国際関係論の研究では、貿易によって国家間の経済的な相互依存が強化されれば、戦争が勃発して貿易が不可能になった際に相互に不利益となるため、その結果として平和を維持しやすくなる、と考える立場があります。 これはリベラリズム(liberalism)として以前から知られている学説であり、コヘインやナイ等の研究者によって主張されています(Kohane and Nye 1972, 1977)。 確かに貿易関係の強化が戦争を困難にするという可能性は注目に値するものですが、だからといって経済的相互依存によって平和を維持することが可能になるという考え方がどこまで妥当するのか疑問も残ります。 今回は、この問題を批判的立場から考察するため、20世紀に国際政治の研究で先駆的業績を残したイギリスの外交官エドワード・ハレット・カー(E. H. Carr)の議論に注目したいと思います。 平和が常に各国の共通利益とは限らない 19世紀に後れて統一を果たしたドイツはその成立当初から英仏の勢力圏に挑戦しなければ、自国の植民地を拡大できない状況にあった。1911年4月、モロッコの利権をめぐって英仏西との関係が悪化した第二次モロッコ事件では、軍艦を現地に派遣し、全面戦争も辞さない構えを英仏に示すことで、独領カメルーンを獲得している。 リベラリズムにおいて、戦争は必ずしも国家の 政策を遂行する合理的な方法とは考えられていません。 つまり、国家にとって戦争を遂行するために必要な人的、物的な損害は、その国家が目指す国益をかえって損ねる側面が大きく、結局のところ平和を維持する方が国家として目標を達成しやすいことになります。 こうしたリベラリズムの戦争観(もしくは平和観)について、カーは次のように説明しています。 「利益調和の理論は、政治的には通常次のような考え方に立っていた。すなわち、すべての国家は平和に同一の利益を持っていること、したがって平和を阻もうとする国家はすべて、理性も道義もないのだ、ということである」(カー、114頁) しかし、このような単純化は国際社会の実情から乖離しているとカーは批判しています。 確かに武力を用いずに国家がその政策を遂行することは、多くの国家が望ましいと考えるかもしれません。 しかしそれは国際社会の「現状」を変えようとする諸国と、維持...
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