最近人気の記事

2015年3月31日火曜日

クラウゼヴィッツの兵站学


戦場において危険と苦痛に立ち向かうことは、兵士として最も優れた美徳と言えるでしょうが、それは各人の空腹が満たされている場合にのみ発揮することができると言っても過言ではありません。
食料を欠かさず部隊に提供することができなければ、どれだけ多数の兵士がおり、どれだけ高価な武器が配備されていたとしても、戦争を遂行することは不可能です。

今回は、クラウゼヴィッツの著作で兵站学の観点から補給、特に兵士の食糧を給養する問題に関する考察を紹介したいと思います。
「軍の給養は、近代の戦争においては往時に比して遥かに重要な事項になった。しかもそれは二件の理由による。第一は、一般に近代の軍は、兵数において中世の軍はもとより古代の軍に比してすら著しく巨大になったということである。(中略)第二の理由は、これよりも遥かに重要でありまた近代に特有のものである、即ち近代の戦争における軍事的行動は、以前に比して遥かに緊密な内的連関を保ち、また戦争の遂行に当たる戦闘力は不断に戦闘の準備を整えているということである」(中216)
近代戦争において敵と継続的に対抗し続けるために、独立した補給体系が確立されたことは、クラウゼヴィッツにとって必然的なことだと考えられていました。
特に、フランス革命が勃発して以降の戦争で実施された兵站の方式を見てみると、フランス軍の将軍たちは軍隊の補給の一切を徴発、奪取、略奪に頼るようになっており、これが戦争を遂行する新方式になったと述べられています(中221)。

さらに詳細に当時の兵站を調べると、このような現地での物資の調達にも四種類の異なる手法が組み合わせて用いられていたことが説明されています。

・舎営する市町村による給養
これは人口稠密地において貯蔵されている食料を軍隊に提供させる方法であり、一般に都市部よりも農村部において調達が容易であると述べられています。
クラウゼヴィッツが述べているところによると、1平方マイル当たり2000名から3000名の人口を有する地方であれば、150,000名の軍隊は1日から2日は食料の補給に支障を来すことはありません(中224)。

・軍隊自身の徴発による給養
ここで考慮されているのは10,000名程度の師団の補給であり、それ以上の規模の部隊の給養であれば、このような方式は有効ではないとされています。というのも、この程度の部隊の規模では、農家の貯蔵物資を捜索し、それを輸送するために十分な手段を持ち合わせていないことがしばしばあるためです。しかし、前衛や別働隊として行動する部隊はこのような方法を用いることが避けられないとも考えられています。

・正規の徴発による給養
これは地方自治体を通じて現金買付により住民から貯蔵物資を提供させる方法であり、クラウゼヴィッツは最も有効性が高い給養の方式であると評価しています。
この方法が実際に成功するかどうかは、一般に各自治体に派遣された部隊の執行能力にかかっていると考えられていますが、「それよりも当該地方の住民が責任、処罰および過酷な取扱いに対して懐くところの恐怖心の方が重大である」とクラウゼヴィッツは指摘しています(中229)。

・倉庫による給養
近世の戦争において大部分の軍事行動は軍隊の後方に開設された倉庫に依存しており、そのことが作戦の推移にとって重大な制約をもたらしていました。しかも、このように軍需品を倉庫に集約して管理しておくことは国家財政にとって大きな負担となります。
クラウゼヴィッツは将来の戦争で倉庫が全面的に廃止されるとは言い切れないとしても、それは戦争の本来の性質に適合しているとは言い難いと考えました(中225)。

最後に、クラウゼヴィッツは「戦争が給養方式を決定するのか、それとも給養が戦争を規定するのか」という問題を提起して、次のように答えています。
「戦争の遂行に必要な自余いっさいの条件が許す限り、先ず給養方式が戦争を規定するだろう、しかしこれらの条件が従来の給養方式に反対し始め、まはやその存続を許さないようになると、逆に戦争が給養方式を規定するのである」(中233)
この記述からも、クラウゼヴィッツが兵站の実態が戦争の形態と密接に関係していることを理解していただけでなく、戦争の理論において兵站の問題がいかに重要であるかを強調していたことが伺えるかと思います。

KT

参考文献
クラウゼヴィッツ『戦争論』篠田英雄訳、全3巻、岩波書店、1968年

0 件のコメント:

コメントを投稿