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モーゲンソーの全体戦争論

国際関係論の研究で知られるモーゲンソーですが、その著作には全体戦争に関する記述のために一章が割かれていることはあまり注目されていません。 モーゲンソーは全体戦争(Total War)に関する研究に依拠しながら、現代の戦争が従来までの限定的な手段によるものではなく、全体的な手段を行使する形態に変化することを主張しています。 特にモーゲンソーが指摘しているのは、第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて、戦争で使用される軍事力の規模と効率が急激に変化したという点です。 「17世紀、18世紀において、人口の1%を兵役のために徴兵することは滅多に達成することができない大事業であった。第一次世界大戦ではヨーロッパ列強は人口の14%を部隊へと充当した。第二次世界大戦では主な交戦国が戦力に補充した人口の割合はそれよりある程度は低かった。⑩%を超えたのは、恐らくアメリカ、ソビエト、ドイツだけであった。武器の機械化が非常に発展したために、このように減少した」 また軍事力の効率を向上させた要因としてモーゲンソーは武器の発達と輸送や通信の発達を挙げています。 「武器の射程が全世界にまで拡大したことは、現代の戦争の性格や、その性格と現代の世界政治との関係にとって多かれ少なかれ意味があるものであり、しかもその意味は戦争の破壊力の増大がこの武器の射程の増大と歩調を合わせてきたかどうかによって変化する」  「およそ19世紀の半ばまでは、記録に残された史料を見る限り、陸路と海路で最も早い行進速度は時速10マイルであったが、陸路でこの速度に達することは稀であった。20世紀初頭には鉄道により陸路の行進速度は最も速い列車で時速65マイルになったが、それは市場それまで達成された速度の6倍半であった。蒸気船は海路での航行を時速36マイルにまで加速させたが、これは従来の最高速度の3倍半の速度であった」 モーゲンソーにとって戦争がこのように変化したことは、全世界を征服することが技術的に可能となったことを含意していると考えていました。 モーゲンソーの議論によれば、こうした全世界を支配するための技術的条件とは(1)中央集権的な統制による住民の社会的統合の強制、(2)反乱の動きを封じ込める物理的な実力の保有、(3)支配と共生のための手段が世界のすみずみに配備されていることです。...

モーゲンソーの勢力均衡理論

今回はモーゲンソーの著作を取り上げて、その中で議論されている勢力均衡理論を紹介します。 文献情報 Morgenthau, H. J. 2005(1948). Politics among Nations: the Struggle for Power and Peace , 7th edition. New York: McGraw-Hill Humanities.(原彬久監訳『国際政治』全3巻、岩波書店、2013年) 目次構成 1.国際政治の理論と実践 2.権力闘争としての国際政治 3.国力 4.国家権力の制限:勢力均衡 5.国家権力の制限:国際道義と世界世論 6.国家権力の制限:国際法 7.現代世界の国際政治 8.平和の問題:制限による平和 9.平和の問題:変革による平和 10.平和の問題:調整による平和 モーゲンソーの勢力均衡理論の特徴は、権力闘争を前提とした国際関係論を構築し、各国の行動を権力追求のための合理的行動として説明するところにあります。 「権力を求めようとする国家はそれぞれ現状を維持あるいは打破しようとするが、その熱望は勢力均衡と呼ばれる形態とその形態の保持を目指す政策とを必然的に生じさせるものである」 国家の対外的な行動は現状の国際関係の秩序を打破するか維持するかの二通りに大別することができると考えられています。 国際関係には軍事的、外交的、経済的、文化的側面などがありますが、その詳細を単純化し、現状維持と現状打破の相互作用として整理することで、分析することを容易にするのです。 この相互作用を基礎づけているものが「国力」です。モーゲンソーが国力に含ませている要素はいずれも国家の戦争遂行能力に寄与するものとなっています。 具体的には、地理、天然資源、工業力、軍備、人口、国民性、国民士気、外交の性格、政府の性格、以上の九点から国力は判断できると考えられています。 その中でもモーゲンソーは特に軍事力の重要性について次のように強調しています。 「地理、天然資源、工業力などの諸要因が国家の力にとって実際上の重要性を持っているのは、これらの要因が軍備に関係があるからである。国力が軍備に依存していることはあまりにも明白であるので詳細に論じる必要はないだろう。軍備は追求される外交政策を支援可能な軍事組...