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2014年9月24日水曜日

はじめて戦術学を研究する人のために


今回は戦術学について研究したい、という人のための勉強の仕方や役立つ文献を紹介したいと思います。

私は大学に入学した当初から戦術学には強い関心を抱いていたのですが、入学してから間もなく幸運にも軍事評論家の松村劭(元陸将補)先生と直接お会いする機会があり、その時に戦術学の勉強の仕方や基本文献を教えて頂いたことがあります。

お会いできたのは一回きりでしたが、その時にご教示頂いた勉強法や参考文献は大変に役立ちましたので、ここで皆様と共有したいと思います。

まず、戦術学では、教範で示された原則や概念を理解し、それを実例に適用する練習が基本的な勉強法となります。
陸上自衛隊の教範に野外令がありますが、これは公開されていませんので、自学独習の場合には教範は旧軍の作戦要務令・統帥綱領か、米軍の野戦教範を参考とします。

文献情報
陸軍省『作戦要務令』尚兵館、1938年
陸軍大学校『統帥綱領・統帥参考』偕行社、1962年
U.S. Department of the Army. 2012. ADRP 3-90: Offense and Defense, Washington, DC: Government Printing Office.(http://armypubs.army.mil/doctrine/DR_pubs/dr_a/pdf/adrp3_90.pdf)

最後に揚げた米軍の教範は最近新しく改定されたものとなっています。戦術の基本となる概念や考え方が体系的に解説されており、図表による解説も明快で理解の助けとなります。

こうした教範の原型ともなった文献はドイツ陸軍省が1933年から1934年にかけて出版した教範『部隊指揮』(Truppenführung)があります。ドイツ語の文献ですが、1942年に米軍が翻訳していますので、そちらで参照することもできます。

文献情報
U.S. War Department. 1942. German Tactical Doctrine, Washington, DC: Government Printing Office.(http://usacac.army.mil/cac2/cgsc/carl/wwIIspec/number08.pdf)
Condell, B., and Zabecki, D. T., eds. 2001. On the German Art of War: Truppenfuhrung, Boulder, Lynne Rienner.

当時のドイツ軍における戦術学の研究成果がよくまとめられており、また現在においても妥当性を失わない優れた内容となっています。

また、松村先生は戦術学の研究では最近の事例だけでなく、古代から幅広く戦史を辿ることが重要だというお考えからデュピュイをはじめとして軍事史の著作をいくつか紹介して頂きました。
ただし、現在の自衛隊での戦術の教育では第二次世界大戦以後の戦史がしばしば使われることが多くありますし、私の経験としては学習者の関心に応じた事例で研究した方が良いと思います。

というのも、戦術の原則を学ぶ上で武器の操作等に関連する技術的知識は必須のものとまでは言い切れないためです。

文献情報
Dupuy, R. E., and T. N. Dupuy. 1970. Encyclopedia of Military History, New York: Harper and Row.
Brodie, B., and Brodie, F. 1973. From Crossbow to H Bomb, Rev. ed. Bloomington, Ind.: Indiana Univ. Press.
Wynne, G. C. 1972. If Germany Attacks, Reprint. Westport: Greenwood Press.
Creasy, E. 1963. Fifteen Decisive Battles of the World, London: Dent and Sons. 
West Point Military History Series
Griess, T. ed. 1985-1986. West Point Military History Series, Wayne: Avery.

これらはいずれも有名な著作ばかりですが、私が特に推奨するのは一番上の軍事史百科事典であり、多数の事例について知ることができます。参考文献リストも含めて戦術を研究するための大きな手がかりとなります。

なお、松村先生がご自身で出版された著作も戦術学に関心を持ち始めた方にはお奨めできます。

文献情報
松村劭『戦術と指揮』PHP研究書、2006年

短い著作ですが、基本的に陸自の教範『野外令』の内容に沿って戦術について解説しています。

この著作には簡単な演習問題も含まれているため、想定を読み込んで、自分なりの解答を作成してから原案に当たることを反復すれば戦術的な考え方を訓練することができます。

松村先生は実際の歴史的事例に即して戦術を考えさせる入門書も執筆されています。

文献情報
松村劭『世界の歴史を変えた名将たちの決定的戦術』PHP研究書、2007年
松村劭『勝利を決めた名将たちの伝説的戦術』PHP研究書、2010年

いずれも電子書籍で入手することができます。Dupuyの軍事史百科事典でも取り上げられている代表的な戦闘の事例を取り上げて、そこで使用されている戦術について演習問題の形式で検討を加えるものです。

学部生時代の私の勉強法は、こうした文献を単に読み進めるのではなく、自分で問題に対する答案を作成するというものです。それは単なる作戦の基本方針を文章として記述したものではなく、可能な限り部隊の配置や機動についても図示しておかなければなりません。

こうして作成した答案に間違いがあれば、自分の答案の上から何が間違っており、その理由は何かを書き込んでおきます。この時に原案の部隊配置を自分の答案の上に書き込んでおきます。
後からそれを読み返すと、単に答案を読むよりも理解ははるかに深まりますし、教範で述べられた原則がどれほどよく考察されたものであるかも分かります。

私は戦術学は必ずしも自衛官だけが学ぶものではなく、教養として広く国民に普及することが望ましいと思っています。
というのも、戦術学で得られる知識は、戦略学を学ぶ場合でも、軍事史を学ぶ場合でも非常に有益であり、防衛問題のさまざまな問題を具体的に考える能力を養うためです。

KT

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