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軍事学の教材としての兵棋の可能性

SF文学の先駆者として知られるハーバート・ジョージ・ウェルズの著作に兵棋演習、ウォーゲームに関するものが含まれていることはご存知でしょうか。19世紀末に発表された『小さな戦争(Little Wars)』という文献です。 その文献に掲載されている図を見ると、ウェルズが屋内でウォーゲームに取り組んでいたことが分かります。 ウェルズが行っていたのは確かに趣味の延長ではありますが、実際に軍事学を学ぶ上で兵棋は非常に有益なアプローチの一つと言えます。 ある事例を図上に表示することで、単に文献の上で事実を個別に確認するだけでなく、全体的な相互関係を理解することも可能であり、条件を変化させることで結果がどのように変化しうるかを考察することの手助けにもなります。 今回は、ある作戦について研究するために、私が学部生の頃に主催していた研究会で個人的に使用していた兵棋演習の実施規則を紹介してみたいと思います。 兵棋を実施する場合、研究したい作戦の全体像を明確化するために、次の情報を整理しておきます。 交戦する両軍の部隊の構成と初期の配置(武器の威力は運用致死指数(OLI)に換算して定量化しておきます。参考数値として第一次世界大戦の小銃は1.2、機関銃は14.0、迫撃砲は200.0、火砲(平均値)は1,600、戦車は150、航空機は140、各部隊の武器の保有量に威力を掛け合わせます) 部隊の行動に影響を与える地形。(運用する部隊の規模にもよるのですが、師団の行動であれば2万5000分の1の縮尺の地形図が望ましいです。歩兵と戦車について言うと、樹木が高密度で分布する険しい山地(歩兵×0.4、戦車×0.2)、樹木が乏しく起伏がある平野(歩兵×1.0、戦車×1.0)、市街地(歩兵×0.7、戦車×0.7)など先ほどのOLI換算の勢力に影響を与える地形情報が特に重要です。) 防御者が利用可能な河川、地雷原などの障害の機能と構成。(地形の情報と併せて必要となります。断崖がない河川だと幅が20メートルの場合攻撃者の部隊は×0.9、100メートルになると0.8、500メートル以上だと0.7を掛けます。地雷原を前進する場合には面積で考慮し、100平方キロメートルの地雷原を前進する場合には攻撃者は×0.9、200平方キロメートルの場合には×0.8、500平方キロメートルの場合は...

いかに陸軍の戦闘陣形は拡大してきたか

戦闘陣形(battle formation)は作戦地域において部隊の配置、展開を規定するものであり、戦術的な分類としては縦陣や横陣、斜行陣などの種類があります。 しかし、今回は戦術上の戦闘陣形ではなく、戦略単位となる部隊、つまり師団以上の規模の部隊が採用する陣形について考えてみたいと思います。 古代から現代にわたる戦闘陣形で最も顕著な変化は、時代が下るにつれて兵士の密度が低下する傾向です。 先行研究によれば、古代の陸軍で100,000名の兵士が戦場に展開する場合、その正面はおよそ6.67キロメートル、縦深は0.15キロメートルほどでした(Dupuy 1985: 28)。 このような戦闘陣形が採用されていた理由としては、古代から中世にかけての部隊行動では白兵戦闘能力が重要視されていたことが挙げられます。 白兵戦闘では交戦距離が1メートル以下となりますので、兵士各人の側面や背後を相互に掩護するためには部隊を密集隊形にまとめておく必要がありました。さらに加えると、部隊の指揮官が部下の状態を掌握する上で、兵士たちをまとめておくことのほうが望ましいという理由も挙げられます。 しかし、火器の導入によってこうした戦闘陣形には問題が出てきます。 兵士たちが部隊として密集していると野戦砲やマスケットで射撃を受けた場合に損害を受けやすく、例えば野戦砲が部隊に対して一発の命中弾を送り込むと縦に並ぶ兵士たちが一度に吹き飛ばされるという脆弱性が認められました。 こうした理由から、ナポレオン戦争の時代には100,000名程度の部隊が展開した正面は2.5キロメートル、縦深は8キロメートルにも拡大していきます(Ibid.)。 これだけの空間に部隊が展開すると、25.75平方キロメートルが占有される計算となります。 さらに第一次世界大戦の時代に移ると100,000名の展開する空間の広さはさらに拡大しました 正面は20,83キロメートル、縦深は12キロメートルに達しました。これらの数値から計算すると、部隊が占有する面積は247.5平方キロメートルにも及びます。 この時期に導入された機関銃、戦車、航空機、化学武器などに対処するためには、部隊を戦場に分散させることが必須の条件となっていました。 現代の私たちがイメージする陸上作戦の原型はこの時期に出現していたと考...