プロイセンの陸軍軍人 カール・フォン・クラウゼヴィッツ は、戦略思想家として有名ですが、戦術に関する研究成果はほとんど知られていません。戦術学の歴史においてクラウゼヴィッツは ナポレオン の戦術を詳細に研究した最初の世代であり、彼の戦術に関する議論を通じて19世紀の戦術思想について多くのことを知ることができます。 今回は、クラウゼヴィッツの『 戦争術の大原則 』(1812年)から、戦闘陣形に関する考察を取り出し、彼がどのような陣形を推奨していたのかを考察してみたいと思います。 なぜ戦闘には陣形が必要なのか 戦術学は長年にわたって戦闘陣、つまり戦闘前あるいは戦闘間にとるべき一定の部隊の配置について研究してきました。この陣形というものが戦場において重要な理由は大きく分けて二つある、とクラウゼヴィッツは述べています。一つ目の理由は陣形を確立しておけば、全部隊の戦闘要領に一貫性、整合性を持たせることが可能になること、二つ目の理由は、戦術の理解が乏しい将校の能力を陣形の合理性が補ってくれることです。 「まず、陣形は防御のことを考えて組み立てられるべきです。この戦闘陣は軍の戦闘の要領に確固とした一貫性を与えるので、有益かつ便利なものになるでしょう。というのも、これは今後も避けることができないことでしょうが、下級将官や分遣隊の指揮をとるその他の士官の多くは戦術について特別な知識を持っておらず、また戦争指導に必要とされる立派な見識もおそらく持ち合わせていないためです」(クラウゼヴィッツ『戦争術の大原則』2-3.5) 要するにクラウゼヴィッツは陣形の価値が絶対的なものだと考えていたわけではなく、全軍が戦術能力を向上させれば、形式にこだわる必要は必ずしもないとも述べています(同上)。したがって、陣形を組むことは戦術的に絶対に必要なことだとまでは言えませんが、少なくとも各級指揮官の戦術能力に不備が見られる限り、戦闘陣を組んで戦うことの意義はなくならない、という認識を持っておけばよいでしょう。 実際、現在の戦術学の研究では陣形を通じて各部隊の配置や行動を細かく統制することはあまり重視されなくなっています。もちろん、戦闘陣形の考え方が完全になくなったというのは誤解を招くでしょうが、20世紀の戦争では、各部隊の指揮官がそれぞれの戦術能力を発揮する訓令戦術が...
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