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戦技研究 一瞬の撃発こそ優れた射手の証

引金さえ引けば銃から弾丸は発射されますが、それを遠くの目標に命中させるためには、引金の正しい引き方、つまり撃発の技術を身に着けることが射手として必要になります。 撃発それ自体は複雑な技術ではありませんが、射手が動作としてそれを身に着け、完全に無意識に実施できるようになるまでには十分な練習が必要です。 今回は、米陸軍の教範を踏まえ、撃発をどのように行うのかを解説し、射撃についての理解を深める参考にして頂きたいと思います。 撃発と呼吸法について これはよく知られていることですが、小銃を肩づけしていると、呼吸に伴って銃が上下に動揺します。このことは激しい運動をした直後に特に顕著であり、射撃の結果に与える影響は極めて大きなものがあります。 そのため、撃発では呼吸を止めなければなりませんが、大きく分けると呼吸の止め方には三通りのやり方があります。 (1)息を吐いてから止める方法、 (2)息を吸ってから止める方法 (3)息を少しだけ吐いてから止める方法(FM 3-22.9: 4-21) これらの方法でどれが一番よいのかは、射手の個性によって一概には言えませんが、米軍では射撃の状況に応じて使い分けるように指示されています。一つの目標を射つ場合には(1)を、咄嗟に出現した目標を射つ場合には(2)、(3)の呼吸法が示されています。 撃発時の呼吸管理について解説した図。 上が(1)の呼吸サイクルを示した図であり、息を吐いた後に呼吸を止めて撃発する。 下が(2)、(3)の方法を示したもので、息を吐く途中か、息を吸った後に呼吸を止めている。 (FM 3-22.9: 4-22) 戦場で兵士は激しく運動することになるため、走力がないと射撃の位置についてから呼吸を整えるまでに時間がかかってしまいます。 そのため呼吸管理ができなくなるほど全力疾走すると、後になってから正確な射撃に支障を来す危険も生じてきます。射撃術と直接関係のない話ではありますが、撃発する際に呼吸を安定させることができるかどうかということは、射手にとって非常に重要な意味を持っているのです。 撃発の基本的な要領 射手の手の大きさによっても多少異なる点ですが、基本的に銃の握把を右手で握ると、右手の人差し指の第一関節が引金の最も中央の部分にかかります。 この第一関節で引金を引く...

戦技研究 狙いを付ける前に正しい見出しを

以前の記事でも射撃術については取り上げ、それが姿勢、照準、撃発等に区別できることや、射撃姿勢にさまざまな種類があることを説明しましたが(「 正しい銃の射ち方を理解するために 」をご参照下さい)、今回は小銃射撃における照準(aiming)の要領や注意事項について米軍の教範を参考にしながら解説します。 交戦中の兵士がどのような技術を駆使して戦っているのかを理解する一助になればと思います。 照準で何が問題となるのか 小銃によって形状や配置はさまざまですが、小銃にはその射角と方向角を調整するための照準具(sight)が備わっています。(一般には照準器と呼ばれる場合もありますが、ここでは照準具で統一します) 小銃の照準具は基本的に大きく分けて二つの部分から構成されており、射手が小銃にほお付けした際に目の前にすぐ位置するのが照門部(rear sight)であり、銃口付近にあるのが照星部(front sight)です。 簡単に言えば、照準では照星の先端(以下、照星頂(front sightpost))を照門(rear sight aperture)の中心に見出し、かつ照星頂を照準点に一致させることである、と言えるでしょう。 射撃の際に射手は小銃の照門を覗き、その奥に照星を見ることになる。 照準の第一歩はこの照門の中央に正しく照星頂を見出すことであり、次に照準点を照星頂(照星の頂点)と重ねることである。(FM3-22.9: 4-19) 一般に私たちは照準と聞くと、射つ対象に向かって銃口を向けることだとイメージしますが、それは照準というプロセスの一部分に過ぎません。正しく狙うためには、正しい見出しが必要となるためです。 見出しとは、銃を構えた際に、射手の視界の中で照門の中心点と照星頂を重ねることをいいます。 見出しが射撃においてどれほど重要であるかという点について米軍の教範では次のように述べられています。 「武器は目標に狙いを付けなければならない。そのため、兵士は照星頂の端を照門の中心で保持する。照星と照門との一直線上にある誤差は弾丸が0.5メートル進むごとに増幅される。例えば、25メートルの射距離で小銃の見出しが不良であれば、その誤差は50倍にもなる。もし1インチ(2.54センチメートル)の10分の1見出しを誤れば、それは300メートル先...

