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学説紹介 どうすれば士気を高めることができるか

Staff Sgt. Katherine Spessa. Feb. 17, 2017.  士気(morale)は部隊に所属する各個人の心理状態を合わせたものであり、戦闘効率を高める重要な要因として位置付けられています。 統率力(リーダーシップ)を発揮して士気を高めることは、指揮官が任務を遂行する上で欠かすことができないといえます。 今回は、アメリカ海軍協会から刊行された統率論の参考書に沿って、部下の士気を高めるために必要な措置に関する解説を紹介したいと思います。 士気は小さいことの積み重ねである Lance Cpl. Sarah Stegall. Jan. 4, 2017.  Basic Warrior Training is a 48 hour training evolution that covers land navigation. 古来から軍人は士気を高めることの重要性を認識し、統率者の使命はこれを高いレベルに保つことだと考えてきました。 というのも、士気が低下すれば部隊の能力は低下し、転属や退職を願い出る者、規律を乱して事故を起こす者、最悪の場合には命令に従わないなどの重大な事態にまで発展する危険があるためです。 軍隊の戦闘力への影響で見れば、物理的要因の3倍の効果を心理的要因が及ぼすとナポレオンが主張したことは決して誇張ではありませんでした(アメリカ海軍協会、226-7頁)。 しかし、部下の士気を高めることは決して簡単な仕事ではなく、日頃の地道な取り組みがなければ士気を改善することができないと文献でも述べられています。 「「士気とは小さいことの積み重ねである」といわれている。これほど、この重要な要因を正確に表したものはあるまい。なぜならば、人間に満足感を覚えせしめるすべてのものは士気を増強し、個人としての人間を煩わすすべてのものは士気を低下せしめるからである」(同上、227頁) こうした士気の複雑性は、手っ取り早い改善策が存在しないことの裏返しでもあります。 士気とは究極的には各個人の心理状態に起因するものですので、生活状況、食事、住宅、規律、給与、職務内容のすべてが影響してきます(同上)。 こうした諸条件において、その個人が集団の一員として重要な働きをしてい...

論文紹介 兵士は恐怖との戦い方を知っている

恐怖とは戦争の本質と言えます。しかし、兵士は恐怖を押し殺し、自分の命を危険に晒してでも、断固として与えられた任務を遂行することが求められます。 銃声と爆音が辺りを支配し、敵の散兵と戦車が自分たちに向かって来るのが見えた時、兵士一人ひとりが規律と冷静を保ち、指揮官の命令に基づいて整然と自分の持ち場を守ることは、それ自体が一種の偉業とさえ言えるかもしれません。 しかし、これはどのようにして可能となっているのでしょうか。この疑問を解決するためには、軍事学において戦闘の恐怖がどのように研究されているのかを知る必要があります。 今回は、軍事心理学の研究を踏まえて戦場における恐怖について説明し、それに対応するための方法について考察した論文を紹介したいと思います。 文献情報 Daddis, Gregory A. 2004. "Understanding Fear's Effect on Unit Effectiveness," Military Review , July-August, pp. 22-27. 誤解されてきた戦場の恐怖 軍事学の歴史を振り返ると、戦争で人間が普遍的に感じるところの恐怖が研究の対象とされるようになったのは比較的最近のことであったと分かります。 これは恐怖を覚える兵士は勇敢であるとは言えない、という間違った通念が支配的だったため、表立って研究されることが少なかったためかもしれません。 著者が研究の出発点として位置付けているのは19世紀のフランスの軍事思想家シャルル・アルダン・ドゥ・ピック(Charles_Ardant_du_Picq)の研究であり、ドゥ・ピックは心理学的な観点から兵士が戦場で覚える恐怖に着目しており、それが「攻撃精神」を低下させ、引いては部隊の任務遂行に悪影響を及ぼしていることを初めて詳細に議論しました(Daddis 2004: 22)。 ただしドゥ・ピックの研究は一個人の研究であり、より体系的な調査が開始されるきっかけとなったのは第一次世界大戦以降のことでした。 この戦争で兵士はそれまでにない激しい砲撃や膨大な死傷者を目の当たりにし、第一線では兵士の恐怖にいかに対処するかが重大な問題として認識されるようになりました。 イギリス軍の軍医チャールズ・ウィルソン(Char...

