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2014年12月28日日曜日

論文紹介 軍事技術それ自体は解決策ではない


あらゆる軍事技術はまず戦場でその効果を発揮しますが、必ずそれは戦略的な影響をももたらします。
したがって、軍事技術を理解するためには、戦術と戦略を深く理解することが必要となります。

今回は1970年代に登場したミサイルの技術が西側陣営の防衛力を高めるのではなく、かえって危険にしている側面があると指摘した研究を紹介したいと思います。

文献情報
Kennedy, R. 1978. Precision ATGM's and NATO Defense, Carlisle: Strategic Studies Institute U.S. Army War College.

1970年代、精密誘導の技術が向上すると、西側では対戦車ミサイルを活用することで歩兵でも簡単に戦車を撃破することができるという楽観的な見方がありました。

それ以前の陸上戦闘では、一般に機甲師団が高い攻撃能力を持つという前提から、陸軍の中核的存在として位置づけられており、実際にソ連軍は西側よりも多くの機甲戦力を保持していました。

しかし、対戦車ミサイルがNATOの部隊に配備されたことによって西側の防御能力はWPの攻撃能力に優越する可能性があると西側の専門家の間で考えられていたのです。

しかし、この研究で著者が指摘しているのは、機甲師団の戦闘効率が対戦車ミサイルにより低下すると、ソ連の軍事戦略における核戦力への依存度がより増大するという点でした。
「対戦車誘導弾技術が陸上戦術に革命をもたらし、戦車による攻撃を潜在的に放棄することが議論されるようになった今日、ソ連としては対戦車防御を突破する手段として初期から考えていた核兵器に依存する戦略に復帰することに強い誘惑を感じただろう」
これは多くの専門家にとって意外な指摘でした。

専門家たちは問題をWPの中核である機甲師団の攻撃を対戦車ミサイルによって阻止することだけに限定していました。
そのため、ソ連の軍事戦略の全体像が見過ごされ、核戦力によって機甲戦力を補完する可能性を十分に考慮に入れていませんでした。

著者は、ソ連が核戦力を重視する軍事戦略に回帰した場合に予想されるシナリオを次のように考察しています。
「ソ連の専門家が書いているように、核攻撃を予想するとき防御者はその部隊を分散しておかなければならないし、防御者に対してきわめて精密な命中精度の核攻撃を実施すれば、攻撃者の歩兵は装甲兵員輸送車から下車することなしに早い速度で進撃作戦を続行することができる」
「しかし、この攻撃者も防御者から核による反撃を予想しなければならないので、戦場にある攻防両者のチェス盤のように格子模様に区分した広い地域に戦車部隊を分散して作戦しなければならない。このような作戦は事実上『核の敷居』を低くする。精密誘導武器は核の敷居を高くすると主張する人が多いが、ソ連の核の奇襲は核の敷居を低くする潜在力を持っており、歓迎されるべきことではない」
少し長い引用ですが、ここで議論されているのは精密誘導技術で対戦車戦闘を有利に戦うことができたとしても、結局は西側の防御能力を向上させることはできないという見方です。

第一に、対戦車戦闘だけで考えれば確かに精密誘導技術の導入で防御者である西側に有利になるでしょう。
第二に、精密誘導の技術が拡散すると核攻撃の精度も同時に向上するため、核攻撃の目標とならないように防御者、攻撃者の両方が広い地域に部隊を分散させる必要を生じさせます。
第三に、防御者の西側陣営が広い地域に部隊を分散させるほど、攻撃者である東側は前線を突破することがより容易となります。

したがって、精密誘導技術によってNATOの防御能力を改善することができるという意見には問題があるだけでなく、結局のところWPの攻撃を容易にする側面もあるということになります。

もしソ連が核戦力を重視しない場合でもNATOの対戦車戦力の強化に対して第二の対抗策が考えられるということも指摘しています。その対抗策とは、砲兵火力の増強です。
「ソ連の対戦車誘導ミサイル論争で重要な位置を占める第二の選択は野砲の役割である。対戦車誘導ミサイルの射手は防御物がなく、射手のいないミサイルは発射できない。しかし、ミサイルは発射後目標に命中するまで射手が目標の照準を続けなければならない。これらはこの種のミサイルを圧倒的な野砲の火力の前で極めて脆弱なものにしている。ソ連の多くの専門家は核兵器の助けを借りなくても野砲の火力によって敵の対戦車ミサイルを十分に撃破できると述べている」
現在の対戦車ミサイルでは自動誘導も導入されていますが、この研究が発表された当時の技術では撃ち放しができませんでした。
そのため、防衛線に対戦車ミサイルが配備されたとしても、その射程は限られていました。

ソ連軍としては、戦車部隊を進める前の段階で砲兵の支援射撃で対戦車ミサイルが配備された陣地を無力化しておけば、突破することは可能であると考えられていたのです。
したがって、やはり対戦車ミサイルによって西側が東側の攻撃を抑止することができるとは認められないという結論になります。

今回の結論としては、軍事技術それ自体が戦略の問題を解決するわけではないことが今回の研究で示唆されています。
新たな軍事技術が導入されたとしても、相手はそれに対応するためさまざまな戦術的、戦略的な選択肢を編み出すことができることを考慮しなければなりません。

だからこそ、軍事技術を軍事教義に結び付ける戦術、戦略の研究こそが最も重要だと言えるのではないでしょうか。

KT

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