いと、両肩の形が乱れて弾痕は中心から左上に弾痕が散る傾向が生じるとも言われています。

射撃術は非常に繊細な技術であり、肩、肘、手など細かい射撃姿勢の積み重ねが、結果として命中を阻害する要因として作用します。
こうした技術の集積の上に射撃が実施されていることが分かると、たかが銃の射撃といっても非常に奥が深い技能であることが分かるのではないでしょうか。

KT

関連項目
射撃雑学 狙いを付ける前に正しい見出しを
射撃雑学 一瞬の撃発こそ優れた射手の証

参考文献
U.S. Department of the Army. 2008. Field Manual 3-22.9, Rifle Marksmanship M16-/M-4-Series Weapons, Washington, D.C.: Governmental Printing Office.

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