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学説紹介 戦場で小隊長は何をしているのか―歩兵小隊の組織構造と小隊長の役割について―

時代や地域を超えて、歩兵部隊は常に陸軍の中核的戦力であり続けてきました。 歩兵は文字通り最前線において徒歩で近接戦闘などを遂行する兵科であり、主たる武器は小銃、機関銃、迫撃砲です。 今回は、そんな歩兵小隊がどのように編成されているのかについて、米軍の教範を参考にしながら、戦術の観点から解説してみたいと思います。 そもそも歩兵小隊とは何か 標準的な陸軍の編制として、小隊は分隊の上位、中隊の下位に位置付けられる部隊です。 部隊の規模もさまざまですが、30名から50名程度で編成される場合が多いようです。 現在の米軍の教範では、その組織について次のように説明されています。 「歩兵小隊は、3個の歩兵分隊、武器分隊、小隊本部によって編成される。小隊本部は小隊隷下の分隊及び随伴する部隊を指揮統制し、火力支援システムと後方支援システムとの連絡調整を行う。すべての歩兵小隊は戦闘において教義として定められた同じ基本原則を用いるが、それらの原則を応用する方法については、任務を割り当てた部隊によって異なる」(FM 1.11-1.12) 米軍では歩兵分隊の規模が9名とされ、小銃、自動小銃、擲弾などの装備を使用する人員で編成されるのですが、武器分隊(Weapon Squad)だけは機関銃、対戦車誘導弾といった装備を運用する人員がおり、必要に応じて通常の歩兵分隊を支援できるようになっています。さらに小隊本部には小隊長をサポートする小隊陸曹、小隊無線手がいます。 歩兵小隊は小隊本部(PLT HQ)、3個の歩兵分隊、武器分隊(WPN SQD)で構成されている。 小隊本部には小隊長、小隊陸曹、無線通信手が、武器分隊には機関銃班、対戦車班がある。(FM 31-8: 1.12)を参照。 以上が歩兵小隊の大まかな組織構造であり、状況にもよりますが、攻撃の時には100メートルの正面にわたって分隊を展開し、防御の時にはその2倍の正面を担当する場合もあります。 こうした数値を踏まえると、小隊という部隊の規模は交戦の際に全体を一目で見通すことができる、ぎりぎりの規模だと言えるかもしれません。 したがって、小隊長の仕事として求められるのは、現場で状況の変化に素早く反応し、必要な指揮をとることであると理解することができます。 小隊長は何をすればいいのか さて、この...

学説紹介 下士官の権威で兵卒は戦う

戦場で兵士を戦わせることは大変難しい仕事です。敵前で戦列を乱し、指揮官が射撃を命じても発砲を躊躇し、挙句の果てには旗色が悪いと逃げ出す者まで出てくるのが戦場の実態でした。 軍事学者は19世紀頃から心理学的アプローチによって、兵士の統制や士気に関する問題に取り組むようになるのですが、今回は兵卒を戦わせるために下士官が果たす役割を心理学者デーブ・グロスマン(Dave Grossman)がどのように考察しているかを紹介したいと思います。 攻撃行動につきまとう心理的負担 軍隊の戦闘効率を向上するためには、武器や戦術の問題の前に、すべての兵卒が戦場で集団的な攻撃行動に参加していなければなりません。 ところが兵士全員に照準具の向こう側にいる敵を攻撃させようとしても、見も知らない他人に対して自分から攻撃を加えることを避けたいという心理が働いてしまいます。 敵との物理的、心理的な距離が小さくなるほど、殺人に対する心理的負担は大きくなる傾向があるため、敵と最前線で対峙する兵卒ほど攻撃を回避する傾向が強まっていきます。こうなると戦闘部隊の効率性は致命的なレベルにまで低下してしまいます。 グロスマンはこうした攻撃行動に伴う心理的負担を軽減するため、現場に指揮官が直接命令を達することが重要であると指摘しており、次のように論じています。 「この問題を研究したことがない人は、兵士が敵を殺す際の指揮官の影響をさほど重視しないかもしれない。だが、戦場を経験したことのあるものはそんな愚は犯すまい。1973年の研究において、クランス、カプラン、およびクランスの3人は、兵士が発表する理由を調査している。戦闘経験のない人は、「撃たないと撃たれるから」というのが決定的な理由だと考えたが、戦闘経験者が最大の理由として挙げたのは「撃てと命令されるから」だった」(邦訳、グロスマン、244頁) 実はこのような心理はイェール大学の心理学者スタンリー・ミルグラムによって実証されたことがあり、ミルグラム実験として広く知られています。 ミルグラム実験で分かる攻撃と服従の心理 ミルグラム実験の概略図。実験の略図。被験者であるTは、Lに問題を出して解答を間違える度に電気ショックを次第に強くするよう、実験者Eから命令される。実験ではLはEと打ち合わせし、電気ショックで苦しく様子を演じ...

