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論文紹介 沖縄に基地を置く軍事的理由

なぜ沖縄に米軍基地が集中しているのでしょうか。端的に答えれば、それは南西諸島が持つ戦略的価値が東アジア地域で極めて大きいためです。 しかし、より具体的にその理由を理解するためには、安全保障の観点から見て、その地域の特性がどのようなものであるのかを評価することが必要です。 今回は、日本の南西諸島にどのような戦略的価値があるのかを説明するため、マハンの戦略理論を東アジアに適用した米海軍大学校の研究論文を取り上げ、その内容を紹介したいと思います。 文献情報 Eric Sayers. 2013. "The "Consequent Interest" of Japan's Southwestern Islands: A Mahanian Appraisal of the Ryukyu Archipelago," Naval War College Review , 66(2): 45-61. 戦略とは政治的目的を達成するために軍事的手段をどのように運用するのかを指示する構想または計画を言います。つまり、ある地域において保持すべき戦略陣地はその国家が遂行しようとする政策によって変化する性質があります。 この論文の著者が紹介しているように、19世紀の海洋戦略の研究で権威とされるマハン(Alfred Thayer Mahan)は、かつて米国の安全保障に直接関係する海域としてメキシコ湾、カリブ海を取り上げ、その地理的環境について検討したことがあります(Sayers 2013: 45)。 しかし、現代の米国が重視する海域は太平洋、インド洋であり、その大きな理由はやはり中国の政治的、軍事的な勢力拡大が顕著であることに求められます(Ibid.)。南西諸島はちょうどその最前線に当たります。 日本の南西諸島の地図。第二次世界大戦以降、米国が沖縄を長らく占領統治してきたが、1972年に日本に返還。 九州の南端から台湾の北端にまで島嶼が分布しており、東シナ海とフィリピン海を隔てる位置にある。 (Ibid.: 48) 南西諸島は東シナ海とフィリピン海を隔てる島嶼群であり、その中央には沖縄諸島があり、その北東には奄美諸島等が、その南西には宮古列島等が位置しています。いずれも中国の勢力圏に極めて近接していることが地図...

論文紹介 敵地攻撃能力から考える日本の防衛

現在、日本が戦略として採用する基本的な考え方は専守防衛に依拠しています。 政府の公式見解によれば、専守防衛とは相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する自衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢と規定されます。 そして、戦略より下位の作戦、戦術はすべてこの戦略に基づいて組み立てられるのです。 今回は、この専守防衛を採用する日本が弾道ミサイルの脅威に対応する上で必要とする敵地攻撃能力の意義と限界を、戦略的観点から考察した論文を紹介したいと思います。 文献情報 高橋杉雄「専守防衛下の敵地攻撃能力をめぐって――弾道ミサイル脅威への1つの対応――」『防衛研究所紀要』第8巻第1号、2005年10月、105-121頁 敵地攻撃と国土防衛は矛盾しない 正規空母「ロナルド・レーガン」の飛行甲板。洋上から固定翼機を発進させることができる正規空母は、攻撃的能力を強化する代表的な装備と見なされていることから、現在の日本では整備されていない。 専守防衛のような受動的な防衛戦略を宣言しているのは、必ずしも日本だけではないのですが、著者は攻撃的能力の保持を厳格に自制してきた点に特異性があると見ており、「他国に対する攻撃性を極小化した防衛力を構築してきた」と述べています(高橋, 106頁)。 これは攻撃的能力に該当する装備として、射程や航続距離等から大陸間弾道ミサイル、戦略爆撃機、航空母艦等を保持しない方針を日本が堅持していることを意味しますが、これらの装備は必ずしも国土防衛の考え方に矛盾するわけではありません。 そもそも攻撃的能力を持つことが侵略的意図を持つことを必ずしも意味せず(同上)、現に多くの国家が侵略的意図を持つことなくこうした装備を運用しているためです(同上、107頁)。 純粋に自国の防衛だけを追求した戦略であっても、単に防御を固めるばかりではなく、状況によっては攻撃に移行する必要があることを、著者は次のように説明しています。 「相手が自国を攻撃するのを防ぐために、自ら敵地を攻撃して敵の軍事力を撃破することは、『攻勢防御』あるいは『積極防御』と呼ばれる防御的な軍事戦略の1つである。また、純粋に防御に徹しているだけでは、ある程...

