長い国境を持つ国家の陸軍では、広正面防御(expanded defense)が重要な戦術上の課題となります。広正面防御とは、正面が我の戦力に比して著しく広いために、部隊間の相互支援が制限される状況で行われる戦術的防御の一種です。言い換えれば、普通の場合よりも広域に部隊を展開することになるため、広正面防御は防者にとって不利な防御の方式なのです。 今回は、師団運用の観点から広正面防御の適切な方法について考察した論文を紹介したいと思います。 文献情報 Betson, William R. 1987. The Problem of Width: Division Tactics in the Defense of an Extended Front , Monograph, Fort Leavenworth: U.S. Army Command and General Staff College. 広正面防御で「戦力の集中」を重視すべきなのか この論文が執筆された1980年代、西ヨーロッパ防衛に当たる北大西洋条約機構の主力である米軍では、ソ連を中心とするワルシャワ条約機構の部隊に対して広正面防御を行う戦術を明らかにすることが求められていました。 当時の米陸軍の編制を見ると、1個の歩兵大隊は1キロメートルから5キロメートル程度の正面にわたり防御陣地を占領する能力がありました。 したがって、5キロメートルよりも広い地域に1個大隊を展開しようとすると、現場では人員不足に陥るため、戦闘力を有効に発揮できません。 そこで当時の米陸軍の教範では広正面防御においては特定の要点を防御し、他の前線に部隊を配置しないことで、戦力の節約と集中を図るように指示されていました(Betson 1987: 4-5)。 確かに、教範が示した考え方であれば、味方の戦力の集中は容易ですが、味方の防御陣地がごく一部の地域に限定されるため、敵がその弱点を突いて味方に攻撃を加えると、対応できない恐れがありました。 著者はこの点を「広正面に対して戦力を節約し、危険を冒すことが必要であるならば、敵による可能行動に作戦計画をある程度は依拠せざるをえない」と指摘しています(Ibid.: 9)。 錦江線の戦い(1950)における広正面防御の問題 ウィリアム・ディーン(1...
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