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論文紹介 陸軍の格闘指導官が必要だと考える訓練期間とメンタル・スキルについて

軍隊は有限な時間と労力で兵士に教育訓練を施し、一定の効率で任務を遂行できるようにしなければなりません。つまり、教育訓練の合理化は軍隊の最重要課題の一つであり、そのためには多くの調査研究が重ねられてきました。格闘訓練もその例外ではありません。 今回は、格闘訓練に必要とされる時間がどの程度なのか、特にどの項目を集中的に指導すべきなのかについて考察した論稿を取り上げてみたいと思います。 論文情報 Susan Goodman. Combat Feedback from US Army Combatives Instructors, Infantry , July-September 2017, pp. 14-18. 格闘訓練にどの程度の所要時間を見積もるべきか 戦争を遂行する上で兵士が習得すべき技能の種類は多くありますが、格闘もその一つです。 現代のイラク戦争でも格闘技術の必要性は変わっておらず、イラクに派遣された歩兵旅団に所属する兵士のおよそ4分の1が8カ月の間に徒手格闘の技術を必要とする場面に遭遇したと報告されています(Goodman 2017: 14)。 また別の研究でも2004年から2008年にかけて戦闘任務に19%の兵士が格闘技術を使用したことが報告されています(Ibid.)。 小銃射撃や部隊単位の戦闘訓練などの訓練との兼ね合いも考えなければなりませんが、基本的に兵士にとって格闘技術は必要な技能だということが分かります。 問題は適切な訓練の時間ですが、著者が訓練指導官に調査した結果として得られた所要時間の平均値は79.69時間でした(Ibid.)。 ただし、興味深いことに多くの格闘指導官が一致して毎月、毎週にわたって定期的に訓練を実施すべきだとも主張しており、戦闘員として所要の練度に到達するためには1週当たり4.46時間の訓練が必要であると考えていることが分かりました(Ibid.)。 なぜそれだけの時間を必要とするのか根拠を調査したところ、無意識に格闘技術が使用できる自動化と、状況に応じた技術の選択ができるようになる適応化のために、それだけの時間が必要だと説明されていました。 特に格闘技術の自動化は特に重要だと過半数の指導官(81.48%)が報告しており、定期的な訓練を実施しなければ、成果を出すことは難しいとされていま...

文献紹介 どのように歩兵小隊の戦術は変わってきたのか

戦術の発展を促してきた要因は一つではありません。その時代、その地域に主流だった隊形や編制、武器や装備など、多くの要因が相互に影響し合っています。 しかし、兵役制度が戦術思想の発展に与えた影響は比較的理解されているところが少ないかもしれません。 今回は、20世紀の兵役制度の変化が歩兵小隊の戦術をどのように変化させたのかを考察した社会学者アンソニー・キングの研究を紹介したいと思います。 文献情報 King, Anthony. 2013. The Combat Soldier: Infantry Tactics and Cohesion in the Twentieth and Twenty-First Centuries . Oxford: Oxford University Press. 歩兵小隊の戦術が重要な理由 この研究は20世紀に徴兵制から志願制へ兵役制度の移行が進む中で、陸軍の歩兵戦術、特に歩兵小隊の戦術にどのような変化が生じていたのかを研究したものです。 20世紀初頭の各国陸軍では徴兵制によって人員を集めることが一般的でしたが、戦闘効率で問題を抱えていたことを著者は指摘しています。 「20世紀の大衆軍(mass armies)は近代的な武器を使用させる上で集団行為の問題の解答を探し求めるために努力した。市民からなる歩兵部隊は、集団としての戦闘効率で問題を抱えていた」(King 2013: 60) つまるところ、徴兵制で集めた兵士で効率的な戦い方を行わせることには限界があったということです。 また著者は第二次世界大戦で兵士の行動を調査したマーシャルの有名な研究を取り上げ、第一線における兵士の発砲率の低さが指摘されていたことを紹介していますが、この研究も徴兵制で作り上げた陸軍の戦闘効率の低さを示唆しているものだと評価しています(Ibid.)。 しかし、マーシャルをはじめとする過去の研究は、この戦闘効率の改善が進んだ背景として、兵役制度の影響を十分に考察しておらず、この研究はその空白を埋めるためのものとして位置付けられています。 戦術単位としての歩兵小隊の成立 著者の調査によれば、19世紀末から20世紀初頭の歩兵戦術は短間隔、つまり密集した状態で部隊が行動することが前提とされていました。 この思想はプロイ...

