最近人気の記事

2014年11月16日日曜日

論文紹介 全体戦争における兵站の問題


今回は兵站学の研究で基本的な文献の一つと位置づけることができる論文を紹介したいと思います。

論文情報
Millett, J. D. 1945. "Logistics and Modern War," Military Affairs, 9(3): 193-207.

論文では、ウェゲティウス、ナポレオン、クラウゼヴィッツの記述から兵站を考察している箇所を示し、「補給の問題は常にあらゆる軍事作戦の推移に影響を及ぼしてきた」ことが述べられています(Millett 1945: 194)。

著者の見解によれば、兵站の歴史において転機となったのは18世紀末のフランス革命でした。
フランス革命を通じて政治体制が共和制に移行すると、一般徴兵制が導入され、従来に見られない規模の兵員を動員することが政治的に可能となったためです(Ibid 197)。

兵站の歴史にとってもう一つ重要だったのは、産業革命でした。
産業革命を通じて武器の製造に必要な工業が発展し、単に労働生産性が向上しただけでなく、戦闘で有用な武器や装備の生産効率が大幅に向上しました(Ibid 197)。

しかし、著者はこうした諸条件の変化がもたらす影響が顕著に現れたのは、第一次世界大戦であったことを述べています。

なぜなら、第一次世界大戦では人的資源、物的資源を戦争の遂行のために動員する努力が体系的な国家兵站として結び付けられた結果、総力戦、全体戦争と呼ばれる新しい戦争の形態を出現させたためです(Ibid 200)。

そして、近代的な兵站の体系が成立したことこそが第二次世界大戦の様相を準備したということを著者は次のように考察しています。
「第二次世界大戦は軍事力の戦いであると同じように、経済力の戦いであった。戦争の原動力は兵士の身体ではなく、国民の労働であったのである」(Ibid 201)
第二次世界大戦において兵站は戦争の推移に対して決定的な役割を果たしていました。
この主張を裏付けるために著者は当時の兵站に関する教訓を判断しています。

第一に述べられているのは工業の即応体制の重要性です。
軍用機、軍用車両、通信装備、弾薬などの供給の担い手となる民間人は数が限られています。
つまり戦争が勃発してから軍需品のための生産体制を強化するためには労働力を新たに配置して訓練する必要があるということです(Ibid 206)。

第二に、総力戦、全体戦争の下では防衛部門の生産活動とその他の民間部門の生産活動の間には本質的な相違は存在しないということです。
つまり、戦略上の必要に応じて民間の生産力を防衛目的のために再編成する民軍転換が可能でなければならないということが教訓として指摘されています(Ibid: 206)。

第三に、補給物資は的確に輸送されなければ役立てることができないということが教訓として重要であると指摘されています。
第二次世界大戦の経験により、後方から前線に物資を輸送する方法の適否が作戦の推移に影響を与えることが述べられています(Ibid 207)。

第四に、前述の教訓と関連して、アメリカの防衛は海外における輸送活動のための施設に依存しているということが考えられています。
この教訓はノルマンディーでの着上陸作戦でイギリスが果たした兵站上の拠点としての役割から認められることを著者は強調しています(Ibid 207)。

第五に、海外での軍事作戦はやはり鉄道、車両、パイプライン、補給処などを組み合わせた兵站支援の手段を欠くことができず、兵站の役割は時間と空間の制約から部隊の運動を可能な限り自由にすることであると考察されています(Ibid 2007)。

これは1945年に発表された論文ですので、十分な第二次世界大戦の史実的な考察に基づいているものではないのですが、兵站学の視座から近代的な全体戦争の様相に歴史的考察を加えた研究として位置づけることができます。

特に興味深いのは全体戦争での兵站にとって軍事兵站と国民経済に区別を設けることはできないという指摘であり、これはその後の兵站学の研究でも受け継がれる観点です。

近年、日本でも武器輸出や防衛産業の在り方について国民的な議論がありますが、こうした論点について考える上でも兵站学の研究には重要な価値があると思われます。

KT

0 件のコメント:

コメントを投稿