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2015年2月28日土曜日

演習問題 どこまで複雑な戦術ならば通用するのか


命令が単純明快であることは、戦術の実行可能性を左右する重要な条件です。

今回は、この論点について考察するために、第一次世界大戦中の1918年10月に起きた事例から戦術問題を出してみたいと思います。
今回の状況は参考文献で取り上げられているものですが、作問のために一部手を加えています。

状況
1918年10月10日早朝、米軍の第30歩兵連隊は砲兵の突撃支援射撃の後に小村落Cunelに向けて前進、攻撃せよという命令を受けました。

連隊の作戦地区となっている地域は下図の境界線の右側の地域で、小村落Cunelの南方の丘陵に防御陣地が構築されています。
さらに連隊の主力である第1大隊と第2大隊は森林地域Bois de Cunelに展開していました。第3大隊は予備として、さらに後方に拘置されていました。
第30歩兵連隊の作戦地区は境界線(―III30―)の右側。
森林地Bois de cunelと小村落Cunnelの中間の丘陵に敵の野戦陣地が構築されている。
第30連隊隷下の第1大隊と第2大隊は森林地域に展開している。
(Infantry Journal 1939: p. 36)より引用。
第1大隊はBouis de cunelの北端に、第2大隊はその攻撃を支援するために第1大隊の背後に配置されました。
第1大隊の攻撃は0700時に開始され、森林地域から部隊が出て450メートルほど前進したのですが、そこでドイツ軍の激しい抵抗によってそれ以上の前進が不可能となりました。

それだけでなく、ドイツ軍の砲火によって第1大隊はあらゆる方向への移動ができなくなり、敵の目前で退却を試みると直ちに部隊が全滅する恐れがありました。
また、第2大隊も第1大隊を支援するために効果的な行動をとることができず、結局この日の日没まで第1大隊はその場所に止まらざるをえませんでした。

問題

敵の抵抗でこれ以上の第1大隊の攻撃の進展が望めない以上、連隊はどのような命令を出すべきだと考えられるでしょうか。
事後の方針について最も適切だと思われるものを次の三つから選択してみて下さい。

(1)夜間のうちに第2大隊で敵を攻撃する方針。
(2)闇夜に乗じて第1大隊をBouis de Cunelに退却させ、一旦部隊を再編成した後に第2大隊と協同して攻撃を実施する方針。
(3)直ちに第2大隊を第1大隊の救出のために派遣して退却を支援する方針。

考察

まずこの事例の結果を見てみると、最初の攻撃に失敗した直後に連隊では次のような命令が出されていました。

まず、大きな損害を受けた第1大隊は夜間のうちにBouid de Cunelへと退却し、そこで部隊を再編成することが命令されました。
そして1930時、砲兵が敵の塹壕に突撃支援射撃を行った後に第1大隊は改めて攻撃を実施し、第2大隊がそれを支援するように命令されました。
この命令の内容を検討すると、先ほどの選択肢でも特に(2)に該当する方針だと言えます。

しかし、この方針は現場ではまったく意味をなしませんでした。
理由として決定的だったのは、早朝から半日にわたってドイツ軍の砲火を受け続けた第1大隊は疲労困憊の状態であり、新しい命令に対応することが困難であったことが挙げられます。
伝令から新しい命令を受け取った第1大隊は、一度はBouid de Cunelへの退却を試みました。
それでも日が暮れた後に方角を見出すことは難しく、部隊は道に迷ってしまい退却することができないほど現場は混乱していました。

ここで考察しなければならないのは、(2)の選択肢が前提としているいくつかの条件です。
第一に、(2)の方針は必ずしも複雑ではありませんでしたが、命令が単純明快であるべきという戦術の原則は状況に依拠するものです。当時の第1大隊の状態からすれば、(2)の方針を実行することは極めて困難でありました。
したがって、原案としてまして(2)は間違いということになります。

また(3)の方針についても、すでに前進を開始した地点から450メートル先に展開し、ドイツ軍から断続的な砲撃を受けながらも、第2大隊が第1大隊を無事に発見することができない危険が大きいと考えられます。もし発見することに成功して無事に退却することができたとしても、師団から示された本来の命令であるCunelの攻略奪取を達成することができないという問題点も残ります。
したがって、(3)についても間違いであると判定されます。

作戦の方針として(1)の優れている点は、第1大隊がすでに早朝から日没にかけて射撃、砲撃を受けたことで多くの損害を出し、戦闘力を喪失したという可能性を考慮している点でしょう。
この方針であれば、第1大隊がすでに行動できない状態であったとしても実施することが可能です。
一見すると単純にすぎるようにも見えますが、当時の状況から判断するに妥当なものであったと考えられます。

実際の事例を見てみても、第1大隊が1930時までに次の攻撃に移ることができなかったことをうけて、第2大隊が急遽攻撃を準備することになり、同日2200時には第1大隊を通り過ぎて攻撃を実施し、翌朝までにドイツ軍の陣地を奪取することに成功しているのです。

議論をまとめると、この事例では戦いの原則の一つである簡明の原則を遵守するためには、現場がどの程度の混乱に見舞われているかを考慮に入れることが必要であり、ただ作戦命令を可能な限り単純に整理すればよいわけではない、ということが示唆されています。

戦術的に最も肝心なことは、状況の特性に応じた単純さであって、この原則を立派に現場で実践するためには現場での出来事を見通すための経験と、優れた洞察が必要であると考えられます。

KT

参考文献
Infantry Journal. 1939. Infantry in Battle, Washington, DC: Government Printing Office.

2 件のコメント:

  1. このような軍事演習問題の書籍等は売っていますか?
    あるいは、サイトでもあれば教えて頂きたいです。

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  2. ご質問ありがとうございます。戦術学の演習問題を集めた文献類は戦前にはいろいろ出版されていましたが、今では見つけることが難しくなっていると思います。とはいえ、陸上自衛官向けの『陸戦研究』のような雑誌では戦術研究のための研究を読むことができます。またもっと手頃な文献としては松村劭『戦術と指揮』PHP研究書、2006年が挙げられます。これを読めば初歩的な戦術の知識を知ることができるだけでなく、演習問題も付いているので理解度の確認もできるでしょう。戦術を勉強する際に参考になる文献は以前の記事でも紹介したことがありますので、そちらも一度ご参考にしてみて下さい。「はじめて戦術学を研究する人のために」(http://militarywardiplomacy.blogspot.jp/2014/09/blog-post_24.html)

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