学説紹介 下士官の権威で兵卒は戦う

戦場で兵士を戦わせることは大変難しい仕事です。敵前で戦列を乱し、指揮官が射撃を命じても発砲を躊躇し、挙句の果てには旗色が悪いと逃げ出す者まで出てくるのが戦場の実態でした。 軍事学者は19世紀頃から心理学的アプローチによって、兵士の統制や士気に関する問題に取り組むようになるのですが、今回は兵卒を戦わせるために下士官が果たす役割を心理学者デーブ・グロスマン(Dave Grossman)がどのように考察しているかを紹介したいと思います。 攻撃行動につきまとう心理的負担 軍隊の戦闘効率を向上するためには、武器や戦術の問題の前に、すべての兵卒が戦場で集団的な攻撃行動に参加していなければなりません。 ところが兵士全員に照準具の向こう側にいる敵を攻撃させようとしても、見も知らない他人に対して自分から攻撃を加えることを避けたいという心理が働いてしまいます。 敵との物理的、心理的な距離が小さくなるほど、殺人に対する心理的負担は大きくなる傾向があるため、敵と最前線で対峙する兵卒ほど攻撃を回避する傾向が強まっていきます。こうなると戦闘部隊の効率性は致命的なレベルにまで低下してしまいます。 グロスマンはこうした攻撃行動に伴う心理的負担を軽減するため、現場に指揮官が直接命令を達することが重要であると指摘しており、次のように論じています。 「この問題を研究したことがない人は、兵士が敵を殺す際の指揮官の影響をさほど重視しないかもしれない。だが、戦場を経験したことのあるものはそんな愚は犯すまい。1973年の研究において、クランス、カプラン、およびクランスの3人は、兵士が発表する理由を調査している。戦闘経験のない人は、「撃たないと撃たれるから」というのが決定的な理由だと考えたが、戦闘経験者が最大の理由として挙げたのは「撃てと命令されるから」だった」(邦訳、グロスマン、244頁) 実はこのような心理はイェール大学の心理学者スタンリー・ミルグラムによって実証されたことがあり、ミルグラム実験として広く知られています。 ミルグラム実験で分かる攻撃と服従の心理 ミルグラム実験の概略図。実験の略図。被験者であるTは、Lに問題を出して解答を間違える度に電気ショックを次第に強くするよう、実験者Eから命令される。実験ではLはEと打ち合わせし、電気ショックで苦しく様子を演じ...

論文紹介 軍事教義(military doctrine)の意味を考える

各国の軍隊はそれぞれ自らの得意とする兵力運用の方法を持っています。 それは教義(ドクトリン)と呼ばれており、部隊の編制、武器の性能のような有形の戦力要素だけでなく、戦略・作戦・戦術の概念という無形の戦力要素にも影響を及ぼしています。 今回は、こうした教義の概念を改めて理解するために、歴史的アプローチを用いた研究を取り上げて、その内容を紹介したいと思います。 文献情報 Jay Luvaas. "Some vagrant thoughts on doctrine," Military Review , March 1986, LXVI, No. 2, pp. 56-60. 軍事用語としての教義の定義 軍事用語として教義(doctrine)という言葉が使われ始めたのは、20世紀後半以降のことだと言われています。 第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけての米軍の軍事辞典や公式の定義に教義という言葉を見出すことはできません(Luvaas 1986: 56)。 米国の軍事辞典に初めて教義という用語が収められるのは1950年版のことであり、そこでは次のように説明されています。 「(教義とは)ある問題に対して、経験を通じて、もしくは理論により発展してきた原則や方針を集めたものである。採用可能な最善の考え方を表しており、それを実行することを示唆し、また方向付けるが、拘束するものではない。本質的に教義は理性によって定義できる真理、事実、理論を教えるものであり、それは基本的に正しいものとして教えられ、また受け入れられるべきである」(Ibid.) ここで述べられている通り、教義とは軍隊で教育訓練の大前提とされる知識体系として理解することができます。 つまり、教義というものは現代の経営学の用語で言うところの知識管理の手法の一つであり、知識の標準化の産物だと言うこともできるでしょう。 教義そのものを発明したフリードリヒ二世 Anton Graff(1781)Portrait of Friedrich II 古来から軍隊では蓄積された経験に変換し、それを後の世代に継承する取り組みが行われてきましたが、それは暗黙知のまま継承されることが少なくなく、形式知として客観的に管理されていませんでした。 より近代的な...

