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今さら聞けない中国軍の接近阻止/領域拒否(A2/AD)

最近の日本の安全保障に関する研究者、自衛官の間では、中国軍が「積極防衛」という基本方針に従って、「接近阻止/領域拒否」(英語でA2/ADと略されることもあります)の能力を強化しており、このことが北東アジア地域における米国の抑止力を低下させる恐れがあるという状況判断が、議論の前提として広く共有されつつあります。 しかしながら、このような議論は依然として国民の間で共有されているとは言い難い状況が続いていると思います。 その背景には米国での議論を日本に持ち込む際に「A2/AD」というペンタゴン用語、つまり国防の関係者以外には理解し難い用語が十分に日本国内で理解されておらず、また理解を広げる取り組みが専門家の側でまだまだ不足している事情が関係していると思います。 今回は、改めて中国軍が重視する接近阻止/領域拒否が何を目指すものであり、それが日本や米国にどのような影響を及ぼすものであるのかを基礎から説明したいと思います。 接近阻止/領域拒否の基本的な考え方 この記事ではMcDevittの研究に沿って説明してみたいと思います。 そもそも接近阻止・領域拒否(Anti-Access/Area Denial)という用語が米国国防総省の公文書で最初に使用されたのは2001年度四カ年防衛評価(Quadrennial Defense Review)であり、当時この用語は台湾有事で米軍が介入してくることを防止するための中国軍の取り組みを特徴付けるために用いられていました(McDevitt 2011: 191)。 接近阻止/領域拒否の基本的な考え方はそれほど複雑なものではありません。 要するに中国軍が作戦を開始した際に、その作戦地域に米軍が部隊を送り込んでくる事態を防ぐため、努めて遠方で米軍の部隊を撃破し、中国軍の作戦地域には進出させないという構想です(Ibid.)。 このような構想を中国軍が実現することができれば、軍事力で圧倒的に優勢な米軍が北東アジア情勢に介入してくることを妨げることができるため、中国はこの地域で対外政策をより遂行しやすくなると期待されます。 接近阻止/領域拒否は一つの概念として議論されることも少なくありませんが、McDevittの研究によると、異なる意味を持っている用語です。 つまり接近阻止は沖縄の嘉手納基地に配備された米空軍の戦闘...

論文紹介 東アジア地域の安定と日本の島嶼防衛

米国では中国を抑止する戦略に関する研究報告が活発であり、全般としてまだ理論的分析の段階ではありますが、中国が海洋に進出するための戦力増強を進める事態に対してどのような戦略で対抗すべきかが考察されています。 これまでにはエアシー・バトル(AirSea Battle)という名称の下で、米国が持つ優勢な航空戦力と海上戦力の役割が強調されることが多かったのですが、最近では島嶼に陸上戦力を配備することの重要性が認識されるようになりつつあります。 今回は、そうした議論でも特に日本の島嶼防衛との関係が深い部分を取り上げてみたいと思います。 文献情報 Yoshihara, Toshi, and James R. Holmes, James R. 2012. "Asymmetric Warfare, American Style," Proceedings , Vol. 138/4/1310: 25-29.(邦訳「 アメリカ流非対称戦争 」石原敬浩訳『海幹校戦略研究』2012年5月(2・1増)、112-120頁) この研究は中国が海洋へ勢力を進出させる動きに対して、米国として採用すべき戦略を考察したものであり、既に日本の防衛戦略との関連で検討が進められている研究の一つでもありますが、今回は台湾有事に関する分析を中心に一部の内容を紹介しましょう。 中国がもし台湾に対する作戦を開始するとすれば、台湾の西岸に攻勢を仕掛けるだけでは十分ではありません。 なぜなら、西太平洋から台湾に外部から物資、武器、人員が搬入される事態を防止するために、台湾の東岸に対しても海上戦力を進出させなければならないためです。 このことは、中国として南西諸島の狭隘な海峡を確保する必要が出てくることを意味します。 そのため、南西方面において日本が島嶼防衛の能力を向上させることは、日本の防衛のみならず、台湾に対する中国の攻撃を抑制する上でも有効であることを著者は指摘しています。 「(南西方面の)島嶼部に接近阻止、地域拒否の部隊を展開することによって、日本と米国の守備隊は中国の水上艦艇、潜水艦部隊、および航空部隊が太平洋の公海へ向かう重要な出入口を封鎖することが可能である」 これと類似の理由により、フィリピンのルソン島も戦略的に重要な役割を果たすことが論じられて...