スキップしてメイン コンテンツに移動

投稿

ラベル(ジョン・ミアシャイマー)が付いた投稿を表示しています

論文紹介 冷戦期の「海洋戦略(Maritime Strategy)」に対する批判

新冷戦の時代、ソ連の軍事的脅威に対抗するため、米国のロナルド・レーガン大統領は大規模な海上戦力の増強に乗り出します。 この米海軍増強の根拠として打ち出された戦略が「海洋戦略(Maritime Strategy)」だったのですが、1980年代を通してこの戦略をどう評価すべきかについて議論が分かれていました。 その論争の背後には米軍内部の予算獲得競争もあったのですが、純粋に戦略の観点から見ても、研究者から実行可能性に疑問が投げかけられていたのです。 今回は、「海洋戦略」に戦略を批判した米国の政治学者ジョン・ミアシャイマー(John J. Mearsheimer)の論文を紹介したいと思います。 文献情報 Mearsheimer, John J. 1986. "A Strategic Misstep: the Maritime Strategy and Deterrence in Europe," International Security , Vol. 11, No. 2, pp. 3-57. 問題はレーガン政権の「海洋戦略」である 著者はレーガン政権が打ち出し、米海軍が中心となって推進していた「海洋戦略」はヨーロッパでソ連軍の侵攻を抑止する上でほとんど役に立っていないどころか、むしろ妨げているのではないかと疑問を持っていました。 この論文の冒頭で著者は次のように述べています。 「レーガン政権による軍備増強の中心的要素は、米海軍の規模を600隻に増勢する計画に基づいている。この600隻の戦力は、ソ連に対して世界規模の通常戦争を遂行する海軍の構想である「海洋戦略」を実行する上で必要であると言われている。これは中央ヨーロッパの航空・陸上戦力を犠牲にしながら整備されており、これらはレーガン政権の任期にわたって大幅に強化されていない」(Mearsheimer 1986: 3) 冷戦においてヨーロッパは米国の世界戦略で特に重視されてきた地域でした。この地域は東西ドイツの国境線を中心にNATOとWPの地上部隊が対峙する部隊態勢にあるため、もし開戦となれば直ちに地上戦になる可能性が大きいと見積もられていました。 つまり、ソ連に対する抑止力を確保するためには、こうした地上戦を想定した武器や装備を揃えておく必要があり、...

文献紹介 抑止が難しい戦略もある

ジョン・ミアシャイマー(John J. Mearsheimer, 1947-)は、リアリズムの立場で国際政治を研究している米国の政治学者です。その研究業績の多くが安全保障に関するものであり、冷戦期に行ったヨーロッパにおける東西両陣営の勢力関係や軍事戦略に関する分析がよく知られています。 今回は、ミアシャイマーの研究でも抑止論に関するもの、しかも核抑止ではなく通常抑止についての議論を紹介し、抑止は単に戦力の規模や効率だけによって実現されるものではなく、相手方の運用が重要であるということを説明したいと思います。 文献情報 Mearsheimer, John J. 1983. Conventional Deterrence , Ithaca: Cornell University Press. 抑止とは、通常抑止とは 抑止(deterrence)は基本的に潜在的な攻撃者に攻撃を思いとどまらせるものであり、そのためには防御者がその攻撃者が目標の達成を防ぎとめるだけの軍事的手段が必要であると理解されてきました。著者は一般的な意味での抑止を次のように説明しています。 「最も一般的な意味における抑止とは、予期される利益が見積もられる費用やリスクを正当化しないために、特定の活動を開始しないよう敵対者を説得することを意味している。戦う決定は軍事的事項だけでなく、国家の能力が戦場においてその目標を達成できるかによってよっそくされるため、非軍事的要因も抑止に影響する。もし有効な軍事行動によって得られるような広く定義された政治的利益が存在すると我々が想定するならば、意思決定者に対して作用する要因を認識しなければならない。より具体的に述べれば、指導者は非軍事的な性質のリスクと費用を考察しなければならないのである」(Mearsheimer 1983: 14) 国家Aの指導者が国家Bを武力で攻撃しようとする場合、国家Aの指導者が期待できる戦果は国家Bが有する軍備に対する国家Aの軍備の相対的水準によって左右されます。より分かりやすく言えば、国家Aの指導者が国家Bに対して高い勝率が望めると判断すれば、それだけ国家Aの指導者が攻撃を決断する可能性は大きくなるということです。 著者は抑止を実現するための手段を必ずしも軍事的手段だけに限定しておらず、経済的手段、外交的手段...