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2018年6月1日金曜日

学説紹介 どうすれば平和を実現できるのか―政治学者オルガンスキーの考察―

戦争の悲惨さと平和の尊さを知る善良な人々は、戦争が間断なく続く世界史を不可解な物語だと思うかもしれませんが、政治学を研究する人々はそれが論理的な説明がつく事象だと考えようとします。

つまり、戦争が起こらない状況とは一定の勢力関係が維持されている状態であり、過去の歴史で平和の維持が難しいのは、この勢力関係が変化したことによるものだと説明するのです。

今回は、こうした国際政治学の考え方を理解する一助として、20世紀の政治学者オルガンスキー(A. F. K. Organski)が提唱した勢力移行論(power transition theory)を紹介したいと思います。

国際社会は階層構造を形成する

1939年3月14/15日にベルリンでチェコスロバキアのハーハ大統領と協議するドイツのヒトラー総統。この時にヒトラーはチェコスロバキアを解体し、一部の領土をドイツに併合し、残りも保護下に置くことに合意するよう強要した。
オルガンスキーの勢力移行論は国際社会に圧倒的な国力を持つ大国と、それ以外の中小国がいるという認識を基礎に置いています。

つまり、ほんの一握りの有力な国家を頂点として、多数の弱小な国家がその下位に位置付けられる階層的なピラミッド構造が形成されており、その中で各国は自らの国益を実現しようとしていると考えられています(Organski 1968: 364)。

このピラミッドの頂点には最も強大な国家である支配国家(dominant nation)が位置しており、これは世界的に見ても最大規模の勢力を誇り、また現状の国際情勢で特権的利益を得ているものと考えられます(Ibid.)。

支配国家の下位には大国(great powers)と呼ばれる諸国が位置付けられており、これらは支配国家に対しては劣勢であるものの、世界的に見れば十分に強力な国家です。

大国の中には現在の国際秩序で特権的な利益を得ている国家もあれば、そうではない国家もあり、不満を持つ国家は現状打破を狙う動機を持っています(Ibid.: 365)

大国のさらに下位にあるのが中小国(middle powers and small powers)であり、国際社会で十分な国力を持たない弱小勢力です。

オルガンスキーの見解によれば、近代ヨーロッパにおけるベルギー、ノルウェー、スイスなどがここに含まれます(Ibid.: 367-8)。

こうした国々の大部分は自国が置かれている現状には満足しておらず、絶えず不利な立場に置かれていますが、それを覆すだけの能力もありません。

現状打破を封じ込める能力が平和の条件

第二次世界大戦でドイツに対抗すべく連合国のイギリス(右チャーチル)、アメリカ(中ローズヴェルト)、ソ連(左スターリン)が手を結んだことは、国際政治の観点から見れば現状維持という共通の利益に基づく対外行動だったと解釈できる。勢力移行論では、現状打破を図る陣営が指導権を奪うか、現状維持を図る陣営が優勢を取り戻した時に平和が回復されると説明される。
オルガンスキーの勢力移行論では、こうして階層化された国際社会においては、さらに二つの陣営が形成されると考えられています。

一つ目のグループは支配国家をはじめとする現状維持を望む陣営であり、これには支配国家が含まれます。もう一つが支配国家を中心とする現状を打破することを望む陣営です。

一般的に、不満を持っていたとしても、支配国家を含めた現状維持の陣営に敵わない場合がほとんどですので、現状打破を目論む陣営が存在することによって平和が乱されるとは限りません。

現状維持に加わる諸国が一致団結して現状打破に出てくる恐れがある脅威を封じ込めている限り、戦争が起きたとしても直ちに現状は回復されるため、軍事行動は抑止されると予測できます。
「つまり、強力かつ満足した国家が他の同盟者と共に、挑戦者とその同盟者に対して勢力で圧倒的な優位を維持し、また現状維持を支持する国々の勢力がいかなる軍事的挑戦も成功の見込みを持たせないほど大規模であるとき、最も平和は維持されやすい。そして戦争は不満を持つ挑戦者とその同盟者の勢力が、現状維持側の諸国の勢力に近づき始めるときに最も起こりやすいのである」(Ibid.: 370)
言い方を変えるなら、平和を維持することは、現在の国際秩序に不満を持つ諸国を力でもって封じ込めることで実現可能だとオルガンスキーは論じています。

もちろん、このようにして維持される平和は公正な平和ではないことはオルガンスキーも認識していますが、世界中の国家を完全に満足させることは不可能であるため、こうした手法には一定の合理性があるとされています(Ibid.)。

むすびにかえて

勢力移行論の貢献は、国際社会を支配国家から大国を経て中小国に至る階層的構造で捉え、現状維持と現状打破の二つの陣営のせめぎ合いとして定式化しただけではなく、そこから戦争と平和を勢力移行という観点から分析するための視座を与えてくれたことです。
この視座から見た場合、平和を実現するために何に気を付けるべきなのでしょうか。

オルガンスキーは平和の実現を妨げる典型的な要因として、第一に現状に挑戦するための潜在的能力が現状打破の陣営で増大すること、第二にその増大の速度が増すこと、第三に新興国からの要求事項に対して支配国家が柔軟な対応を拒むことです(Ibid.: 371-5)。

したがって、こうした要因を排除することが長く平和を維持するためには必要だと言えるでしょう。
ただし、こうした措置が容易なことではなく、現状維持と現状打破の勢力関係が逆転した後では、しばしば不可能な場合もあるということは冷静に認識しておく必要があると思います。

KT

参考文献
Organski, A. F. K. 1968(1958). World Politics. second edition. New York: Alfred A. Knopf.