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演習問題 小斥候か、部隊斥候か

斥候(patrol)は戦闘、偵察、警戒などの任務のために本隊から派遣される部隊です。 通常、斥候に当たる部隊は1個分隊程度ですので、下士官が斥候長となる場合が多いのですが、状況によっては1個小隊規模の斥候が派遣される場合もあるため、そうなると士官が斥候長になるという場合もあります。 今回は、中隊レベルの観点から斥候に関する簡単な問題を示し、それについて考察してみたいと思います。 そもそも斥候とは何か 斥候(patrol)とは厳密には部隊のことであって、任務のことではありません。例えば米陸軍では次のように斥候について説明しています。 「斥候とは、特定の戦闘、偵察、または警戒の任務を遂行するために、より大きな部隊によって派遣される。斥候の編成は直近の任務に一時的かつ具体的に対処する。斥候は任務ではなく、組織のことをいうため、ある部隊に「斥候」の任務を与えると語ることは正しくない」(FM 3-21.8: 9.1) つまり、斥候は主力から離れてさまざまな任務を遂行する分遣隊であり、任務によってその内容が規定されるものではありません。 捜索や偵察のために斥候が送られることもあれば、戦闘のために送られる場合もあります。次に示す定義もそうした斥候の役割の幅の広さが述べられています。 「敵情、地形その他諸種の状況を偵察・捜索させるため、部隊から派遣する少数の兵士をいう」 「情報資料の収集又は戦闘行動の実施のために、部隊主力から派遣された分遣隊をいう」(『防衛用語辞典』231頁) ただし、斥候は分隊や小隊と異なっているのは、敵地で主力から離れて行動する分遣隊であるということです。 つまり斥候長には指揮官として程度の戦術能力が必要だということです。中隊や大隊の一部として動くのではなく、状況の変化に応じた指揮をとれる人物が求められます。 適切な斥候の規模を考える ここでは次のような状況を想定しておきたいと思います。 我が方のA国は隣接するB国と戦争状態にありますが、まだ両国の国境地帯ではまだ本格的な戦闘が発生していません。 A国の主力である青師団は国境から離れた地点で動員を行っており、直ちに行動に出ることができない状態にあります。 しかし、情報によると本日未明にB国の騎兵がすでに国境付近に進出したとのことです。越境したのか...

学説紹介 戦術家でもあったリデル・ハート:機械化歩兵の着想

リデル・ハート(Basil Liddell Hart, 1895-1970) といえば、間接接近(indirect approach)の概念で知られる著名な戦略家であり、特に機動戦の研究に大きな影響を与えたことで知られています。しかし、彼の研究領域は決して戦略だけに限定されておらず、戦術にまで及んでいました。このことは、初期の研究の内容に特に反映されています。 今回は、歩兵戦術におけるリデル・ハートの研究成果を再検討し、それが持つ意義を現代の観点から考察してみたいと思います。 歩兵戦術の近代化に貢献したリデル・ハート リデル・ハート(Basil Liddell Hart, 1895-1970) イギリスの軍事学者、主著に『戦略論』、『抑止か、防衛か』等 もともとリデル・ハートが本格的に軍事学の研究に取り組むきっかけとなったのは、第一次世界大戦を経験したことがあり、その出発点となったのは歩兵戦術の研究でした。リデル・ハートは1914年から1924年(除隊は1927年)までの軍務を通じて歩兵戦術の近代化のために研究努力を重ねたのです。 リデル・ハートは1914年、つまり第一次世界大戦が勃発した年に陸軍に入隊します。西部戦線に送られたのは勃発から少し時間が経った1915年9月のことでしたが、その後のソンムの戦いで負傷してしまいました。しばらく病院で治療した後に義勇兵の訓練に従事しています。 リデル・ハートが最初に刊行した著作が1918年の『義勇兵部隊のための新歩兵訓練要綱(Outline of the New Infantry Training, Adopted to the Use of the Volunteer Force)』であったのは、この時の経験があったためです。この著作はすぐに『歩兵訓練の新手法(New Methods in Infantry Training)』として再刊されています(Liddell Hart 1918)。 この著作は短い著作であり、また学術文献というよりも教育資料としての性格が強かったのですが、戦術の観点から見て一つの新しい思想が盛り込まれていました。それは歩兵部隊の戦闘行動の基本単位を分隊とすべきだ、という考え方でした。 この考え方は1919年に発表された論文「戦闘部隊の将来的発展に関する提言」でさ...

