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2018年3月21日水曜日

学説紹介 戦場における歩兵と戦車―グデーリアンが考える諸兵科連合―

第一次世界大戦で戦車が初めて実戦に投入されて以来、この新兵器をどのように運用すべきかをめぐって議論が交わされてきました。
ある者は歩兵を支援する兵器として戦車を位置付け、ある者は戦車を独立して運用すべき兵器として位置付けたのです。

今回は、ドイツ陸軍軍人であるグデーリアンが戦間期に歩兵と戦車の協同についてどのように考察していたのかを取り上げ、複数の兵科の部隊を協同させる諸兵科連合(combined arms)の観点からそれにどのような意義があったのかを考察してみたいと思います。

歩兵と戦車の協同はどうあるべきか

グデーリアンは第一次世界大戦の戦闘を経験して以来、戦車の役割に関する論争が二つの陣営に分かれて繰り広げたことを紹介しています。

一方の論者は歩兵こそ唯一無二の「戦場の女王」であると考え、それ以外の兵科は歩兵部隊を援助する役割を果たすべきだと主張しました(邦訳、グデーリアン、393頁)。
すなわち、歩兵部隊が徒歩で戦場を移動している間、機甲部隊は動く楯のように歩兵の前方で行動するべきだということです(同上)。

この思想に反対するのが機甲部隊の独立を主張する論者であり、彼らはその機動力を活用して敵の側背を突き、さらに縦深にわたって敵陣地を突破するという新しい戦術運用を構想していました。
このことによって、防御陣地に立て籠もる敵部隊を奇襲することが可能となり、塹壕戦で手詰まりになる事態を避けようということです(同上、394頁)。

グデーリアン自身の思想は基本的に後者のものでしたが、諸兵科連合という観点から見て機甲部隊と歩兵部隊との協同が重要であることも認識していました。次の記述からもそのことが読み取れます。
「他兵科との協同は、装甲部隊にとって必要なことである。それ単独では(他の兵科もまたそうであるように)、与えられる戦闘任務のすべてを遂行できないからだ。装甲部隊には他兵科の部隊と協同する義務があるし、逆もまた真なり、他兵科の部隊が恒常的に戦車との協同用に配されているとあらば、なおさらである」(同上、394頁)
機甲部隊の独立性が重要だとしても、機動力が全く異なる二つの兵科を戦場でどのように運用すべきかという問題への解答にはなりません。
将来の戦争で歩兵と戦車の協同を実現するためには、戦術の観点から詳細な分析が求められていました。

対照的だったイギリスとフランスの対応

グデーリアンは歩兵と戦車の関係をめぐる論争を整理するため、イギリスとフランスとの間で対応がどのように異なっているのかを調査しています。

当時、イギリス陸軍の教範では、歩兵との協同を維持しつつも、戦車がその本来の機動性を活用して攻撃できるように配慮することを優先するように指示されていました。
「他兵科との協同に関しては、1927年にイギリス軍が出した『戦車・装甲車による訓練に関する暫定教令』の文言が重要だ。以下、引用する。「その出現以来、目下のところ、戦車は主要戦闘兵器となっている。それゆえ、戦車と歩兵の協同攻撃は、歩兵の前進や砲兵の支援射撃に鑑みても、戦車の攻撃に好都合なように区分されなければならない。戦車の機動性はすべて活用されなければならないのであり、目標選定や攻撃の時間配分案もそれに左右される」」(同上、394-5頁)
フランス陸軍の戦車に対する認識はイギリス陸軍とかなり対照的なものでした。グデーリアンの調査によれば、フランスでは戦車が歩兵の協同において従属的な役割を与えられており、戦場で機動力を発揮することはあまり期待されていません。
「ここで、イギリス軍の見解のかなりの部分が装甲部隊の独立運用に傾いているのに対して、公表された1935年のフランス軍教範『歩兵教則第二部 戦闘』は従前通りに歩兵と戦車の緊密な協働を要求していることを強調しておこう。このフランス軍教範は「戦車との戦闘」の章で、戦車に関して、世界大戦終結時の技術的状態による数字を挙げている。たとえば、軽戦車の最高速度は時速7キロ、戦闘速度は時速2キロ、平均速度は時速3.5キロといったぐあいだ」(同上、402頁)
また、フランス軍の教範では、戦車が歩兵と同じ目標を攻撃することも記されており、歩兵中隊が攻撃する場合は戦車小隊1個が、歩兵大隊が攻撃する場合は戦車中隊1個がこれを支援することも紹介されています(同上)。

