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論文紹介 中国の航空母艦は脅威となるのか

2012年9月25日、「遼寧」と命名された航空母艦が配備されたのは、中国海軍にとって大きな転機となりました。 「遼寧」は基準排水量53,000t、全長305mの航空母艦ですが、国内で建造された艦艇ではなく、ソ連で建造が中断された航空母艦ヴァリャーグを購入し、修理を行ったものです。航空母艦の配備によって、より遠方で海上作戦を遂行することが可能になることが期待されました。 しかし、艦艇を配備したからといって、それが本来の戦闘機能を発揮できるとは限りません。今回は、中国海軍の航空母艦の問題を考察した研究を紹介したいと思います。 文献情報 Andrew Scobell, Michael McMahon, and Cortez A. Cooper III. 2015. "China's Aircraft Carrier Program: Drivers, Developments, Implications," Naval War College Review , Volume 69, Number 4(Autumn), pp. 65-80. なぜ中国は航空母艦を必要とするのか そもそも中国が防空母艦の配備が必要とした背景にはどのような判断があったのでしょうか。 著者はその要因を官僚的利益、民族主義の高まり、戦略的必要性の三つに区分して説明しています。 第一の官僚的利益としては海軍の地位向上が関係していると見られています。 それまで陸軍の影響力が強かった中国軍で海軍の発言権が増大したことを受けて、航空母艦の取得が進められており、2004年以降の中央軍事委員会では海軍の司令官が出席するようになったこともその表れであるとされています(Scobell, et al. 2015: 66-7)。 二つ目の要因として、航空母艦は民衆の民族主義的な支持を集める手段としても利用されていると述べられています。 著者は1996年の台湾海峡危機で中国が台湾に対する軍事的圧力を強めた際に、米国が2隻の航空母艦を送り込んだ経験から、海上支配を強化すべきという考え方が広がり、その世論が航空母艦の取得を後押ししていると述べています(Ibid.: 67)。 無論、こうした政治的要因だけでなく、軍事的要因が存在することについても著者は言及して...

論文紹介 知られざる太平洋戦争での米海軍戦術発達史

第二次世界大戦の海軍戦術に関する研究を読むと、日米で空母の運用に関する研究進捗に相違があったという見方があります。1941年の真珠湾攻撃で空母の集中運用に成功した日本海軍ですが、その後に空母の戦術、運用の研究を進めた米海軍の戦術によって敗北したという捉え方もここに含まれるでしょう。 しかしながら、そもそも米海軍で戦艦重視の教義が空母重視の教義へと転換したという解釈はどれほど妥当なのでしょうか。その結果、米海軍は日本海軍に対して戦術的優位に立ったと判断できるのでしょうか。これらの疑問は必ずしも解決されていませんでした。 今回は、この問題に取り組んだ研究論文を取り上げ、その内容を一部紹介してみたいと思います。 文献情報 Hone, Trent. 2009. "U.S. Navy Surface Battle Doctrine and Victory in the Pacific," Naval War College Review , 62(1): 67-105. そもそも艦隊決戦を想定していた米海軍の戦闘教義 著者は、米海軍が日本海軍よりも迅速かつ的確に戦艦中心の教義を捨て、空母による航空打撃戦の教義を発展させたという解釈は、非常に一面的で問題が多いと批判しています。 なぜなら、当時の米海軍の内部で進められた戦術研究を調べると、米海軍は当初から空母による航空打撃戦に重点を置いて戦術の研究に取り組んでいたわけではないためです。 1941年、太平洋艦隊司令長官に就任したニミッツ(Chester W. Nimitz)は日本海軍の真珠湾攻撃によって損害を受けた艦隊の再建に着手します。しかし、日本海軍が見せた空母の集中運用が直ちに米海軍の戦闘教義に取り入れたということはありませんでした。これは当時の米海軍の教義がすでに戦間期に確立されており、これを容易に変更することが難しかったことと関係しています。 戦間期に米海軍の教範で策定された標準的な戦闘陣の概念図。 戦列の針路(太矢印)は敵の方向(細矢印)に対して直角に向け、その周囲に駆逐艦、巡洋艦が占位する。 戦列から敵の方向に対しては視界・射界を確保しており、典型的な艦隊決戦を想定していることが分かる。 (Ibid.: 70) 当時の米海軍の教義では「戦列(bat...

論文紹介 航空母艦に将来性はあるのか

海軍の歴史を振り返ると、それは技術革新の歴史であったことが分かります。内燃機関の導入、砲弾の威力向上、軍艦の機能分化、装甲艦の一般化など新たな技術が登場すれば、それは海上戦闘の様相を一変させ、引いては国際政治の勢力関係を変えてきました。 今回は、20世紀の海軍史に大きな影響を与えた航空母艦を取り上げ、21世紀における将来性について評価した研究論文を紹介したいと思います。 文献情報 Rubel, Robert C. 2011. "The Future of Aircraft Carriers." Naval War College Review , 64 (4): 13–27. この論文で著者は教義という観点から米海軍における空母の運用を考察した上で、現在の海軍を取り巻く技術的環境を分析し、両者を総合することで空母の将来性を評価しています。 空母の発達と主力艦としての運用 当初、米海軍における空母の運用は情報収集を主眼としたものでした。これは軍事目的での航空機の運用が(第一次世界大戦における)陸上作戦の航空偵察から始まったことが関係しており、いわば空母は海上で偵察機を運用するためのプラットフォームとして位置付けられていたのです(Rubel 2011: 15)。しかし、このような空母の運用は航空機の性能が改善されるにつれて変化していきました。 米海軍で空母が戦闘で決定的役割を果たすことが認識されるようになった契機は第二次世界大戦であり、日本海軍による真珠湾攻撃、米海軍によるドゥーリットル空襲で一撃離脱を基本とする空母の集中運用の有効性が確認されることになります(Ibid.)。 それまで海軍では主力艦(capital ship)という用語は主として排水量が大きく、砲力に優れた艦艇に対して用いられてきましたが、航空攻撃の威力が増大するにつれて空母も主力艦としての役割を果たし得るという考え方が広がり、主力艦の一種として見なされるようになります(Ibid.: 15-6)。 技術革新による空母の脆弱性の増大 第二次世界大戦が終結すると、空母の新たな役割として核攻撃のプラットフォームが追加されることになりました。核ミサイルを塔載した原子力潜水艦の運用が確立されるまでの間、空母は洋上から戦略爆撃機を発進させるという任務を担い、核...