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2018年3月1日木曜日

学説紹介 連合作戦を遂行するための戦略の原則―クラウゼヴィッツの分析―

現在の日本は自らの防衛力を保持しながらも、米国との同盟に依拠する程度が大きく、有事においては両国が緊密な軍事的連携をとることが求められます。
軍事学において、このような数カ国が参加して行われる作戦は連合作戦と呼ばれているのですが、その実施は政治的、外交的利害の不一致から非常に難しくなると指摘されています。

今回は、連合作戦の問題について考察するため、クラウゼヴィッツの学説を取り上げて、そこでどのような戦略的原則が主張されているのかを紹介したいと思います。

指揮統一の徹底と作戦計画の共有

クラウゼヴィッツは政治、外交にも見識がある軍事学者でした。そのため、彼は勢力均衡の観点から同盟が極めて重要な働きを持っていることをよく理解し、連合作戦の必要性についても認めていました(邦訳、ロートフェルス、233-4頁)。

しかし、軍事的観点から見れば連合作戦は非常に難しい作戦であることも事実であり、クラウゼヴィッツはそれを遂行するには二つの基本的な原則に従うべきと考えました。一つは指揮の統一、もう一つは計画の共有です。
「有用な同盟関係にもとづいて目的にかなった戦争を行うために私の知っている事は、ただ二つの手段を用いることである。その一つは、戦争のために定めた戦闘用資材人員を集積してそれを投入する、そしてその指導を一人の将帥に委任することである」(同上、237頁)
「いま一つは、それぞれの国の自然的状態および利点にもとづき、共通の戦争計画を起案し、その後のしかるべき時機にその計画に関する一層詳細な原則や実例を与えるのである」(同上、237-8頁)
クラウゼヴィッツは、それぞれの措置の重要性について比較検討しているわけではありませんが、前者は後者よりも大きな意味を持っていると言えます。
つまり、2人の指揮官が部隊を指揮するのではなく、1人の指揮官が部隊を指揮することになれば、当然の結果として作戦計画は共有されるためです。

このような措置が必要な理由は、同盟国が戦時になってから利害相反に直面し、兵力の効率的な運用が妨げられるためです。
もし2人の指揮官が別々の計画に基づいて部隊を動かせば、敵部隊はこれを容易に各個撃破できるでしょう。

指揮統一がなされない場合の連合作戦

連合作戦を成功させるために指揮統一の原則が極めて重要だとクラウゼヴィッツが考えていたことが分かりましたが、もちろんこの原則がそのまま適用できないような状況は当然起こる可能性があります。

そのため、クラウゼヴィッツは続く考察で自らの分析をさらに展開し、二つの国の部隊の指揮を統一できないのだとすれば、それぞれ異なる作戦地域で活動することになるとして次のように述べています。
(1)二つの強国のそれぞれの重要な軍隊は、おそらくはそれぞれの独自の戦域をもつに違いない。
(2)それらの軍隊がそれぞれ独自の戦域をもつほどそれほど完全に離れて存在することができない場合、この場合はそれら軍隊をできる限り密接に相互に融合させる方が一層有利である。
(3)もしそれぞれの国の軍隊が独自の戦域をもつならば、それによって恐らく次の条件が生じるに違いない。(a)独自の戦域が攻勢的であるとすれば、この攻勢の目的をなす征服は攻勢を行おうとする強国の手中にある。(b)独自の戦域が防勢的であるとすれば、この防御に当たる強国の領土は不運な防御によって危険にさらされるに違いない。(同上、239頁)
ここで述べられている(3)の原則は連合作戦の利害を考える上で重要な意味を持っています。
例えば、A国とB国が指揮を統一せずに異なる地域で別々に作戦を遂行するなら、A国とB国はそれぞれの担当地域で攻勢をとるのか、防勢をとるのか別々に決めることになります。

このような情勢になると、敵対するC国がB国に向けて兵力を投入し、B国はそれに対して防勢に回って、A国だけがC国に攻勢をとる状況が起こってきます。そうなれば、B国はA国との同盟に基づいてC国と戦い、その損害を受けるにもかかわらず、A国だけがC国の領土に侵攻し、戦果を独占できると考えられます。

これが「不運な防御によって危険にさらされるに違いない」とクラウゼヴィッツが述べている意味であり、連合作戦が同盟国の間の利害の相反を浮き彫りにする危険があるものと認識しなければなりません。

むすびにかえて

一カ国だけで脅威に対応できるだけの十分な兵力を確保できない場合、同盟を結んで数カ国の兵力で対抗することが避けられません。
しかし、そのような同盟が実際の戦争で役に立つとは限らず、加盟国が増大するほどに利害の調整が難しく、指揮の統一や計画の共有で支障が出ることも考慮しなければなりません。

中国の軍備拡張が今後も続くと予想される以上、日本は米国との同盟を強化する必要がありますが、その際にも連合作戦がどのような難しさがあるのかをよく理解しておくことが重要だと思います。

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参考文献
Rothfels, Hans. 1980(1920). Carl von Clausewitz, Politik und Krieg: Eine ideengeschichtliche Studie. Dümmlers Verlag.(邦訳、ハンス・ロートフェルス『クラウゼヴィッツ論、政治と戦争:思想史的研究』新庄宗雅訳、鹿島出版会、昭和57年)