論文紹介 未来の戦場では歩兵分隊が重要となる

基本的に陸軍の組織構造は師団・旅団を基本とし、その下位組織として連隊、大隊、中隊、小隊、分隊が置かれています。しかし、こうした組織構造は絶えず陸軍の歴史の中で見直されており、戦争の様相が変化し続けている現代においても再検討が行われています。 特に米陸軍はアフガニスタン、イラク等の経験を踏まえ、組織の設計を見直すべきという議論が活発に交わされています。 今回は、分隊の役割に注目した研究について取り上げ、その内容を紹介したいと思います。 論文情報 Brown, Robert B. 2011. "The Infantry Squad: Decisive Force Now and in the Future," Military Review , November-December, pp. 2-9. 現代の戦場では分隊員の一人ひとりが重要なプラットフォームである 著者の見解によれば、分隊という部隊が戦場でこれほど重要な役割を担うようになったことはかつてありません。かつて分隊は小隊を構成する一要素という以上の役割を果たすことはめったにありませんでしたが、著者は「われわれは歩兵分隊を決定的戦力の基礎として取り扱わなければならない」と強調しています(Brown 2011: 3)。 分隊の位置付けが変化した背景には数多くの技術革新があります。依然として歩兵分隊の能力は近接戦闘に限られてることは確かですが、ネットワークを活用して他の部隊と絶えず状況認識を共有するようになっており、分隊員の射撃によらずとも、砲兵や航空支援を従来よりもはるかに容易に活用することができるようになりました(Ibid.: 5)。 技術の革新だけではなく、現代の戦場では即席爆発装置や自殺攻撃のような攻撃方法がとられる機会が増加していることも重要な要因です。 著者はこのような脅威に対して米軍は兵士を保護することに多大な努力を費やしており、例えば歩兵戦闘車等のプラットフォームを充実させることに多額の予算を費やしていますが、著者はそのような消極的な措置ばかりでなく、戦いの主導権を獲得することにも着意する必要があり、そのためには兵士一人ひとりを「プラットフォーム」として位置付けることが必要だと述べています(Ibid.: 6)。 将来の戦争に向けて、分隊が保有...

市街戦における歩兵小隊の攻撃について

現代の安全保障環境では二つの理由から市街戦がその重要性をますます高めています。第一の理由は人口の増加と都市化の進行によって市街地の面積が増加する傾向にあることであり、第二の理由は経済発展に伴って不正規戦争、ゲリラ戦争、テロリズムの有効性が増大していることです。 今回は、市街戦における歩兵小隊・分隊の基礎的な運用について取り上げ、特に攻撃に関する問題を中心に説明したいと思います。 市街戦での建物に対する攻撃の実施要領 あらゆる作戦はその活動の形態から攻勢作戦と防勢作戦に分かれますが、市街戦の部隊行動にも同様に攻撃と防御があります。 市街戦で実施する攻撃も、その他の地形の場合と基本的な要領は変わりませんが、市街戦で攻撃の目標となるのは建物であるため、それに応じた攻撃の手順を考えなければなりません。 攻撃する建物の周囲を取り囲み、外部から敵の増援が進入できなくした状態の一例。 左右両翼の小隊と戦車が敵を警戒するため建物を挟む道路に対する射線を確保。 この状況で残る歩兵小隊が建物に対する強襲を実施することが可能となる。 (FM 3-21.8: 7-38) まず市街戦における歩兵小隊の攻撃は必ず他の小隊の支援を受けて実施しなければなりません。ある建物に対して攻撃する際にも、その建物に隣接する建物や道路から敵の増援が出現すれば、そのまま部隊がその建物から移動することができなくなってしまう恐れがあるためです。 そのため、先に挙げた図のように、攻撃の際にも支援に当たる小隊と、強襲に当たる小隊で役割を分担することが重要となるのです。 建物への突入と突破口の確保 建物に対する突入の部隊行動を分析すると、突破の攻撃機動の方式と強い類似性が認められます。敵の陣地で弱点となっている地点を見極め、そこに火力を集中し、一挙に敵の陣地に進入して突破口を拡張しながら前進するのです。 しかし、最初に突入する地点が狭いと有効な援護射撃ができないため、どのような装備で最初の突破口を形成するかを適切に選択する必要があります(Ibid.: 7-39)。手榴弾などは閉所に対する突入で最もよく使用される武器の一種です。 さらに建物の攻撃を考えると、地上階から突入を行う場合(bottom entry)と屋上から行う場合(top entry)があります。 前者の場合、既...

