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学説紹介 ミサイル・チェス―巡航ミサイルの登場と海軍戦術の再考―

戦術の研究が興味深い理由の一つは、ある時期で有効性が確認された原則であっても、条件が少し変わっただけで、それが通用しなくなることがしばしば起こるためです。 これは海軍戦術の分野においても当てはまることであり、海軍の戦術思想は時代とともに変化を続けてきました。 最近の変化で見過ごせないのが1970年代以降に本格的な使用が始まった巡航ミサイルの影響であり、その戦術的な意義に関する議論は1980年代まで続き、現代における海軍戦術にも影響を与えています。 今回は、当時の議論を知ることができる論文を取り上げ、その内容を紹介することで、戦術に対する理解を深めたいと思います。 論文情報 Hughes, Wayne P. 1981. "Missile Chess: A Parable," Proceedings , Vol. 107/7/941, pp. 26-30. 巡航ミサイルが海軍戦術の前提を変えた この論文の著者は米海軍の士官としての経歴を持つだけでなく、海軍戦術に関する学術研究でも数多くの業績があります。 主著『艦隊戦術(Fleet Tactics)』は近代の海軍戦術の概観した文献であり、最近になって改訂版(『艦隊戦術と沿岸戦闘(Fleet Tactics and Coastal Combat)』)が出されるほど評価されている名著です。 その著者が1980年代に海軍戦術を考察したのがこの論文であり、1981年に米海軍協会で受賞しました。 著者の議論は1980年前後の米海軍で実施された機動演習や図上演習で判明した教訓を指摘するところから始まっています。 その教訓とは、可能な限り多くのミサイルを艦艇に搭載させることこそが、海戦の勝敗を決する傾向にあるということであり、1973年の戦争でエジプト海軍とイスラエル海軍が地中海で実際に交戦した際にもその影響が確認できます。 こうした戦術の変化を受けて著者は大胆に空母を中心とする米海軍の戦術思想を批判しました。 著者にとって空母から発信する航空機の機能のいくつかは巡航ミサイルで代替可能になっており、見方によっては巡航ミサイルの方が優れている面もあると論じています。 このことを説明するため、著者はチェスの類似を使って、ミサイルを使用した海戦の様相について解説しています。 ...

論文紹介 知られざる太平洋戦争での米海軍戦術発達史

第二次世界大戦の海軍戦術に関する研究を読むと、日米で空母の運用に関する研究進捗に相違があったという見方があります。1941年の真珠湾攻撃で空母の集中運用に成功した日本海軍ですが、その後に空母の戦術、運用の研究を進めた米海軍の戦術によって敗北したという捉え方もここに含まれるでしょう。 しかしながら、そもそも米海軍で戦艦重視の教義が空母重視の教義へと転換したという解釈はどれほど妥当なのでしょうか。その結果、米海軍は日本海軍に対して戦術的優位に立ったと判断できるのでしょうか。これらの疑問は必ずしも解決されていませんでした。 今回は、この問題に取り組んだ研究論文を取り上げ、その内容を一部紹介してみたいと思います。 文献情報 Hone, Trent. 2009. "U.S. Navy Surface Battle Doctrine and Victory in the Pacific," Naval War College Review , 62(1): 67-105. そもそも艦隊決戦を想定していた米海軍の戦闘教義 著者は、米海軍が日本海軍よりも迅速かつ的確に戦艦中心の教義を捨て、空母による航空打撃戦の教義を発展させたという解釈は、非常に一面的で問題が多いと批判しています。 なぜなら、当時の米海軍の内部で進められた戦術研究を調べると、米海軍は当初から空母による航空打撃戦に重点を置いて戦術の研究に取り組んでいたわけではないためです。 1941年、太平洋艦隊司令長官に就任したニミッツ(Chester W. Nimitz)は日本海軍の真珠湾攻撃によって損害を受けた艦隊の再建に着手します。しかし、日本海軍が見せた空母の集中運用が直ちに米海軍の戦闘教義に取り入れたということはありませんでした。これは当時の米海軍の教義がすでに戦間期に確立されており、これを容易に変更することが難しかったことと関係しています。 戦間期に米海軍の教範で策定された標準的な戦闘陣の概念図。 戦列の針路(太矢印)は敵の方向(細矢印)に対して直角に向け、その周囲に駆逐艦、巡洋艦が占位する。 戦列から敵の方向に対しては視界・射界を確保しており、典型的な艦隊決戦を想定していることが分かる。 (Ibid.: 70) 当時の米海軍の教義では「戦列(bat...

