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2018年4月1日日曜日

文献紹介 敵の戦車と歩兵を前後に分断する―ドイツ軍の電撃戦に対するミクシェの網状防御(net defense)の構想―

ミクシェ(Ferdinand Otto Miksche, 1905-1992)はチェコスロバキアの軍人であり、第二次世界大戦後に多くの著述を残していますが、特にドイツ軍の電撃戦に関する戦術的研究でよく知られてます。
ミクシェの功績は電撃戦の利点を評価するだけでなく、その欠点をも総合的に考察し、これに対抗するための構想をまとめたことです。

今回は、ミクシェの研究成果を紹介し、防御の観点から電撃戦に立ち向かう戦術について考えたいと思います。

文献情報
Miksche, Ferdinand Otto. Attack, a Study of Blitzkrieg Tactics. Random House, 1942.

どうすれば電撃戦に対抗できるのか

1939年にドイツがポーランドに攻め込んだ時、ドイツ軍はわずか1カ月ほどで勝利を確実なものにしました。
20年前の第一次世界大戦で塹壕戦を経験したヨーロッパの軍人からすれば、これほど短期で決戦に持ち込めたことは驚くべきことだったと言えます。
間もなくドイツ陸軍の戦い方は外国の研究者から「電撃戦(blitzkrieg)」と呼ばれるようになり、研究されるようになりました。

一連の研究を通じて、ドイツ軍が機甲部隊を集中運用し、敵の防衛線を縦深にわたって突破するなど、非常に機動的な部隊行動が確認され、これが電撃戦の成功に大きく寄与していると考えられるようになります。
しかし、このような分析だけではドイツ軍を迎え撃つ際に、どのような態勢で臨めばよいのか明らかではありませんでした。

そこでミクシェはドイツ軍の電撃戦に対抗するための具体的な戦術を研究し、防御の観点からどのような措置をとるべきかについて議論するようになりました。

電撃戦にもいくつかの弱点がある

ミクシェの網状防御の概念を具体的に表した概念図。戦車は履帯によって高い路外機動力を持っているが、山地のように起伏が大きい地形で運用することが難しく、そのような場所に構築された陣地の攻撃は歩兵に任せて迂回し、敵の後方地域にある指揮所や補給処を目指す。ミクシェの網状防御では、この縦深突破に事前に備えて各地点の防御陣地に独立戦闘の機能を付与し、敵歩兵を長期にわたり拘束することで、敵の部隊を前後に分断する。単に縦深を利用するだけでなく、歩兵と戦車の機動力の差を利用した防御という点で興味深い。
ミクシェはドイツ軍の電撃戦を調査した上で、これにいくつかの弱点があることを突き止めています。
まず、ドイツ軍でも装甲車両を十分に配備している部隊は一部に過ぎず、電撃戦の要となる機甲部隊の機動に追いつけるほど歩兵部隊や後方支援部隊の機動力は優れていないことにミクシェは気がつき、これらを前後に分断できると考えました(Miksche 1942: 195)。

また、ドイツ軍の電撃戦は短期間で決着をつけることを志向するため、長期持久戦に対応することが難しいという限界もありました。
そこでミクシェは戦車の進入が難しい地形に独立的な防御陣地を各地に構築し、敵の戦車が我の後方地域に進出した後も各地で防御戦闘が継続できる態勢を準備することが効果的だと論じます(Ibid.: 195-6)。

さらにミクシェはこうした防御陣地の具体的構成を考える際に、機動力の優れた機甲部隊だけを奥深くに誘致し、かつ歩兵部隊の前進を阻止するように工夫すべきと主張していました。
つまり、敵の歩兵は前進できないが、敵の戦車だけは進入しやすいように陣地を編成するという構想であり、これをミクシェは網状防御(web defense)と呼びました(Ibid.: 197, 198-9)。

むすびにかえて
ミクシェが提案した方式は、言い方を変えれば、敵戦車に突破される事態を前提にした防御であり、これは現代の戦術の研究でも機動防御と呼ばれているものです。

ミクシェの網状防御を採用すれば、敵の機甲部隊に突破されたとしても、それ自体は一時的な危険に過ぎません。
敵の機甲部隊の後方連絡線を掩護するための歩兵部隊は前進できなくなるため、後方支援部隊も機甲部隊に必要な燃料や弾薬を輸送できなくなります。
すると突出した機甲部隊の戦闘力は時間経過で失われるため、あとは戦機を見て機甲部隊を包囲撃滅すればよいだけです。

発表当時のミクシェの研究成果はあくまでも私案だったので、直ちに公式の見解と見なされたわけではありませんでした。
しかし、電撃戦に対抗するための防御に関して重要な戦術原則を確立したことは高く評価されることになり、第二次世界大戦が終わってからも機動戦の代表的な研究としてヨーロッパ各国の研究者に読み継がれています。

KT

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