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論文紹介 NATO加盟国は対テロ作戦で団結せよ

2015年11月にパリで起きたテロ事件、2015年と2016年にトルコで相次いだテロ事件を受けて、近年のヨーロッパ諸国ではテロリズムに対する脅威が強く認識されるようになっています。 大西洋条約機構(NATO)は対テロリズム作戦の態勢を強化し、これまで以上に域内の対内的安全保障に取り組み始めています。 今回は、このような取り組みにおいて多国間での特殊作戦部隊の連携を重視すべきと主張する研究を紹介したいと思います。 文献情報 Miller, Matthew E. "NATO Special Operations Forces, Counterterrorism and the Resurgence in Europe," Military Review , July-August 2016, pp. 55-60. NATOは専門の対テロ部隊を必要としている 一般にNATOはヨーロッパの防衛の基盤として知られていますが、それは対外的な脅威を想定した組織であり、対内的な脅威は十分に考慮されてきませんでした。そのため、これまでのNATOで特殊作戦部隊は対テロ作戦を主な任務とされていません。著者はこのような現状では大規模なテロリズムの脅威に対処することは困難であるとして、次のように論じています。 「国際テロリストの脅威がNATO全体に及んでいることが明々白々であるにもかかわらず、政策の間違いか、現実からの逃避のいずれかかによって、対テロ作戦(counterterrorism)は未だにNATOの特殊作戦部隊の主要任務となっていない。その結果、公式に定められた対テロ任務を除けば、NATOの特殊作戦部隊は、いざ大規模なテロの危機が起きた際には、協調の問題に取り組むにはあまり効率的ではないやり方であるものの、公式もしくは非公式に加盟国の特殊作戦部隊の対テロ部隊に取って代わられることになるであろう。したがって、ISの急速な拡大とヨーロッパにおけるテロリズムの脅威の拡散という観点から、今こそNATOに対テロ任務を専門とする部隊を創設すべきである」(Miller 2016: 56) 歴史的に見れば、ヨーロッパ諸国では大規模なテロリズムが発生するごとに対テロ作戦の能力を強化してきました。しかし、それは各国が独自の取り組みに止まり、多国間の協調...

いかに自爆攻撃は行われるか

つい最近、イスタンブールやジャカルタで自爆攻撃があったことが報道されたのを機会に、改めて自爆攻撃の威力とその恐ろしさが認識されています。 自爆攻撃(suicide attack)とは攻撃者にとって攻撃それ自体が死を意味するためにそう呼ばれていますが、攻撃者が爆弾を爆発地点にまで運搬し、可能な限り多数の損害を与えるか、もしくは特定の対象を暗殺するために実施される攻撃方法です。 今回は、この自爆攻撃の実施要領とその対処法について米陸軍の教範に基づいて説明し、それがいかに実施されるのかを理解する一助にしたいと思います。 自爆攻撃の目標 まず、戦術としての自爆攻撃の特徴はその単純性であり、攻撃の完了と同時に退却する必要もなく、またその実施に当たって部隊の行動や訓練を必要としません。 米軍の教範によれば、自爆攻撃で唯一必要なことは、その兵士が攻撃の際に不安を感じることなく自爆できるように行動することです(FM 3-21.10: G-10)。 米軍で紹介されている自爆攻撃に使用する爆弾の一例。 体の前に装着するもの以外にも背負って装着する形態もあるため形は一様ではない。 これまでの研究によれば、自爆攻撃の対象とされやすい目標には非常に多くの種類があります。 一般的に想定される攻撃目標としては、部隊、車両、基地、警衛、斥候、連絡要員、軍隊に協力的な住民、在外公館や国際機関の人員、車両、施設、政府の要人、市場や店舗などの民間人などが挙げられます(Ibid.)。 したがって、不特定多数の人間が接近し得る場所はすべて潜在的な自爆攻撃の目標となり得ることになります。 人体に爆弾を固定した自爆攻撃者の特徴 自爆攻撃の手口には大きく分けて人体に爆弾を固定する方法と車両に爆弾を搭載する方法がありますが、ここでは前者の方法に絞って説明します。 前者の方法による自爆攻撃は性別、年齢を問わず誰であっても実施することができるという点が重要です。児童、老人、少女など一般に警戒されにくい人間によって実施されることが少なくありません。自爆攻撃の危険を事前に察知することは非常に難しいことではありますが、以下の特徴によって識別できる場合もあると教範では述べられています。 ・攻撃者は攻撃目標の環境に溶け込もうとし、目立つ行動で注目を集めないように配慮する。 ・攻...

論文紹介 移民は安全保障上の脅威となり得るか

近年、ヨーロッパ各国では中東、アフリカから押し寄せる難民の受け入れをめぐって大きな国民的議論が巻き起こっています。 各国ごとで議論の内容はさまざまですが、一般に争点となっているのは難民の受け入れによって、その国家の安全保障が脅かされる度合いであり、例えば難民に紛れ込んで国際テロリスト集団の構成員が潜入する可能性がどの程度高まることが懸念されています。 これは難民だけでなく移民の議論にも影響を与えており、国籍取得や在留許可について一層厳密な審査や管理のあり方が検討されています。 今回は、こうした問題が表面化する前の2006年に執筆された論文を紹介し、移民と安全保障の関係を説明してみたいと思います。 文献情報 Adamson, Fiona B. 2006. "Crossing Borders: International Migration and National Security," International Security , 31(1): 165-199. 移民は安全保障上の問題として認識する必要がある 著者によれば、これまでの安全保障学の研究は軍事力と関係を持つ対外的安全保障に注意がかたよる傾向があり、警察力と関係がある対内的安全保障が軽視されやすいという問題がありました。 「安全保障学の主流派の研究者たちは、これまで国内の政治的、政策的課題に対してあまり関心を示さないか、あるいは小さな関心しか示してこなかった。しかし、国際安全保障の研究者と政策立案者は、グローバル化の過程で強化された相互的統合の世界において、移民と安全保障の関係を無視することができないことに気が付き始めている」(Adamson 2006: 167) とはいえ、著者は移民が安全保障に与える影響を考えるためには、移民にもいくつかの種類があることに注意が必要であることも理解しています。 自発的な移民と強制された移民、経済的理由による移民と政治的理由による移民、そして正規の移民と不正規つまり非合法的な移民、定住を目的とした移民と帰国を前提とした移民など、移民といっても一概にその性格を特徴付けることは難しいため、状況に応じて移民の性格を判断することが重要であることも示唆されています(Ibid.: 171-175)。 移民は国家の統治能力、...