戦技研究 正しい銃の射ち方を理解するために

正しく目標に向けて銃を射つ能力、技術のことを射撃術(marksmanship)といいます。この言葉の由来となったmarksmanは中世において国王の親衛隊に配属された弓の射手のことを意味していたそうですが、近代以降には銃の射手を意味するようになりました。 射撃術は兵士にとって最も重要な戦技であり、また心理的、精神的要素の影響も非常に大きい奥深い技術でもあります。 しかし、日本では射撃を経験できる機会がほとんどないので、そもそも射撃というものにどのような技術が必要なのかイメージしにくいかもしれません。 このような知識のギャップは戦争の最前線で起きている出来事を理解する上で一つの妨げかと思います。 今回は射撃術の基礎を理解する一助として、主に米軍の教範を参考にしながら、射撃術の基礎となる姿勢(position)、照準(aiming)、呼吸(breath control)、撃発(trigger squeeze)の四点のうち姿勢について説明したいと思います。 正確な射撃は姿勢によって基礎付けられる 米軍の教範においては、姿勢、照準、呼吸、撃発の四点が射撃術の基礎とされており、これら四つの動作を迅速かつ一貫して組み合わせることが正確な射撃に繋がると述べられています。 その中でも姿勢は射撃術の重要な一領域であり、正しい射撃姿勢の理解は射撃術の基礎となります。 とはいえ、射撃姿勢は小火器の発達とともに絶えず変化発展してきた歴史があり、その種類も一通りではありません。伏射ち(ねうち)、ひざ射ち、しゃげみ射ち、肩射ち、かかえ射ち、腰射ち、かがみ射ち、突き射ちなどさまざまな状況に適応した射撃姿勢が考案されているだけでなく、現在においても新たな射撃姿勢の研究が進められています。 このように複雑多岐な射撃姿勢に共通する要素を単純化して取り上げるとすれば、それは左腕、肩、右手、頬の四点で銃を固定するということです。 小銃射撃の場合、銃を次の四点で保持することが重要となる。 (左手の)銃の保持、肩づけ、(右手の)握把の握り、頬づけ。 ここではひざ射ちの姿勢で説明されているが、伏射ちの着眼も同様である。 (FM3-22.9: 4-17) (1)左腕の銃の保持については決して力を入れて握りこんではいけないという原則があります。銃が動揺する要因となるた...

市街戦における歩兵小隊の攻撃について

現代の安全保障環境では二つの理由から市街戦がその重要性をますます高めています。第一の理由は人口の増加と都市化の進行によって市街地の面積が増加する傾向にあることであり、第二の理由は経済発展に伴って不正規戦争、ゲリラ戦争、テロリズムの有効性が増大していることです。 今回は、市街戦における歩兵小隊・分隊の基礎的な運用について取り上げ、特に攻撃に関する問題を中心に説明したいと思います。 市街戦での建物に対する攻撃の実施要領 あらゆる作戦はその活動の形態から攻勢作戦と防勢作戦に分かれますが、市街戦の部隊行動にも同様に攻撃と防御があります。 市街戦で実施する攻撃も、その他の地形の場合と基本的な要領は変わりませんが、市街戦で攻撃の目標となるのは建物であるため、それに応じた攻撃の手順を考えなければなりません。 攻撃する建物の周囲を取り囲み、外部から敵の増援が進入できなくした状態の一例。 左右両翼の小隊と戦車が敵を警戒するため建物を挟む道路に対する射線を確保。 この状況で残る歩兵小隊が建物に対する強襲を実施することが可能となる。 (FM 3-21.8: 7-38) まず市街戦における歩兵小隊の攻撃は必ず他の小隊の支援を受けて実施しなければなりません。ある建物に対して攻撃する際にも、その建物に隣接する建物や道路から敵の増援が出現すれば、そのまま部隊がその建物から移動することができなくなってしまう恐れがあるためです。 そのため、先に挙げた図のように、攻撃の際にも支援に当たる小隊と、強襲に当たる小隊で役割を分担することが重要となるのです。 建物への突入と突破口の確保 建物に対する突入の部隊行動を分析すると、突破の攻撃機動の方式と強い類似性が認められます。敵の陣地で弱点となっている地点を見極め、そこに火力を集中し、一挙に敵の陣地に進入して突破口を拡張しながら前進するのです。 しかし、最初に突入する地点が狭いと有効な援護射撃ができないため、どのような装備で最初の突破口を形成するかを適切に選択する必要があります(Ibid.: 7-39)。手榴弾などは閉所に対する突入で最もよく使用される武器の一種です。 さらに建物の攻撃を考えると、地上階から突入を行う場合(bottom entry)と屋上から行う場合(top entry)があります。 前者の場合、既...