論文紹介 戦争で作戦部隊の指揮官がいるべき場所

かなり以前に軍事学について関心を持たれたある方からこうした質問を受けたことがあります。 「昔に比べれば近代の戦争で指揮官の所在は前線から後方に変化したと思うが、それは現場からどの程度離れた場所が適切なのか」 これは非常に複雑な問題であり、作戦指揮に対する考え方や戦況、さらに組織における上官と部下の関係などと関係があります。 今回は、第二次世界大戦の事例を中心に、作戦部隊の指揮官がどこに位置するべきかを考察した研究論文を紹介します。 文献情報 Ware, Howard L., III. 1989. Command Presence: Where Should the Operational Commander be Located on the Modern Battlefield? Monograph, Fort Leavenworth: School of Advanced Military Studies, United States Army Command and General Staff College. 部下の決断を 尊重したブラッドレー この論文は、将来の戦争で作戦の指揮をとる際に、前線からどの程度の距離を置くことが適切なのかを解明することを目的としており、著者は第二次世界大戦で知られる6名の将軍の事例を選び、それぞれが作戦の指揮においてどこにいたのかを比較検討した上で、複数の教訓を抽出しています。 最初に取り上げられているのは、ブラッドレー(Omar N. Bradley)ですが、著者によればブラッドレーは米軍の歴史で最も長い期間にわたり野戦軍の指揮官であり続けた将軍であり、第82師団、第28師団の師団長を歴任した後に、北アフリカで第2軍団の指揮官となり、ノルマンディー上陸侵攻に当たっては第1軍を率い、第二次世界大戦の末期には第12軍集団の指揮をとりました(Ware 1989: 11)。 したがって、戦後には初代統合参謀本部議長にまで上り詰めたブラッドレーは、多くの戦闘経験を持つ熟練の指揮官であったといえますが、彼は次のように自らの指揮官としての考え方を述べたことがあります。 「マーシャル将軍から私は効果的な指揮の秘訣を学んだ。戦争を通じて私は注意深く部下の任務に干渉することを避けた。私が期待したように部下...

論文紹介 下士官はいかに軍隊を支えてきたか―歴史的考察

軍人の階級は士官、下士官、兵卒の三種類に分類できることは、広く知られています。 しかし、下士官が士官と兵卒の中間においてどのような役割を果たしているのかは、それほど広く知られていません。 今回は、歴史的観点から下士官の役割を考察するため、米軍の歴史における下士官の制度の発展を調査した研究について紹介したいと思います。 論文情報 Arms, L. R. 2009. "The NCO: A Short History," NCO Journal , 18(1): 14-20. 創設期のアメリカ軍における下士官の位置付け 米国の歴史で下士官の重要性を最初に明確にした著作は、1778年にシュトイベン(Friedrich von Steuben)が出した『合衆国軍の組織と規律に関する規則(Regulations for the Order and Discipline of the Troops of the United States)』であり、これによって下士官の任務がはじめて体系的に整理されました。 元プロイセン陸軍大尉だったシュトイベンはヨーロッパでもともと就職活動をしていたのですが、最終的にアメリカ独立戦争でイギリス軍と戦っていたアメリカ大陸軍に入隊を果たし、ワシントンの部下として訓練計画や教範作成に携わります。 業務を通じてシュトイベンはアメリカ軍に決定的に欠けているのは下士官であると強く認識するようになります。 先ほどの著作は当時では単に「青本(Blue Book)」と呼ばれたもので、そこでシュトイベンは下士官の階級を伍長(Corporals)、軍曹(Sergeants)、曹長(First Sergeants)、需品軍曹(quartermaster sergeants)、先任曹長(sergeants major)に区別し、それぞれの任務を次のように規定しました(Arms 2009: 14) ・先任曹長 連隊付の副官の業務を補佐し、部隊の名簿を管理し、部隊の内情を掌握し、連隊の対内的な管理や規律に関する問題を処理する。 ・需品軍曹 連隊の需品科士官の業務を補佐し、適切に所要を見積り、行進における連隊の物資の輸送を監視する。 ・曹長 部隊において規律を保ち、任務の遂行を確実にする。また部隊の名簿を管理す...