論文紹介 現代の戦場に格闘は必要なのか

現代の戦場で一般にイメージされるのは、小銃、機関銃、携帯無反動砲などを使った戦闘でしょう。それにもかかわらず、現代においても多くの軍隊で格闘の研究や訓練が続けられています。これは果たして軍事的に合理的なことだと言えるのでしょうか。 この疑問に答えるためには、戦場で兵士が格闘技術をどれだけ使用しているのかを調査する必要があります。 今回は、2004年から2008年にかけて米軍で実施された格闘技術の使用実態に関する研究成果を紹介してみたいと思います。 文献情報 Peter R. Jensen. 2014. Hand-to-Hand Combat and the Use of Combatives Skills: An Analysis of United States Army Post-Combat Surveys from 2004-2008 , West Point: Center for Enhanced Performance, U.S. Military Academy. 戦場での徒手格闘の特徴 格闘という言葉からテレビで見る柔道や総合格闘技のようなスポーツをイメージするかもしれませんが、軍隊で訓練される格闘技術は徒手格闘の技術だけでなく、武器格闘の技術も含まれており、すべて戦闘状況が想定されているため、根本的に別のものです。 まず、徒手技術を構成する技術には、当身技、投げ技、関節技、絞め技があり、武器技術とは小銃、銃剣などを使用した打撃または刺突が含まれています。 もちろん、武器格闘で使用が想定される武器は小銃や銃剣だけでなく、えんぴや棍棒なども含まれています。軍隊の格闘はスポーツではないため、特別な制約が課されているわけではありません。 研究の背景について述べておくと、米陸軍では1990年代以降になって格闘の研究が重視されるようになっていった経緯があります。現在米陸軍で採用されている格闘技術は1995年に第2レンジャー大隊が中心となって策定した現代陸軍格闘計画(Modern Army Combatives Program)の成果を踏まえたものが中心となっており、これは実戦で起こりうる格闘にも対応できるように配慮されたものでした(Jensen 2014: 1)。 その後、米陸軍格闘学校(U.S. Army Comb...

論文紹介 兵士は恐怖との戦い方を知っている

恐怖とは戦争の本質と言えます。しかし、兵士は恐怖を押し殺し、自分の命を危険に晒してでも、断固として与えられた任務を遂行することが求められます。 銃声と爆音が辺りを支配し、敵の散兵と戦車が自分たちに向かって来るのが見えた時、兵士一人ひとりが規律と冷静を保ち、指揮官の命令に基づいて整然と自分の持ち場を守ることは、それ自体が一種の偉業とさえ言えるかもしれません。 しかし、これはどのようにして可能となっているのでしょうか。この疑問を解決するためには、軍事学において戦闘の恐怖がどのように研究されているのかを知る必要があります。 今回は、軍事心理学の研究を踏まえて戦場における恐怖について説明し、それに対応するための方法について考察した論文を紹介したいと思います。 文献情報 Daddis, Gregory A. 2004. "Understanding Fear's Effect on Unit Effectiveness," Military Review , July-August, pp. 22-27. 誤解されてきた戦場の恐怖 軍事学の歴史を振り返ると、戦争で人間が普遍的に感じるところの恐怖が研究の対象とされるようになったのは比較的最近のことであったと分かります。 これは恐怖を覚える兵士は勇敢であるとは言えない、という間違った通念が支配的だったため、表立って研究されることが少なかったためかもしれません。 著者が研究の出発点として位置付けているのは19世紀のフランスの軍事思想家シャルル・アルダン・ドゥ・ピック(Charles_Ardant_du_Picq)の研究であり、ドゥ・ピックは心理学的な観点から兵士が戦場で覚える恐怖に着目しており、それが「攻撃精神」を低下させ、引いては部隊の任務遂行に悪影響を及ぼしていることを初めて詳細に議論しました(Daddis 2004: 22)。 ただしドゥ・ピックの研究は一個人の研究であり、より体系的な調査が開始されるきっかけとなったのは第一次世界大戦以降のことでした。 この戦争で兵士はそれまでにない激しい砲撃や膨大な死傷者を目の当たりにし、第一線では兵士の恐怖にいかに対処するかが重大な問題として認識されるようになりました。 イギリス軍の軍医チャールズ・ウィルソン(Char...