戦技研究 戦場で生き残るための射撃と運動の技術

現代の戦闘の特徴の一つは、兵士一人ひとりが状況を的確に判断して行動することが要求されることです。 第一線が広がるほど現場の士官や下士官は兵卒の行動を統制しづらくなるため、それだけ兵卒に対して実施すべき戦闘訓練の内容も高度なものとならざるを得ません。 このことを理解するために、今回は米陸軍の教範を参考資料として射撃と運動(fire and movement)と呼ばれる戦技を説明し、分隊のレベルでの交戦の要領の一部を紹介したいと思います。 分隊の楔形隊形の一例。 この図だと分隊は前方の班と後方の班で編成されている。 分隊長は分隊の中心に位置して前後の班の両方の指揮をとる。 (FM3-21.75: 7-5)より引用。 一般に分隊は10メートル程度の間隔を置いて移動するのが基本となりますが、これは敵の射撃を受けて一度に複数名の損害が出ることを避けるためのものであり、地形によって柔軟に変更することができます。 分隊が敵と遭遇して交戦が始まれば、兵士は通常ならば直ちに敵に対して前進を開始し、ばあいによっては後退しますが、いずれにしても射撃と運動と呼ばれる技術を駆使しなければなりません。 射撃と運動とは一方が火力の基盤を提供する間に他方が機動するための技術であり(FM3-21.75: 7-9)、これを適切に遂行するためには射撃と運動が同時に実施されなければなりません。 つまり、射撃と運動は次の二つの要素を組み合わせたものと言えます。 射撃を行う側は火力によって敵を制圧し、敵が運動を行う側を射撃することを防がなければなりません。 運動を行う側は射撃を行う側が実際に射撃を開始するまで移動を開始してはならず、援護射撃の下で別の陣地に移動を果たさなければなりません(Ibid.)。 手前の兵士が射撃を行い、奥の兵士がその間に運動を行っている。 ここでの射撃と運動は同時に実施されなければならない。 (FM3-21.75: 7-3)より引用。 射撃と運動は交戦において味方が確実に移動することを助ける重要な戦技と言えますが、それでも限界はあります。 一見して分かるように、味方よりも敵の数が多ければ、それだけ前進しようとする兵士に対して敵は自由に射撃しやすくなると言えます。 したがって、運動を開始する兵士は行動を起こす前に止まり、...

正しい射撃号令の出し方

戦場で味方の火力を巧みに敵に指向することは、どのような戦術を実施する上でも重要なことです。 第一線に立つ歩兵や戦車の立場から見れば、火力こそが戦闘力の根源であり、それを戦場で効果的に活用する戦術的能力は指揮官に欠かすことはできません。 このことは米軍の教範でも述べられており、具体的には「直接照準射撃及び間接照準射撃によって敵を制圧ないし殺傷することは、近接戦闘において勝利を収めるために必須の要素である」と論じられています(FM 3-21.8: 2-1) 今回は、第一線において正しく射撃号令を出す方法について簡単に説明してみたいと思います。 射撃号令(fire command) は射撃を指示し、統制し、連携させるために使われる号令であり、部隊として何を射つのかを明確にして火力を集中させることを可能にします。 射撃というものを歩兵部隊の指揮官、特に分隊長や小隊長の立場で見てみると、各人の判断によって行う射撃と指揮官の号令によって行う射撃の二つに区別することができます。 戦場で指揮をとる小隊が敵との交戦に入った状況を想定すると、まず応戦のために兵士たちが各人の判断で射撃を開始します。しかし、この応急的な射撃では兵士たちが選定した目標に対してそれぞれ射撃を行うため、小隊の火力が広い目標に向かって分散してしまいます。 したがって、より効果的に小隊の火力を集中させるためには指揮官が状況を判断した上で適切な射撃号令を出さなければなりません。 適切な射撃号令は次の要素から構成されています。 射撃号令の構成要素 ・注意喚起(Alert)射手が発令者の号令を受令できるように名前、番号等を呼称する。 ・目標位置(Location)発令者は射手に対して目標の方向を指し示す。 ・目標説明(Target Description)発令者は目標を特定し、それが複数ある場合には最優先で射撃すべき目標を説明する。 ・交戦方法(Method of Engagement)発令者は受令者が目標に対してどのような方法で射撃を行うべきかを指示する。 ・弾薬(Ammunition)もし受令者が複数種類の弾薬を持っていれば、どの弾薬を使用すべきかを指示する。 ・実施(Execution)発令者は目標が敵であることを再確認した後に、受令者の射撃を実施させる(FM 3-21...