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学説紹介 作為的な勝利を嫌った『孫子』の戦略

今でも『孫子』は高い評価を得ており、本屋でさまざまな解説を目にしますが、軍事学の立場で解説したものは案外少数です。 『孫子』の研究ではその内容も重要なのですが、それに先人が積み上げてきた注釈や解釈を研究することも非常に有意義です。 今回は、『孫子』を理解する一助とするため、旧陸軍士官学校の教授だった尾川敬二による解釈を取り上げ、その要点を紹介したいと思います。 『孫子』に見る自然尊重の思想 尾川の説によれば、『孫子』の大きな特徴は自然の尊重の思想にあるとされています。 これは『孫子』が「全く自然的に戦争及び戦闘を誘導遂行しようというのに在って、作為的な行動を否定している」と解釈できるという意味です(尾川、14頁)。 例えば、『孫子』に「兵の形は水に象る」という記述があるのですが(金谷訳注『孫子』87頁)、もともと東洋の思想には水は自然な姿をそのままあらわす比喩表現として使われており、孔子や老子もそのような意味合いで水の比喩を用いたことがあります(尾川、14-5頁)。 このような背景を踏まえておくと、『孫子』が水が高いところを避けて、低い場所に向かって方向を変えながら流れるように軍隊を運用し、実を避けて虚を撃つのだと論じたことの意味を理解しやすくなります。 このような視点から戦争においても作為的な軍隊の運用を避けるべきだと『孫子』が考えていたという解釈が示されているのです。 「さて孫子は始計篇に於て、戦端を開く前に五事七計を以て、彼我の国情軍情の比較検討を行い、確実な勝算がなければ戦争に訴えてはならぬことを切言し、軍形篇にも勝兵は先ず勝って而る後戦を求め、敗兵は先ず勝って後勝を求むと喝破して、勝敗は戦前に決定せられているのであって、戦勝は単に自然的な結果として現れるものに過ぎないことを主張し、更に戈に訴うるに及んでも、すべての行動は全く自然的な有利な推移となるように誘導すべきを説いている」(同上、16頁) こうした議論から『孫子』の要点を彼は次のようにまとめています。 ・決して無理な戦争はしないこと。 ・自然の情勢上必ず勝つように戦争及び戦闘を指導し、作為的に勝利を得ようとしてはならぬ。 ・戦争は天地自然の法則に一致する要する(同上、17頁)。 言い換えれば、戦争術の要諦は必然的に戦争に勝てるだけの状況を見極め、またその...