論文紹介 日本のシーレーン防衛と陸上自衛隊の意義

日本は対外貿易のほぼすべてを海上交通に頼る国家であり、シーレーンに加えられる脅威は直ちに日本の安全保障にとって深刻な悪影響を及ぼす危険があります。 このような安全保障環境において日本が重視すべき防衛力とは、第一に海上戦力、第二に航空戦力と考えられ、陸上戦力の位置付けは第三に置かれてしまいがちです。 しかし、だからといって陸上戦力の人員や装備の充実は軽視されても良いという考え方は短絡的であり、陸上戦力が海洋国家の安全保障にとってどのような意味を持つのかを理解することが重要です。 今回は、日本のシーレーン防衛における陸上自衛隊の役割を考察した論文を紹介し、その成果について検討してみたいと思います。 論文情報 吉富望「海上交通の安全確保における陸上自衛隊の役割――海洋国家の陸軍種として――」『国際安全保障』第43巻、第1号、2015年6月、106-122頁 シーレーン防衛の重要性と陸上戦力の役割 鹿児島県志布志市にある国家石油備蓄基地。 日本では全国に備蓄基地が10カ所建設されており、官民合計で約190日分の消費量を支える水準の備蓄がある。原油輸入に使用するシーレーンが脅威を受けた場合には、経済産業大臣の権限に基づいて使用することが可能。 日本にとってシーレーンがどれほど重要なものであるかということは、すでに広く知られていますが、特にその理由として大きなものとしてエネルギー資源、特に原油資源の確保に必要であることが挙げられます。 第二次安倍内閣で策定された『国家安全保障戦略』でも、「海上交通の安全を確保するとともに、各国との海洋安全保障協力を推進する」ことが述べられていることを著者は紹介し、その防衛が日本の安全保障上の課題であることを説明しています(吉富、106頁)。 しかし、このシーレーン防衛の課題に取り組む手段を海上戦力に限定して考えることは適切ではないと著者は論じています。なぜなら、シーレーンに対する脅威は必ずしも海上作戦だけで対処できるとは限らないためです。 ティル(Geoffrey Till)の研究では、海上交通にとっての脅威に地域紛争、テロリズム、海賊、事故や災害などの不測事態の四種類があるとされていますが、著者は不測事態以外はいずれも陸上の状況に根本的な原因が存在していることを指摘しており、また海上交通路の起点と終...

論文紹介 自衛隊も接近阻止/領域拒否(A2AD)を重視すべきか

近年の東アジア地域の安全保障環境において、日本が検討すべき戦略として接近阻止/領域拒否( A2AD )を挙げている研究者がいます。つまり中国軍が対米戦略として採用している戦略を日本としても採用することにより、少なくとも中国軍の海洋への進出を手詰まりに追い込むことができるという考え方です。 今回は、戦略研究の観点から日本の戦略として接近阻止の重要性を考察した論文の内容を紹介し、その意義と限界について考察したいと思います。 論文紹介 Toshi Yoshihara. 2014. Going Anti-Access at Sea: How Japan Can Turn the Tables on China , Maritime Strategy Series, September, Washington, D.C.: Center for New American Security. http://www.cnas.org/sites/default/files/publications-pdf/CNAS%20Maritime2_Yoshihara.pdf (Accessed 2016/3/11) 近代化する中国軍の脅威 052D型駆逐艦。現在、中国海軍で配備が進められているミサイル駆逐艦。 主要な兵装はHHQ-9であり、諸説あるが射程200km、32セルのVLSが2基搭載。 近年の日中間の勢力関係について著者は、基本的に日本が不利であるという見方を示しています。 中国海軍は着実に戦力規模の拡大を続けており、2000年から2010年にかけて攻撃型潜水艦は5隻から31隻に、初の航空母艦として遼寧が配備されただけでなく、ソブレメンヌイ級駆逐艦もロシアから4隻調達しました(Yoshihara 2014: 4)。 また中国海軍の052D型駆逐艦の性能は、海自のこんごう型護衛艦に匹敵するとさえ述べられています(Ibid.)。 また戦力を整備するだけでなく、中国海軍は2008年以降に東シナ海から太平洋に向けて繰り返し航行するようになっており、2013年には初めて水上任務群が日本列島の周航を行うことにも成功しました(Ibid.)。また2013年に中国政府は一方的に防空識別圏の設定を通告し、外国の航空機に飛行計画の提出を要求しただけでなく、この防空...

論文紹介 米国のオフショア・コントロールと日中貿易のリスク

オフショア・コントロール(offshore control)とは、現在米国で研究が進んでいる対中戦略の一種です。 すでに中国は第一列島線、第二列島線によって地理的に区切られた防衛圏を形成する構想を明らかにしており、近年の中国の海洋進出はこのような構想を実現するための活動と考えられています。 中国が設定する第一列島線と第二列島線の位置関係。 (平山2014: 11)より引用。 この中国の戦略に対抗するため、米国では当初、海軍と空軍の協同連携によって中国の重層的な防衛線を潜入突破することを目指す戦略構想、エアシー・バトルの研究が始まりました。 しかし、予算見積の結果を受けて、エアシー・バトルは国防予算の制約上、実行可能性に乏しいことが批判されるようになりました。 結局2015年現在では抜本的に戦略の見直しが進められることになっており、そのエアシー・バトルの代替案として浮上したのがオフショア・コントロールです。 今回は、海上自衛隊幹部学校から出されている研究論文を紹介し、特に日本の立場からオフショア・バランスを考察した部分を中心に紹介します。 文献情報 平山茂敏「オフショア・コントロール戦略を論ずる―「戦争を終わらせるための戦略」と日本の選択」『海幹校戦略研究』2014年6月(4・1)6-26頁 (http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/review/4-1/4-1-2.pdf) この論文は、米国のオフショア・バランスがどのような戦略であるのかを解明するために、この構想の提唱者である米国防大学のハメス(T. X. Hammes)の研究内容を調査しています。 その調査結果をまとめると、オフショア・コントロールとは中国と米国の限定戦争を想定した上で次のような構想が盛り込まれています。 (1)中国の沿岸から第一列島線までの海域に潜水艦部隊等を進出させ、中国海軍がその海域で海上優勢を確立することを拒否する。 (2)中国の第一列島線上に位置する海域または空域を防衛する。 (3)第一列島線から外側の海域または空域に対する支配を強化し、特に中国の船舶に対してはチョークポイントを封鎖する。 チョークポイントの封鎖はいわば中国の軍艦、商船の両方を海上交通路から排除するという海洋戦略であり、米中の対立が...

