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2017年12月27日水曜日

時事評論 米国による北朝鮮への武力攻撃の確率は16%

今年2017年は北朝鮮の問題が大きく動いた一年でした。
北朝鮮は核弾頭、運搬手段の研究開発を進展させ、米国は北朝鮮の非核化を目的とする武力攻撃を示唆するなど、緊張状態が高まっています。
このことを受けて我が国でも朝鮮有事に関する議論が活発になっており、一部では米国による北朝鮮への武力攻撃があるのではないかという見方も出ています。

今回は情勢判断の参考資料の一つとして、米国の政治学者Bueno de Mesquitaの期待効用モデルと呼ばれるモデルを使い、武力攻撃の確率を見積もり、そこから簡単な予測を試みたいと思います。(モデルの詳細については末尾の補足を参照)

(注意喚起:政治情勢の予測モデルはまだ科学的に確立されたとは言えない段階にあります。予測結果が将来の出来事を確証するものではなく、また以下の内容の正確性について筆者が一切の法的責任を負わないことに同意する場合にのみ読み進めて下さい)

モデルと入力した情報について

期待効用モデルはゲーム理論を基本にしたモデルです。
各国は最も望ましいと考える政治的立場に他国を引き寄せようとしながら、周囲の政治的立場から判断される政治的実現可能性に応じ、自国としても譲歩を行う多国間交渉を分析することができます(モデルの詳細は補足の文献を参照して下さい)。

モデルに入力する情報としては、各国が持つ能力、各国がとる立場、そして関心の程度の三つとされており、それぞれを1から100までの間で評点します。
ここでは分析を単純化するために米国、中国、ロシア、北朝鮮、韓国、日本の6カ国に限定して考察します。

また、各国の能力は今回の問題に関して各国が使用可能な影響力のことを意味します。
そこで軍事力(軍事要員数と軍事予算額を掛けた値が、6カ国全体で占める比率)と経済力(それぞれのGDPが6カ国全体の合計値に対して占める比率)の平均値を使用することにします。
具体的な数値としては中国が28.0、北朝鮮が0.5、韓国が2.0、日本が6.0、ロシアが3.0、米国が58.0を用います。

さらに立場についても分析のために各国の立場を単純化して処理します。
つまり、武力攻撃を実施してでも北朝鮮を非核化すべきという立場を1~20、非軍事的手段で北朝鮮を非核化すべきという立場を21~40、外交交渉によって双方が譲歩すべきという立場を41~60、北朝鮮に対する非軍事的圧力に非協力的な立場を61~80、北朝鮮に対する軍事行動があれば軍事的手段でこれに対抗する立場を81~100と便宜的に分けます。
この判断基準に沿って中国を80.0、北朝鮮が100.0、韓国が55.0、日本が45.0、ロシアが70.0、米国が10.0と評点します。

最後の関心は各国がどれだけ本気でこの問題に対応しようとしているのかにかかわってきますが、これは各国がいずれも秘匿している情報であり、不明確な点が多いため、理論的な操作で数字を求めることはせず、乱数化したいと思います。

分析結果の概要と考察

このモデルで分析することによって、将来的に各国がどのような立場に移行するのかを予測することができます。試行回数50回で分析した結果をまとめると以下の通りです。
50ケースごとに米中露日韓朝6カ国の立場をプロットしたもの。
縦軸の値が各国がとる立場を示し、横軸の値が何回目のケースなのかを示している。
青色が中国、赤色が北朝鮮、灰色が韓国、黄色が日本、青色がロシア、緑色が米国を表す。
結論から先に述べると、非軍事的圧力を受けたにもかかわらず、北朝鮮が自国の立場を維持し、かつ米国が武力攻撃に踏み切るべきだと判断したケースは、試行した50回のうち8回で確認されました。つまり、16%の確率と見積もることができます。
試行回数を増やせば数値も若干変化するでしょうが、米朝戦争のような事態に至る確率はそうならない確率に比べて比較的小さくなると思われます。

結果の全般的特徴として特に注目されるのは、現在の東アジア地域で優勢な米国が、一貫して自分の立場を主張し続ける確率が64%と高いことです。
逆の視点で言えば、米国が自国の立場を大きく修正する確率は36%と見込まれることになります。この際、中国やロシアが重要な役割を果たすことになるでしょう。
日本、韓国は米中露の立場に対してちょうど中間の立場に位置するので、政治的に見れば有利な立場を占めるのですが、能力不足のために大きな影響を及ぼしているように見えません。

またモデルの結果によると、北朝鮮は周辺諸国に比べて現在の自国の立場を維持することが極めて難しい態勢にあり、米国と何らかの妥協を図る公算が大きいと判断されます。
とはいえ、北朝鮮のリスク志向性の高さには注意する必要があることをモデルは示唆しています。
これは分かりやすく言えば、北朝鮮が劣勢を挽回するために一か八かの行動に打って出る傾向が強まっているということです。

先ほどのグラフにおいても北朝鮮が選択可能な立場についてモデルがかなり大きな変動幅を予測していることも、こうしたリスク志向性の強さが影響しているものと考えられます。

むすびにかえて

モデルで計算した結果、米国による北朝鮮への武力攻撃の確率は16%と見積もられました。
これは戦争の勃発を確実視できるほど高い値と認めるには小さすぎる数値です。今後の予測として、引き続き緊張状態が維持され、外交努力が重ねられる可能性の方が高いと思われます。

ただし、16%というのは戦争のリスクを完全に無視できるような値でもありません。
戦争のリスクについては最低限の注意を払うべき局面にあることを認識しておくべきでしょう。

KT

補足

期待効用モデルはゲーム理論を使って戦争を分析する研究から生まれたモデルであり、Bueno de Mesquita, B. 1981. The War Trap. New Haven, Conn.: Yale University Press.でその原型が初めて示されました。
その後、予測モデルとして改良が重ねられ、政治的意思決定を予測する目的で使用されています。この記事では乱数を部分的に使用したが、これはBueno de Mesquita, B. 2002. Predicting Politics. Coloumbus: The Ohio State University Press, Ch. 4.の方法を参考にしています。
このモデルの基本的な概念はTed Talkのプレゼンテーション「Bruce Bueno de Mesquita: A prediction for the future of Iran」で紹介されたこともあり、サブタイトルに日本語翻訳も含まれているため、概要を把握する上で参考になると思います。