政治学者ハンス・モーゲンソーは国際関係論の古典『国際政治』の中で国力の一要素に「政府の質」が含まれることを論じましたが、具体的には国力を形成する資源と達成すべき政策目標の調整を行う能力、各種資源の間の均衡を図りつつ調整する能力、そして対外政策を推進するために必要な民衆の支持を獲得する能力の三つに注目していました。 今回は、政治的能力として民衆の支持を得るために世論を指導する能力が重要であるというモーゲンソーの議論を紹介したいと思います。 民主主義における政策決定 モーゲンソーは政府が政策を遂行するために各種国力を動員しようとしてもできない状況というものがあり、これは特に現代の民主主義において重要な問題であると認識していました。 「政府は、その対外政策に対する自国民の承認と、国力の諸要素―これが政策を裏付ける―を動員するためにもくろまれる国内政策への国民の承認を獲得しなければならないのである。このような作業が困難なのは、ある対外政策に対する民衆の支持が得られる条件が、対外政策を首尾よく追及できる条件と必ずしも同一ではないからである」(モーゲンソー、157頁) つまり、対外政策で成功を収めるためには、国内政策で国民の支持を失わざるを得ないという状況があり得るということです。 世論が重視する短期的利害 このような状況が生じる背景には情報の非対称性があるとモーゲンソーは説明しています。つまり、政策決定に関与する政治家とその政治家を評価する民衆の間には判断基準において大きな相違があり、共通の視点から国益を考えることを妨げるということです。 そのため政治家は対外的必要性と対内的必要性の両方を同時に判断し、政策決定においては両者の妥協点がどこにあるのかを見極めなければなりません。 「民衆の気持ちは、政治家の考えが優れた特性を持っているのだと、ということに気付かず、たいていの場合、絶対善とか絶対悪とかいった単純な道義主義的かつ法万能主義的な観点からものを判断している。政治家は長期的な見方をとり、ゆっくりと遠回りして進み、大きな利益を得るために小さな損失を支払わなければならない。すなわち政治家は、曖昧な態度をとったり、妥協したり、よい時機を待ったりすることができなければならない。民衆の気持ちは早急な成果を求める。すなわち、今日の表面的な利益のために明日...
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