論文紹介 防衛学とは何か、自衛隊の視座から

軍事学には学問として長い歴史があり、時代や地域によって呼び方も変遷してきました。 19世紀には戦争学(study of war)、軍事科学(military science)などの名称もありましたが、20世紀以降になると防衛学(defense studies)、戦略学(strategic studies)、安全保障学(security studies)などの名称も使われるようになります。 とはいえ、それぞれがまったく別の学問として存在しているというわけではありません。 名称が変更される理由としては、研究上の関心が変化を表現すること、研究予算の獲得のための非研究者への説明、また研究組織の新規の立ち上げに当たって、都合が良い名称が変化する等があります。 日本における軍事学の歴史を見ると、警察予備隊から保安隊を経て自衛隊が発足した時に同様の状況があったことが分かります。 防衛大学校では現在でも「軍事学」は研究から外されており、名称としては「防衛学」が研究されています。今回は防衛学という学問をどのように規定するのか、その取り組みについて知ることができる論文を紹介したいと思います。 論文紹介 服部実「防衛学の概念および分類」『防衛大学校紀要』1975年、31号、109-134頁 著者は1916年生まれの旧陸軍士官(50期)であり、復員局勤務を経て1954年からは陸自に勤務していました。1969年から防衛大学校で防衛学の講師として教鞭をとり、1972年以降は教授に就任しています。 この論文では防衛大学校の独自教科でもある防衛学について概念的な整理が行われており、軍事学との差別化を図っています。 まず著者は防衛学という名称がどのような成り立ちを持つかという論点について諸説を検討しています。 「「防衛学」の概念についての意見の一つは、「防衛学」は軍事学あるいは兵学と同義語であるとするものである。警察予備隊発足当時から、世評を慮り、軍、兵、戦、武といった字を極端に避け、戦車を特車といった時代であったから、軍事学とか、兵学という言葉のかわりに、「防衛学」という用語を使ったのだろうと考えられている」(109頁) これは当時の自衛隊が置かれていた社会的、政治的状況を重視する説ですが、著者はそれ以外の説にも注目しています。すなわち、防衛学は軍事学の従...

論文紹介 水陸両用作戦能力における自衛隊の課題

今回は、海上自衛隊の幹部学校における水陸両用作戦に関する調査研究の成果の一部を紹介したいと思います。 中矢潤「我が国に必要な水陸両用作戦能力とその運用上の課題 米軍の水陸両用作戦能力の調査、分析を踏まえて」『海幹校戦略研究』2012年12月(2・2)、82-100頁 http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/review/2-2/2-2-6.pdf (海上自衛隊幹部学校については こちら からどうぞ) 目次構成 はじめに 1.米軍の水陸両用作戦の概念等 2.米軍の水陸両用作戦能力 3.我が国の水陸両用作戦能力 4.水陸両用作戦能力を保持した場合の運用上の課題 おわりに 米軍の水陸両用作戦の教義や戦力を解説している部分も興味深いのですが、この論文で特に興味深いのは日本の水陸両用作戦能力に関する見積が示されている部分です。 防衛白書では「事前に兆候が得られず島嶼を占領された場合は、これを奪回する」方針が示されています。 しかしながら、著者は現在の国際情勢の特性を判断する限り、敵が島嶼を突如として着上陸して占領したとしても、その戦力の規模は小規模であるだろうと予測します。 したがって、この論文で扱う問題は基本的に自衛隊の現状の勢力を大幅に増強しなくても対応可能な範囲に限定しています。 さて、水陸両用作戦のために必要な海上優勢と航空優勢の確保に関しては、自国の領土が作戦地域となるため現状の自衛隊の能力である程度の対応は可能としています。 ただし、課題として陸上自衛隊の上陸部隊を揚陸するための上陸用舟艇が必要であることが示唆されています(中矢: 94)。 というのも、現在の自衛隊の装備では「おおすみ」型輸送艦搭載のエア・クッション揚陸艇を使用することが可能なのですが、これは人員や武器、装備の輸送力、運搬能力において上陸用舟艇に劣っているためです。 米海軍の上陸用舟艇LCU-1610型LCU1627。 独航型とは異なって揚陸艦に艦載されるもの 論文で引用された著者による米軍の第11水陸両用戦隊司令官のインタビュー調査によれば、エア・クッション揚陸艇と上陸用舟艇には次のような異なる特徴があります。 「エア・クッション揚陸艇(LCAC)と上陸用舟艇(LCU)に関し、LCAC は高速で...