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2015年2月11日水曜日

論文紹介 海上戦闘における戦術原則と技術革新


以前、大学の勉強会で近代の海軍戦術について議論していた時に、私が近世の海上戦闘の事例を引用したところ、技術水準が異なる時代の事例を検討しても意味がないという批判を受けたことがありました。

これは、海軍戦術について知識がある方の普通の見解ではないかとと思います。
というのも、歴史的に海上戦闘は陸上戦闘よりも武器装備に依存する度合いが大きいことは事実であり、海上戦闘の勝敗は技術力により決せられるという通念には一定の説得力があるためです。

しかし、今回はこのような通念を批判する立場から、戦術的類推を用いることによって、技術水準が異なる事例であっても、戦術学的に有意義な分析が可能であることを論じた論文を紹介したいと思います。

文献情報
Uhlig, Frank. 1981. "Naval Tactics: Examples and Analogies," Naval War College Review, March-April, pp. 92-104.

海軍の戦術学の内容はしばしば「雑然」と形容されることがあります。
例えば、リデル・ハートの著作でも、海軍が戦術の研究を軽視し、教範も十分に整理されていないことを批判する記述があります(Uhlig 1981: 92)。

このような見解から見れば、海上戦闘の問題がしばしば技術的な問題に還元して理解されているため、海軍戦術の意義そのものに対して否定的な視線が向けられています。

この論文で著者は、海軍の戦術、海上戦闘を遂行するために用いられる技術の変遷を考慮することが重要であると認めながら、戦術がやはり重要であることを説明しようとしています。

まず、さまざまな海軍の軍事技術の中でも、特に武器とセンサーという二つの領域の変化に注目することが重要であると判断されています。
著者はこれら二つの領域における海軍史の技術的な変遷を、交戦距離という観点から整理しています(Ibid.)。

交戦距離に注目すると、19世紀には海上戦闘での交戦距離はおよそ5キロ以下でしたが、第一次世界大戦に入ると砲戦距離は10キロから12キロにまで増加しており、第二次世界大戦に至っては航空戦力が導入されたために一挙に160キロに拡大されたことが指摘されています(Ibid.: 95)。

現在の技術を考慮すれば、航空戦力が投入した場合に海上戦闘での彼我の距離は300キロ以上にまで拡大しており、対水上戦闘だけを考慮しても、やはりミサイルを用いることでおよそ100キロの交戦距離になると考えられます(Ibid.)。

こうした海上戦闘の空間的な拡大を考えると、私たちは海軍の戦術が、その時代の技術だけに対応したものであり、新しい技術によって絶えず陳腐化していく、というような印象を受けます。
しかし、著者はそのような印象は海軍の戦術を理解する上で妨げになるものであり、より柔軟な戦術的類推(Tactical Analogy)を駆使して研究する必要があることを論じています。

海上戦闘における諸種の戦術的任務を一般的に分類すると、次のように整理されます。
「海軍の指揮官が直面するであろう戦術上の任務は六種類に区分される。すなわち、重要な艦船、海域、沿岸を守ること、敵の目標達成を妨げるか、敵の重要な艦船、海域、沿岸を脅かすこと、敵の戦力を捜索して交戦すること、敵の戦力を回避すること、戦闘を中断すること、そして敵を誘致することである。これらの中でも最初の二つの任務は特別な重要性を帯びている。(中略)反対に、指揮官は彼我の重要な艦船に対して自身の注意を払わずに、残った四つの任務のうちの一つを遂行することが可能である。」(Ibid.: 93)
交戦距離がどれだけ拡大しても、海軍の任務が本質的に変化したわけではありません。

著者は、19世紀の技術水準で沿岸要塞を利用することと、20世紀の技術水準で防勢的機雷戦を実施することは、軍事技術から考えるとまったく異なる作戦ですが、戦術的類推を用いるならば、敵の戦力から沿岸を防衛しようとする、という点で本質的に同一の作戦であると考えられます(Ibid.: 96)。

著者はさらに、技術水準が異なる複数の歴史的事例を取り上げてながら、このような見解を裏付けています。
古代におけるサラミスの海戦から、第二次世界大戦の戦闘に至るまで、さまざまな時代の事例を戦術的類推によって理解する意義について「過去の事例から引き出される戦術的類推は膨大である」と強調しています(Ibid.: 103)。

結論として、この論文では、海上戦闘における技術的条件が変化したからといって、戦術原理までが変化したと即断してはならないことが示唆されています。
先ほど引用した著者の海軍の任務の分類は、私たちが戦術的類推を行う上で有用な分析枠組みであると言えます。

近年、海上戦闘の分野では電子戦技術やミサイルなどで技術の進展が見られますが、こうした技術環境の変化に直面した時こそ、戦術原理に対する深い洞察と、戦術原理の適用方法について注意深くある必要があるのではないでしょうか。

KT

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