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2015年7月8日水曜日

論文紹介 通常戦力による抑止


一般に抑止とは、相手の利益を上回る費用を強いる防衛体制を準備することで、相手が攻撃する事態を防止することを言います。
また、抑止はその根拠となる軍事的手段の種類によって、通常戦力による抑止と核戦力による抑止に大別されます。

今回は、現代の米軍の戦略を考える上で通常戦力の在り方を理論的に検討した論文を紹介したいと思います。
通常戦力に依拠している自衛隊の防衛戦略を考える上でも、参考になる内容が含まれています。

文献情報
Gerson, Michael S. 2009. "Conventional Deterrence in the Second Nuclear Age," Parameters, (Autumn): 32-48.

通常戦力によって相手国の攻撃を抑止するには、著者は三種類の戦略的論理を理解しておくことが必要であると考えています。

第一に、攻撃者は一般に費用を増大させる持久戦を好みません。核戦力を伴う全面戦争に至らない限定戦争でも、攻撃者は一般に速戦即決、つまり消耗の大きい持久戦よりも短期間で決着を付ける決戦を追求しようとします(Gerson 2009: 37)。

第二に、抑止の成功は基本的に防御者の軍事力に依拠しています。武力紛争を通じて攻撃者が目標を達成することを防止することが可能な軍事的能力を、防御者が保有していなければ攻撃を拒否することはできません(Ibid.)。
また著者は、相手の攻撃を受動的に拒否する能力を持つだけでなく、攻撃に対して能動的に報復を加える懲罰的能力もまた重要であることについて指摘しています(Ibid.)。

第三に、軍事力の局地的均衡が通常戦力による抑止では決定的に重要な場合があります。なぜなら、先に指摘したように、攻撃者は短期決戦の可能性を最大限追求するので、迅速に勝利を収めることが可能な地点が一カ所でもあれば、そこで攻撃者を効果的に拒否することができなくなり、全体として抑止が失敗する危険も大きくなるためです(Ibid.)。

このような通常戦力による抑止をめぐる戦略上の一般的な判断を適用して、著者は中国の戦略に対抗する際に重要な抑止の着眼点を次のように述べています。
「『近代化された高度な技術環境における局地戦争』という中国の構想は、サイバー戦、宇宙戦、情報戦を含んだ対称戦闘と非対称戦闘の両方を目的とし、技術的に高度な武器を使用することによって、局地的、短期的、集約的な武力紛争を戦うことを思い描いている」(Ibid.: 39)
つまり、攻撃者の速戦即決の構えに対して防御者が十分な戦力を準備し、どの攻撃地点が選択されても防御者として局地的優勢を許さない前方展開(forward deployment)の態勢が重要となります。

もし防御者が選択する戦略配置が主力の移動に時間を要する態勢にあると、潜在的な攻撃者は防御者の主力が到達する前に作戦目標を達成する機会がありうると認識する恐れがあり、その結果として抑止が失敗することにも繋がってしまうのです。

潜在的な攻撃者に対する戦略配置に即応性を持たせることが、抑止にとって直接的な意義があることは、日本の安全保障を考える上でも留意すべき議論であるだろうと思います。

KT

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