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論文紹介 機動戦略に伴う軍事的リスク

平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」では将来の自衛隊の防衛戦略の基本的指針として「統合機動防衛力」と呼ばれる防衛構想を実現することが示されています。 国民がこの構想の是非を検討する一つの着眼点となるのが、この構想で機動を重視している特徴です。 戦略上の防御には大きく分けて消耗を主眼とする防御、そして機動を主眼とする防御の二種類があるのですが、この防衛戦略は後者に重きを置いた戦略構想を重視することを含意しています。 今回はこのような防衛戦略にどのような危険が含まれているかを冷戦期におけるNATOの戦略についての研究を紹介した上で考察してみたいと思います。 文献情報 Mearsheimer, J. 1981/1982. "Maneuver, Mobile Defense, and the NATO Central Front," International Security , 6(3): 104-122. 1.機動と機動防御 2.理論における機動防御 3.機動防御とNATO 4.ソビエトの脅威 5.機動防御と危機の安定性 6.結論 機動戦略か、消耗戦略か 著者のミアシャイマーがこの論文を執筆した時期はちょうどレーガン政権の軍拡が注目を集めていた時期でした。 当時、中欧地域で西側陣営が東側陣営に対して軍事的に劣勢な状態に置かれていることが問題とされており、レーガン政権でこの勢力不均衡を是正するために軍事力の増強が推進されていました。 しかし、このような取り組みに対しては多くの研究者から批判が加えられていました。 というのも、米ソ間の勢力不均衡はアメリカ軍の過剰に高額すぎる武器体系と、それに依存した前方防衛(Forward Defense)という脆弱な戦略に起因するものであったためだと考えられていたためです(Mearsheimer 1982: 104)。 前方防衛の要点は東西ドイツの国境地帯に沿ってNATOの防衛線を設定した上でWPの攻撃をその防衛線上で阻止し、敵に損害を強要することでそれ以上の侵攻を断念させるという戦略であり、その前提にあるのは機動戦略ではなく消耗戦略の考え方です。 レーガン政権がいくら軍事予算を増額したとしても、前方防衛のような不完全な戦略を採用する限りは米ソ間の勢力不...

三対一の法則は「法則」なのか?

今回は「三対一の法則」の妥当性を論点として取り上げたいと思います。 戦闘で攻撃者が防御者を撃破するためには防御者の三倍あるいはそれ以上の勢力が必要である。 三対一の法則は 防勢優位仮説 とも関係する重要な仮説で、言い換えれば攻撃を行うよりも防御を行えば三倍の戦闘力を発揮することができることを意味します。 さて、ここで問題なのは、この三対一の法則というのは本当に現代の軍事学の見地から見て妥当なのかどうかということです。 諸説あるのですが、一説によると三対一の法則についての記述は、第一次世界大戦に関するイギリスの公刊戦史に由来するようです。 そこでは「勇気、訓練、士気、装備が等しい両軍において、敵を陣地から駆逐するためには三倍の勢力を必要とするとみられる」(出典未確認)という箇所があり、そこから派生して攻撃者には防御者の三倍の勢力が必要という議論になったようです(栗栖1997: 179)。 この「3」という定数がどのような計算から導き出せるのかということは明らかにされていないにもかかわらず、冷戦期の教範でもこの仮説は長らく参照され続けていました。 そのため、三対一の法則は研究者の間でも論争的な研究テーマであり、参照されることがあったとしても、確実な法則として見なされていません。 この仮説を批判的に検証したプリンストン大学のエプスタイン教授の研究では、攻撃者が防御者の3倍の勢力が必要とは必ずしも言えないことを報告しています。 エプスタインの説によると、陸上戦闘における防勢作戦には長期持久を狙った陣地防御と短期決戦を狙った機動防御で戦闘の結果が異なるだけでなく、攻撃者がどのような方法で攻勢作戦を行うかによっても結果が変化するため三対一の法則には科学的根拠が欠けているということが指摘されています(Epstein 1989)。 三対一の法則を擁護する立場の議論として、シカゴ大学のミシャイマー教授の研究があります。 ただし、ミアシャイマーも三対一の法則を手放しで擁護しているのではなく、いくつかの条件を設定した上で限定的な妥当性があるということを主張する立場です。 ミアシャイマーの研究によると、三対一の法則は攻撃者が20から50キロメートル程度の戦闘正面で突破を行う場合においてのみ適用される法則です(Mearsheimer 1989...