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2018年7月6日金曜日

用語解説 戦力投射(force projection)とは何か

戦力投射(force projection)とは、味方の作戦部隊を動員してから、作戦地域へと移動を完了し、さらに戦闘展開するまでの一連の部隊活動をいいます。
戦略投射能力に優れた軍隊とは、大規模な部隊を所望の地域に迅速に展開させる能力を備えた軍隊だといえるでしょう。

今回は、米軍の教範での戦力投射の解説を紹介し、戦力投射の原則や具体的な意味の内容について考えてみましょう。

戦力投射は勢力投射の一要素である

そもそも戦力投射は作戦レベルで軍事行動を分析する際に使われることが多い用語です。
それは戦時だけでなく、平時においても実施される場合があり、例えば危機管理のため緊張が高まっている地域に予防的に展開することも戦力投射の一種と位置付けることができます。

米軍の教範では次のように説明がなされています。
「戦力投射は勢力投射の軍事的要素である。それは国家軍事戦略の中心を占める。最も重要なのは速度であり、戦力投射は味方の部隊と敵の部隊との競争である。最も素早く戦闘力を構築できた側が主導権を獲得できる。したがって、各段階の速度や輸送手段が決定的な意義を持つわけではなく、敵の準備が整う前に、あるいは状況がさらに悪化する前に作戦地域に戦闘可能な部隊が展開することが決定的な意義を持つのである」(FM 3-0, C1: 1-25)
戦力投射と似た用語に勢力投射(power projection)という用語があるのですが、この解説で指摘されている通り、戦力投射は軍事行動に意味が限定された用語です。
したがって、非軍事的手段をも駆使して自国の影響力を遠隔地に及ぼそうとする勢力投射とは区別しなければならないということです。

戦力投射のプロセスを分析する

また、戦力投射の具体的なプロセスについても概観されていますが、その詳細は以下のように区分されています(Ibid.)。
・動員(mobilization):軍隊を戦闘可能な勤務状態に移行させ、部隊の人員、武器、装備を充足させる過程のこと。
・展開(deployment):命令を受けて作戦地域に部隊を移動させること。
・運用(employment):任務遂行に必要なあらゆる種類の作戦行動をとること。
・後方支援(sustainment):部隊が任務を遂行するまで、武器や弾薬を補給し、人員の衛生状態を向上させ、戦闘力の維持増進を助けること。
・再展開(redeployment):動員した場所や別の作戦地域に部隊や物資を戻すこと(Ibid.: 4-8を参考)。
つまり、戦力投射という部隊活動は、部隊の動員を発令した直後から始まっており、部隊が戦場に展開してからも、そこで戦闘力を発揮できるように後方支援を整えることも考慮しておかなければなりません。

とはいえ、実際の戦力投射でこれらの段階が整然と進むことはなく、重複、反復されることもあれば、入り混じった形で進められることもあるとも指摘されています(Ibid.:  1-25)。

まとめ

より広い視点で捉えるならば、戦力投射は機動戦の一要素と位置付けてもよいでしょう。
つまり、戦略投射はまだ接触、交戦していない敵部隊に先んじて、有利な陣地を占領するために行う戦略機動であり、これによって将来の作戦をさらに円滑に推進することが期待されるのです。

反対に、もし全般的な軍備で優勢であっても、戦力投射能力に問題があり、所望の地域に部隊が展開するまでに多大な時間を要するなら、実質的な軍事バランスでは大きな不利を被ることになります。

日本の防衛体制は日米同盟の下で有事に米軍が必要な戦力を増援することを前提としていますので、米軍がどれだけ戦力投射できるのかを絶えず確認することが肝要です。

極東正面に対して米軍はどの程度の時間で、どれだけの部隊で来援できるのかを見積もることができれば、我が国の所要防衛力を見積もる上で参考になります。

KT

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参考文献
U.S. Department of the Army .2017. Field Manual 3-0: Operation, Washington, D.C.