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2015年1月12日月曜日

論文紹介 西太平洋地域における地対艦ミサイルの戦略的可能性


戦略的観点から見ると、海上交通路は陸地との関係によって決定されます。

なぜなら、海上交通路というものは物流拠点としての機能を備えた港湾、そして艦隊が拠点を置く基地という陸上の地点を結ぶ連絡線であり、その出発地から到着地までの中間地帯でも狭隘な海峡や運河によって制約されるためです。

重要な海上交通路がいずれも陸地と関連を持って形成されていることは、海上戦力だけでなく陸上戦力でも影響を及ぼしうることを意味しています。

今回は、中国海軍の脅威に対処するために、地対艦ミサイルをどのように展開することが可能かを検討した研究を紹介したいと思います。

文献情報
Kelly, T. K., Atler, A., Nichols, T., and Thrall, L. 2013. Employment Land-Based Anti-Ship Missiles in the Western Pacific, Technical Report, Santa Monica: RAND.

目次
1.研究方法
2.同盟の諸活動に対する地上配備の対艦ミサイルの貢献
3.統合的アプローチ
4.地上配備の対艦ミサイル封鎖の実現可能性
5.兵站、調達、その他の考慮事項
6.防衛関係
7.エアシー・ランドの構想
8.結論

この論文の最大の特徴は、西太平洋地域で中国海軍による攻勢作戦を拒否するために、地対艦ミサイルを配備すべき地点を戦略の観点から明らかにしていることです。

米国はエアシー・バトルの構想の中で海上戦力と航空戦力を統合運用することを計画しています。

これは中国の弾道ミサイルや潜水艦が西太平洋地域の米国の権益に脅威となることを防止しようとするもので、米軍が特定の領域へ接近することを拒否する能力が実際に行使されれば、それを撃破することも考慮されています。

しかし、著者は西太平洋地域の特性を考慮すれば、そうした軍事戦略に陸上戦力、特に地対艦ミサイルを組み込むことが重要であると主張しています。

中国の海上戦力が西太平洋で行動するためには、いくつかのチョークポイントを通過することが必要となりますが、それらチョークポイントを地上に配備した地対艦ミサイルの射程に置くことができれば、より効果的に封じ込めることが期待されるためです。
地対艦ミサイルの配備によって中国の艦隊の進出を阻止する防衛線の構想の概要。
日本を起点として台湾、フィリピン、インドネシアを経てインドネシアで中国に対する防衛線を構成している。
(Kelly, et al. 2013: 13)より引用。
この地図では、米国が地対艦ミサイルを配備することで潜在的に封鎖することが可能なチョークポイントがどこに位置するかが示されています。

韓国、日本、台湾、フィリピン、インドネシアの領土に沿って一連の防衛線が構想されていることが分かります。

この研究が特に強調しているのは、地対艦ミサイルだけで中国の艦隊が進出可能な海域を黄海、東シナ海、南シナ海に制約することが可能である、ということです(13)。

そのため著者は地対艦ミサイルを米国本土からこうしたチョークポイント付近の同盟国の領土に移転させておく必要があると指摘しています(14)。

ただし、このような長大な防衛線を構成するためには、米国がアジア諸国と防衛協力を緊密することが必要となります。

なぜなら、地対艦ミサイルの効果を高めるためには、各国の陸軍が適切に地対艦ミサイルを運用する戦術的能力を獲得する必要があり、また地対艦ミサイルと併せて利用すべき機雷戦の能力構築も重要となるためです(16-17)。

何より、この防衛線が機能するためには、情報活動でも同盟国と連携する必要があり、中国の動向を継続的に監視するための無人機の運用能力も計画的に整備されなければなりません(17)。

ここで著者が注意を促しているのは、米国とインドネシアとマレーシアとの関係です。
すでに米国は韓国、日本、フィリピン、オーストラリア、タイなどとの安全保障分野における連携の強化が推進されています。
しかし、著者はインドネシア、そしてマレーシアと米国はこれまで安全保障分野で連繋してきた経験がそれほどないということを指摘しています。

興味深いのは、この防衛線を構成する上でインドネシア、マレーシアが極めて重要な役割を果たしうる位置を占めているということです(17)。
特に南シナ海から中国の艦隊がオーストラリア方面、またはインド方面に進出する場合、マレーシアとインドネシアが中国とどのような対外関係を持つかによって情勢が一変します。

「結果として、マレーシアやインドネシアのような国々との連合を形成することを可能にする連携強化は、本分析において概観した戦略を遂行する上で最も重大な問題の一つであるかもしれない」(18)

まとめますと、この研究では地対艦ミサイルを活用した防衛線を構築するための軍事戦略の分析から、エアシー・バトルに陸上作戦の観点を取り入れることの重要性が主張されています。

分析でも示唆されているように中国の立場から考えれば日本の防衛圏を突破して東シナ海からフィリピン海に通じる海上交通路を重視するよりも、より経済的、軍事的に優勢であるマレーシア、インドネシアの方面を重視する軍事戦略のほうが効果的だと思われます。

さらに、南シナ海の海上優勢を掌握すれば、結果的に中東方面から日本に通じる海上交通路に脅威を与えることも不可能ではありません。

KT

2 件のコメント:

  1. ふと思ったのですが、何で第二次世界大戦でスイスは中立を維持できたのでしょうか?
    連合と枢軸、それぞれの思惑があったと自分は思いますが。
    KTさんはどのようにお考えでしょうか?

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  2. 以前、第二次世界大戦におけるスイスの事例について、少しだけ紹介したことがありますので、そちらを一度確認してみると参考になるかもしれません。
    http://militarywardiplomacy.blogspot.jp/2014/07/blog-post_3267.html

    ただ、そちらでは軍事的観点が主でしたので、スイスの独立に寄与した金融戦略について補足しておきます。

    19世紀以降の話になりますが、スイスは永世中立国としての地位を金融の方面で最大限に活用してきた歴史があります。

    スイスの堅実な軍事力と経済力によって、スイス・フランの信用には強い裏付けがありました。
    そのため、第一次世界大戦でオーストリア・ハンガリーが解体した時や、戦間期におけるドイツでのハイパーインフレでは、資産防衛のため各地から資金がスイスへと移転された経緯がありました。
    この方面では私も調査中の問題が多いので、詳細を把握していないのですが、当時のドイツでは資本家だけでなく、政府高官も含めてスイス・フランで資産管理をする人が少なからずいたようです。また二次大戦の情勢ではスイス以外に資産の移転先を見出すことも難しかったという事情がありました。つまり、ドイツがスイスを攻略すると、かえってドイツ人(無論、これはスイス銀行に資産を持つ人限定ですが)の利益を損ねる危険があるという判断があったのかもしれません。

    ヒトラー政権がスイス攻略を断念した理由はいくつかあると思うのですが、こうしたスイスの特殊な国際金融上の地位というものも、考慮に入れておくことが必要ではないかと思います。

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