論文紹介 下士官はいかに軍隊を支えてきたか―歴史的考察

軍人の階級は士官、下士官、兵卒の三種類に分類できることは、広く知られています。 しかし、下士官が士官と兵卒の中間においてどのような役割を果たしているのかは、それほど広く知られていません。 今回は、歴史的観点から下士官の役割を考察するため、米軍の歴史における下士官の制度の発展を調査した研究について紹介したいと思います。 論文情報 Arms, L. R. 2009. "The NCO: A Short History," NCO Journal , 18(1): 14-20. 創設期のアメリカ軍における下士官の位置付け 米国の歴史で下士官の重要性を最初に明確にした著作は、1778年にシュトイベン(Friedrich von Steuben)が出した『合衆国軍の組織と規律に関する規則(Regulations for the Order and Discipline of the Troops of the United States)』であり、これによって下士官の任務がはじめて体系的に整理されました。 元プロイセン陸軍大尉だったシュトイベンはヨーロッパでもともと就職活動をしていたのですが、最終的にアメリカ独立戦争でイギリス軍と戦っていたアメリカ大陸軍に入隊を果たし、ワシントンの部下として訓練計画や教範作成に携わります。 業務を通じてシュトイベンはアメリカ軍に決定的に欠けているのは下士官であると強く認識するようになります。 先ほどの著作は当時では単に「青本(Blue Book)」と呼ばれたもので、そこでシュトイベンは下士官の階級を伍長(Corporals)、軍曹(Sergeants)、曹長(First Sergeants)、需品軍曹(quartermaster sergeants)、先任曹長(sergeants major)に区別し、それぞれの任務を次のように規定しました(Arms 2009: 14) ・先任曹長 連隊付の副官の業務を補佐し、部隊の名簿を管理し、部隊の内情を掌握し、連隊の対内的な管理や規律に関する問題を処理する。 ・需品軍曹 連隊の需品科士官の業務を補佐し、適切に所要を見積り、行進における連隊の物資の輸送を監視する。 ・曹長 部隊において規律を保ち、任務の遂行を確実にする。また部隊の名簿を管理す...

偵察だけが斥候ではない

斥候(patrol)という言葉を聞いたことがある人でも、それを正しく説明することは難しいでしょう。 しばしば誤解されていますが、斥候は必ずしも偵察だけを目標としません。時として斥候は戦うことを主眼とする場合があるのです。 今回は、戦闘斥候を中心に斥候について説明をしてみたいと思います。 戦闘斥候とは何か 一般に斥候とは本隊から独立して行動する1個分隊程度の小さな分遣隊のことですが、その任務は状況によってさまざまに変化します。例えば次のような任務を斥候は遂行する場合があります。 敵情、地形、もしくは地域住民に関する情報資料の収集すること。 敵の部隊との接触を回復すること、または味方の部隊の所在を確認すること。 敵を撃破し、または損害を与えるように交戦すること。 地域住民の信頼を維持または獲得すること。 治安の不安定化を予防すること。 反乱軍または犯罪活動を抑制し、打撃を加えること(FM3-21.8: 9-1-2) 確かに偵察は斥候の任務の一部ではあるのですが、敵との交戦を狙った斥候もあるということがここで示されています。つまり、斥候には戦闘を主眼とするもの、偵察を主眼とするものの二種類に分かれるのです。専門用語だと前者の斥候は戦闘斥候(combat patrol)、後者は偵察斥候(reconnaissance patrol)と呼ばれています(Ibid.: 9-2)。 斥候の行動の一例。 目標に対して最短距離で前進するのではなく、その周囲の状況を調べることができるような経路を前進している。 (FM3-21.8: 9-4) 斥候は本隊から離れて行動しますので、もちろん敵との交戦は望ましい状況ではありません。 しかし、少人数だからこそできる戦法もあるのです。それが襲撃(raid)と伏撃(ambush)の二つです。これらはいずれも奇襲の一種なのですが、その定義は異なります。 襲撃について 襲撃とはその地域を確保して占領すること以外の目標を達成するためにある陣地や施設に対して加えられる奇襲的な攻撃のことを言います(Ibid.: 9-10)。 例えば、敵の倉庫、通信基地等の重要施設を破壊すること、敵に身柄を捕らえられた人質や捕虜を奪回すること、敵の作戦の準備を遅らせること、これらはいずれも襲撃に属する行動であり、戦闘斥候の任...