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論文紹介 現代日本の国家戦略としてのバックパス

日本の安全保障に関する研究では、平和主義(pacifism)の規範こそが戦略の形成に強い影響を与えているとしばしば説明されます。 国際政治における国内の社会的観念、規範的意識の影響を重視する構成主義(constructivism)の研究では、日本の「特異性」がこの平和主義の必然的な帰結として理解されてきました。 しかし、研究者の中にはこの見方とは全く異なる観点から説明が可能であることを主張する人もいます。 今回は、日本は平和主義という規範によってその安全保障上の決定を下しているのではなく、バックパスという国家戦略を展開しているのだという議論を展開した研究を紹介したいと思います。 文献紹介 Lind, Jennifer M. 2004. "Pacifism or Passing the Buck? Testing Theories of Japanese Security Policy," International Security , 29(1): 92-121. 著者が問題としているのは、これまでの日本の安全保障戦略を研究してきた人々が、日本の軍事力水準を正しく把握してこなかったことです。 日本の軍事的能力の低さを示すために研究者がよく参照するのは、GDPに対する防衛費の比率でした。先進主要国であればGDPに対する防衛支出の比率はおおよそ1.5%から3%の間ですが、日本はおよそ1%しか防衛予算を確保していないのです(Lind 2004: 95)。 しかし著者は、GDPに対する防衛予算の大きさではその国家の軍事的能力を評価するのに不適切であり、さらに予算規模だけでなく戦力規模からも評価を行うことが必要であると指摘しています。 著者の分析によると、日本の安全保障において軍事的能力は従来から必ずしも軽視されておらず、特に海上戦力と航空戦力に関して見れば、無論米国の水準に遠く及ばないものの、中国、フランス、ドイツ、イギリス、ロシア、イタリア等の主要国に対抗可能な水準ではあるとされています(Lind 2004: 97-101)。 このような根拠から、著者は従来の日本の安全保障上の政策や戦略に関する研究において平和主義が過大に評価されていたのではないか、と疑問を提起しています。 その上で著者は、国際政治における日本...