米中両国の海上戦力を定量的に比較してみると

昨今の中国脅威論に対する一つの批判として、中国の軍事力を規模だけで評価しすぎではないか、中国の軍事技術の実態を十分に反映していないのではないか、というものがあります。これは注意深く検討すべき見解です。 今回の記事では、対水上戦闘能力に焦点を絞って、中国の海上戦力を米国のそれと比較した場合に、性能にどれほどの相違があるのかを評価してみたいと思います。 ただし、作業量の関係ですべての艦艇を網羅的に取り扱うのではなく、サンプルとなる少数の艦艇を取り上げています。 また、武器装備の性能に技術的検討を加えるのではなく、戦闘能力を表す運用致死指数を用いて定量的に比較したいと思います。 運用致死指数は以前にも説明したことがありますが、今回の計算では戦闘艦艇が対象となるため、射撃管制能力、速力、基準排水量を戦闘力の要素として加えています。今回の分析では次の二つの計算式が基本となります。 ある武器のOLI=(射撃速度/1時間)×1回の射撃の命中数×1回の射撃で戦闘不能になる確率×(1+√射程/100)×正確性×信頼性/交戦する艦隊が展開する空間面積(ここでは3000平方キロメートル単位と想定) ある艦艇のOLI=(搭載する武器のOLIの合計)×射撃管制能力×速力(ノット単位)×(基準排水量×2) 今回の分析で取り上げる米国の水上艦艇はアーレイバーク級ミサイル駆逐艦とニミッツ級原子力航空母艦です。 アーレイバーク級が搭載している武器は艦対艦ミサイルRGM-84D/F(単体でのOLI換算だと3.03)で合計は8発、ニミッツ級は44機のF/A-18を通じて4発の空対艦ミサイルAGM-84G(単体OLI換算2.43)を一回の交戦で使用できる、と想定します。 以上の想定を踏まえ、さらに各武器と艦艇の性能諸元を計算式に当てはめれば、対水上戦闘におけるアーレイバーク級のOLIは16,932、ニミッツ級は246,538となります。 次に中国の水上艦艇のサンプルとして、旅大型駆逐艦Ⅱ型を取り上げます。 これに搭載された対艦ミサイルがHY-2(OLIで0.41)が6発と想定して、艦艇の性能諸元を計算するとOLIは7,351と分かります。 もう一つの駆逐艦のサンプルとして、旅滬型駆逐艦を見てみると、搭載する艦対艦ミサイルYJ-83(OLIは0.33)が16発で想定した...

斉射モデルによる海上戦力の分析法

今回は、海上戦闘の結果を予測する方法について紹介したいと思います。 ある二つの艦隊が交戦した場合に、どちらにどの程度の損害が発生するのかを予測または説明するためには、少なくとも二種類のデータが必要となります。 一つは攻撃力に関するデータであり、具体的には艦対艦ミサイルをどれだけ搭載しているかによって判断することができます。もう一つが防御力に関するデータであり、これは艦隊防空能力にかかわるCIWSや艦対空ミサイルなどから判断することができます。 ここではあくまでも仮想の状況として、インド海軍の空母1隻(航空隊なし)を沈めるためにインド海軍の駆逐艦がどれだけ必要かを考えてみましょう(データはすべてMilitary Balance 2014を参照)。 インド海軍の空母Viraatの防御力を支えているのは8連装のBarak-1というイスラエル製の艦対空ミサイル2基です。16発の艦対空ミサイルがすべて有効であり、かつViraatを沈めるには1発の命中が必要であると想定すると、この空母に損害を与えるためには最低でも17発以上のミサイルを投射しなければならないと考えられます。 インド海軍の駆逐艦Delhiに着目してその攻撃能力を見ると、4連装の3M24という艦対艦ミサイルが4基搭載されており、1隻のDelhiで16発を発射することができるため、1隻だけではViraatに損害を与えることができないものと推定されます。したがって、Viraatと交戦するに当たり、Delhiを最低でも2隻で攻撃するべきであるという結論になります。 この議論を単純化すると、駆逐戦隊の攻撃力>空母の防御力=2(16)>1(16)ということになります。 ただし、このような推論はあくまでも理論上の話に過ぎないことに注意して下さい。これは大雑把な分析法にすぎず、研究ではより多くの変数が使われているのが普通です。 例えば、空母は通常であれば航空優勢と情報優勢を発揮することが可能ですので、先制して攻撃を仕掛ける可能性も考慮しなければなりません。 また空母に搭載されているCIWSの防御能力を考慮すれば、駆逐艦はより多くのミサイルを使用しなければなりませんので、本来であれば先ほどの見積は駆逐艦にとってかなり有利なものとなっています。 さらに言えば、そもそも、すべてのミサイルが命...