論文紹介 サイバー戦のゲームを制作すべし

サイバー安全保障がこれほど大きな問題となっているにもかかわらず、十分な要員を確保することができず困っている国は日本だけではありません。米国では要員確保に取り組む第一歩として、その教育訓練に関する調査研究が進められています。 今回は、サイバー戦に備えるために必要な人員を訓練するためのゲームを提供することが政府として必要であることを提案した論文を紹介したいと思います。 文献情報 Christopher Herr, and Dennis Allen. 2014. Video Games as a Training Tool to Prepare the Next Generation of Cyber Warriors , Pittsburgh: Software Engineering Institute, Carnegie Mellon University. 米軍におけるゲーム開発の歴史 ゲームを教育目的で利用するという取り組みは目新しいものではありません。 さまざまな分野でゲームが優れた訓練用の教材となり得ることは実証されており、小学校や中学校の生徒に対する学科教育でも大きな成果を上げています。座学のような一方的な情報の伝達ではなく、学習者の自発的な参加が促されることが学習効果を高めると考えられています。 米軍でゲームが軍事訓練のために最初に導入されたのは1962年のこととされており、当時国防総省が出資してマサチューセッツ工科大学が開発した『宇宙戦争(Spacewar)』というゲームでしたが、まだ当時は二次元の空間に艦艇を展開し、ミサイルで交戦するという単純なゲームでした(Herr and Allen 2014: 8)。 戦闘モデルが三次元の空間にまで発展させたゲームは1970年代に開発された『戦闘地域(Battlezone)』であり、これは一人称視点でプレイヤーが戦車の砲手となるゲームであり、米軍はこのゲームを当時開発中だったM2ブラッドレー歩兵戦闘車の訓練用シミュレータに採用しました(Ibid.)。 こうした事業に基づく知見を踏まえて米軍では独自にシミュレーション・ネットワークの構築を始めます。 1982年には数百のシミュレーターをSIMNETと呼ばれるネットワークで結ぶことにより、複数人が戦闘機や戦車を仮想の空間で同...

軍隊の歴史における体育訓練の近代化

体育が軍隊の教育訓練において最も重要な要素の一つであることは明らかです。 どのような職種や職域であれ、兵士たるもの体力に優れていなければならず、それは全体としての部隊の能力にも影響を及ぼします。 しかし、体育を科学的に研究する機関が軍隊で導入されるようになったのは19世紀と最近の出来事でした。 今回は、19世紀デンマーク陸軍での事例を中心に体育訓練の近代化について説明したいと思います。 19世紀に認識された体育訓練の必要性 19世紀ヨーロッパ各国では近代的な軍事制度が導入されるようになり、徴兵制によって入営する多くの新兵に効率的な体育訓練を実施する必要性が高まっていました。 それまでの軍隊における訓練は体育よりも教練を重視することが一般的でした。 入隊すると兵士たちはまず教官の指導の下で「気を付け」、「休め」、「回れ右」等の各個教練を習得し、その次に分隊教練、小隊教練、中隊教練と徐々に規模の大きくして部隊教練に取り組んでいました。 しかし、このような方法では兵士各人の体力を効率的に改善することができませんでした。 さらに加えて、この時期には科学的方法によって体育を研究し、合理的に体力を向上させようとする努力が見られるようになります。 すでに近代的体操の研究は『青少年のための体育』(1793年)の著者であるドイツの教育学者グーツ・ムーツ(Johann Christoph Friedrich GutsMuths)によって始まっています。とはいっても、彼の体育理論が軍隊で本格的に導入されるまでには至っていませんでした。 軍隊と体育を結びつけたナクテガル グーツ・ムーツの体育理論に強い影響を受けた研究者にデンマークの体育学者フランツ・ナクテガル(Franz Nachtegall)がいました。 彼はグーツ・ムーツの体操の研究をさらに発展させるため、1798年に私立の体育クラブを設立し、自らの体育理論の実証的研究に取り組み始めました。 この研究は当時のデンマーク皇太子によってその価値が見いだされ、デンマーク陸軍もナクテガルの研究成果を軍隊の体育訓練に正式に活用する価値があると判断しました。 そして1804年8月25日には軍事体育研究所がコペンハーゲンで創設されることになり、ナクテガルはこの新たな研究所の所長に就任します(Leonard ...