歩兵と戦車との協同についてイギリスとフランスの取り組み方がどれほど異なっていたかが分かりますが、グデーリアンは一概にイギリスを称賛し、フランスを批判しているわけではありません。
基本的にイギリスの考える独立した機甲部隊の運用が望ましいものの、諸兵科連合として歩兵と戦車の直接協同を考えるならば、フランスの取り組みにも評価すべき要素はあると認めています。

グデーリアンが考える歩兵と戦車の協同

前述のように議論をまとめた上で、グデーリアンは自らの考える歩兵と戦車の協同についていくつかの原則を示そうとしています。
グデーリアンによれば、歩兵と戦車の協同を考える上で重要なことは地形であり、地形の特性に応じて対応を分類する必要があります。

もし堅固な防御陣地を敵が占領しているとしても、その前方に多数の起伏や建物があれば、攻者はこれら地形地物を利用して攻撃することが可能であるため有利です。
しかし、身を隠すものが何もない地形であれば、敵陣地に到達するまでに激しい射撃を受けることになるため、攻撃には不利だと言えます。

絶対に避けるべきは掩蔽されていない敵陣地の正面を歩兵と戦車が同じ速度で攻撃前進することであり、これは不必要な損害をもたらすとグデーリアンは警告しています(同上、405頁)
この場合、まず戦車が歩兵に先行して突撃を開始し、直接照準射撃で敵の陣地を制圧している間に歩兵がそれに追随すべきと考えられています(同上)。

しかし、もし反対に攻撃する側にとって有利な地形であれば、グデーリアンは歩兵と戦車が同時に攻撃することは可能だと認めており、あえて戦車の機動力を使わずに歩兵と共に前進してもよいと考えました。

さらに興味深いのは歩兵が戦車に先行して攻撃すべき場合についても考察されていることであり、次のように記述されています。
「歩兵が、戦車よりも先に攻撃する場合、歩兵はまず他兵科、とくに砲兵と工兵によって支援されていなければならない。この方法は、河川の一部や遮蔽物といった障害物が、戦車の速やかな投入を妨げていて、最初に他兵科の部隊が橋頭堡もしくは通路を確保しなければならないときに用いられる」(同上、405頁)
なお、このような攻撃要領をとる場合、戦車は歩兵が攻撃を行う前進軸に対して斜めの方向にそれながら前進し、別の側面から攻撃することも述べられています(同上、406頁)。

また、視界が悪化しても味方同士が識別できる目印を用意し、きちんとした隊形を整えておくことの重要性についても記述があります(同上)。
これらはいずれも味方である歩兵と戦車の間で誤射などが起こらないようにするための処置だと言えます。

むすびにかえて

軍事学におけるグデーリアンの業績は、機甲戦術の研究を発展させたことだと一般的には考えられています。
確かに、戦間期の陸軍においてグデーリアンの立場は機甲部隊の独立的な機動運用を重視する潮流に属しており、フランスよりもイギリスの研究に影響を受けていました。

ただし、グデーリアンがフランスが考えていた戦車と歩兵の協同の問題を見逃していたわけではなく、大きな関心を持って研究していました。
諸兵科連合に基づいて、戦車と歩兵が緊密に協働する場面においては、地形、状況に応じて、機甲部隊の機動力をあえて使わない運用も可能であり、むしろ歩兵が先行して戦車がそれに続行するような戦術も検討する必要があると考えていたのです。

KT

参考文献
ハインツ・グデーリアン『戦車に注目せよ:グデーリアン著作集』大木穀訳、作品社、2016年