偵察だけが斥候ではない

斥候(patrol)という言葉を聞いたことがある人でも、それを正しく説明することは難しいでしょう。 しばしば誤解されていますが、斥候は必ずしも偵察だけを目標としません。時として斥候は戦うことを主眼とする場合があるのです。 今回は、戦闘斥候を中心に斥候について説明をしてみたいと思います。 戦闘斥候とは何か 一般に斥候とは本隊から独立して行動する1個分隊程度の小さな分遣隊のことですが、その任務は状況によってさまざまに変化します。例えば次のような任務を斥候は遂行する場合があります。 敵情、地形、もしくは地域住民に関する情報資料の収集すること。 敵の部隊との接触を回復すること、または味方の部隊の所在を確認すること。 敵を撃破し、または損害を与えるように交戦すること。 地域住民の信頼を維持または獲得すること。 治安の不安定化を予防すること。 反乱軍または犯罪活動を抑制し、打撃を加えること(FM3-21.8: 9-1-2) 確かに偵察は斥候の任務の一部ではあるのですが、敵との交戦を狙った斥候もあるということがここで示されています。つまり、斥候には戦闘を主眼とするもの、偵察を主眼とするものの二種類に分かれるのです。専門用語だと前者の斥候は戦闘斥候(combat patrol)、後者は偵察斥候(reconnaissance patrol)と呼ばれています(Ibid.: 9-2)。 斥候の行動の一例。 目標に対して最短距離で前進するのではなく、その周囲の状況を調べることができるような経路を前進している。 (FM3-21.8: 9-4) 斥候は本隊から離れて行動しますので、もちろん敵との交戦は望ましい状況ではありません。 しかし、少人数だからこそできる戦法もあるのです。それが襲撃(raid)と伏撃(ambush)の二つです。これらはいずれも奇襲の一種なのですが、その定義は異なります。 襲撃について 襲撃とはその地域を確保して占領すること以外の目標を達成するためにある陣地や施設に対して加えられる奇襲的な攻撃のことを言います(Ibid.: 9-10)。 例えば、敵の倉庫、通信基地等の重要施設を破壊すること、敵に身柄を捕らえられた人質や捕虜を奪回すること、敵の作戦の準備を遅らせること、これらはいずれも襲撃に属する行動であり、戦闘斥候の任...

戦技研究 戦場で生き残るための射撃と運動の技術

現代の戦闘の特徴の一つは、兵士一人ひとりが状況を的確に判断して行動することが要求されることです。 第一線が広がるほど現場の士官や下士官は兵卒の行動を統制しづらくなるため、それだけ兵卒に対して実施すべき戦闘訓練の内容も高度なものとならざるを得ません。 このことを理解するために、今回は米陸軍の教範を参考資料として射撃と運動(fire and movement)と呼ばれる戦技を説明し、分隊のレベルでの交戦の要領の一部を紹介したいと思います。 分隊の楔形隊形の一例。 この図だと分隊は前方の班と後方の班で編成されている。 分隊長は分隊の中心に位置して前後の班の両方の指揮をとる。 (FM3-21.75: 7-5)より引用。 一般に分隊は10メートル程度の間隔を置いて移動するのが基本となりますが、これは敵の射撃を受けて一度に複数名の損害が出ることを避けるためのものであり、地形によって柔軟に変更することができます。 分隊が敵と遭遇して交戦が始まれば、兵士は通常ならば直ちに敵に対して前進を開始し、ばあいによっては後退しますが、いずれにしても射撃と運動と呼ばれる技術を駆使しなければなりません。 射撃と運動とは一方が火力の基盤を提供する間に他方が機動するための技術であり(FM3-21.75: 7-9)、これを適切に遂行するためには射撃と運動が同時に実施されなければなりません。 つまり、射撃と運動は次の二つの要素を組み合わせたものと言えます。 射撃を行う側は火力によって敵を制圧し、敵が運動を行う側を射撃することを防がなければなりません。 運動を行う側は射撃を行う側が実際に射撃を開始するまで移動を開始してはならず、援護射撃の下で別の陣地に移動を果たさなければなりません(Ibid.)。 手前の兵士が射撃を行い、奥の兵士がその間に運動を行っている。 ここでの射撃と運動は同時に実施されなければならない。 (FM3-21.75: 7-3)より引用。 射撃と運動は交戦において味方が確実に移動することを助ける重要な戦技と言えますが、それでも限界はあります。 一見して分かるように、味方よりも敵の数が多ければ、それだけ前進しようとする兵士に対して敵は自由に射撃しやすくなると言えます。 したがって、運動を開始する兵士は行動を起こす前に止まり、...