論文紹介 女性を戦闘から排除すべきなのか

近年、米軍では戦闘任務に女性の兵士を充てることが適切かどうかが盛んに議論されています。 戦争の長い歴史を振り返ると、戦場で命を落としてきたのは圧倒的に男性であり、女性はそもそも兵士として見なされていませんでした。 したがって、女性が兵士として戦闘を担当するべきかどうかという問題は、新しい論点であると言えるかもしれません。 今回は、女性が歩兵として戦闘任務に直接的に従事することの妥当性を検討した論文を紹介したいと思います。 文献情報 Rice, Charles E. 2015. "Women in the Infantry: Understanding Issues of Physical Strength, Economics, and Small-Unit Cohesion," Military Review , (March-April): 48-55. 著者によれば、女性が兵士として戦闘に従事する契機となったのは、国防長官のパネッタ(Leon Panetta)による規制の撤廃でした。 元々、米軍では旅団以下のレベルで女性が地上戦闘に直接的に従事することを認めていませんでした(Rice 2015: 48)。 しかし、男女の機会平等という考え方が政府内部で普及すると、これまで男性だけに認められていた任務を女性にも開放することが平等ではないかというパネッタのような見解が一般に述べられるようになります。 著者は、このパネッタの見解に対して反対の立場をとっており、その理由の一つとして戦闘の特性について多角的に考察しています。 例えば、パネッタは戦場における女性兵士の勇敢さが男性兵士に劣るものではないとしています。 この論点について著者は、女性兵士が男性兵士に勇敢さで劣るものではないことは誰も異議をさしはさむものではないと断った上で、本質的な問題はそこにあるのではなく、地上戦闘で敵と近接する歩兵などの任務に必要な身体的特性を持っていないことであると指摘しています(Rice 2015: 49)。 「全般的に言えば、歩兵の任務に従事するために必要な体力の基準は二つの側面から成り立っている。一つの側面は、筋力、速力、持久力、敏捷性である。第二の側面は大規模な戦闘行動の異化ストレス(catabolic stress)に晒...

文献紹介 第一次世界大戦での戦術の進化

第一次世界大戦は近代的な陸軍戦術の原型が始めて具体化された戦争であり、現在の戦術を考える上でも貴重な手がかりが数多く含まれています。 今回は、戦術の研究で知られた陸軍少将バルクにより執筆された第一次世界大戦に関する研究を紹介したいと思います。 文献紹介 Balck, W. 1922(1911). Development of Tactics: World War , Bell, H., trans. Fort Leavenworth: General Service Press. 目次構成 序論 1.平和の訓練と戦争の現実 2.機動戦 3.西部戦線における陣地戦、1914年-1917年 4.東部戦線とイタリア戦線における戦争 5.戦争における戦技 6.陣地戦における防御戦闘 7.限定的目標に対するドイツ軍の攻撃 8.機関銃 9.歩兵の攻撃 10.世界大戦の前の騎兵 11.砲兵 12.1918年 結論 戦術の基礎は教練(drill)にあります。どれだけ時代が進んだとしても、教練が兵士を諸制式を学ぶための出発点であり、あらゆる部隊行動の基礎であることには変わりはありません。(基本教練の概要については 過去の記事 を参照して下さい) 著者が「私たちは、検閲のためではなく、戦争のために教練を発達させるのである」と述べたように、部隊教練を戦争の現実に適合するように手直しすることが極めて重要となります(Balck: 1922: 14)。 それがゆえに、第一次世界大戦で戦闘様相の変化に直面した各国陸軍は戦闘教練の抜本的な再検討に取り組まなければなりませんでした。 バルクが注目した事例の一つにフランス陸軍の取り組みがあります。塹壕戦の膠着状態を打破してドイツ軍に対抗するため、フランス軍は戦術を基礎から見直し、特に歩兵部隊の火力を運用するための戦術を大幅に刷新しています。 第一次世界大戦が勃発した当初、歩兵部隊は味方の砲兵と連携しながら攻撃をしていました。 つまり、歩兵部隊は敵の防御陣地が味方の砲撃で破壊された後に攻撃を開始していました。 確かに敵の防御陣地をあらかじめ破壊することができれば、歩兵部隊が前進する上で有利だと考えられますが、実際に砲撃を受けた敵は攻撃の企図を事前に察知することが可能であり、また突撃支援射...