私たちは自分にとって都合が悪い未来を想定しようとしませんし、それを可能な限り回避しようとする心理が働くものです。 これは将来の戦争について考える場合に特にあてはまる事象であり、歴史的には1914年、つまり第一次世界大戦が勃発する前のヨーロッパで広く見られた事象でもあります。 多くの識者や軍人は、第一次世界大戦が短期間で決着するものだと信じていたのです。 今回は、第一次世界大戦が短期決戦で終わるという見通しがどのように形成されていたのかという問題に取り組んだ論文を取り上げ、その内容の一部を紹介したいと思います。 文献情報 Hambridge, Robert W. "World War I and the Short War Assumption," Military Review , Vol. LXIX, No. 5, (May 1989) pp. 36-47. 普仏戦争とモルトケの影響 古くから軍隊は過去の戦争を戦おうとする、と言われていますが、第一次世界大戦はまさにその一例でした(Hambridge 1989: 39)。 つまり、欧米の軍隊では将来戦争が短期決戦になるということが広く予見されるようになり、戦争計画でもそれが当然の想定として受け入れられていったということです。 しかし、どうして将来の戦争が短期決戦になると予見されていたのでしょうか。 プロイセン陸軍参謀総長ヘルムート・フォン・モルトケは普仏戦争で巧みに作戦を指導し、そのことが国内外で高く評価されただけでなく、ヨーロッパ各国でプロイセン軍を一つのモデルとした軍制改革を進める契機をもたらしたことで知られている。 その経緯を理解するためには、19世紀プロイセン陸軍の参謀総長ヘルムート・フォン・モルトケ(Helmuth von Moltke)が普仏戦争で見せた作戦指導について知ることが重要です。 「1870年から1871年にかけての勝利によって、19世紀後半の軍事思想におけるヘルムート・フォン・モルトケの遺産は際立っていた。普仏戦争において「動員のためのプロイセンの命令から7週間以内、そして本格的な戦闘開始から5週間以内、攻撃を受けていた東部の要塞に配備された守備隊を例外とすれば、フランスの正規軍は壊滅していた」しかし、モルトケの個人的名声と...
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