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2017年12月12日火曜日

学説紹介 抑止だけではない懲罰(punishment)戦略―懲罰的脅迫に関するスタンの考察―

安全保障の研究で懲罰(punishment)という概念は、抑止の観点から議論されることが一般的です。
例えば、懲罰的抑止(deterrence by punishment)という用語は、敵国からの攻撃を防止する目的で、敵国に対する反撃能力(例えば弾道ミサイルなど)によって期待される抑止効果を表した言葉です。

しかし、懲罰は抑止だけでなく、例えば脅迫・強制のような対外政策の手法としても活用できます。
今回は、戦略の観点から懲罰全般について考察するため、政治学者アラン・スタン(Allan Stam)の考察を取り上げ、その要点を紹介します。

懲罰的抑止の考え方

スタンは機動戦略や消耗戦略に並ぶ第三の戦略として懲罰戦略を位置付け、その特徴を次のように説明しました。
「国家は攻撃を中止させる懲罰戦略を通じて、攻者の負担を大きく引き上げ、そのことによって自国の防御を測ることが可能である。これは相互確証破壊(mutual assured destruction, MAD)の概念に基づく威嚇の一種である。MADのおいては、国家が核兵器で攻撃するとしても、攻者の本土に対して反撃を加えることが可能である。この反撃は防者を打倒することから得られると見込まれる利益をはるかに上回る負担を攻者に負わせることになる」(Stam 1996: 83)
ここで説明されているのは、懲罰的抑止の考え方そのものです。
侵略に踏み切れば、反撃によって確実に本土に甚大な被害が生じる状況に置かれていれば、その政府は自ら進んで戦争に踏み切ることは避けると予測されます。

なぜなら、侵略を行った場合に期待される利益が、反撃で生じる損害によって相殺されるので、合理的ではなくなるためです。
ここでの反撃能力としては核兵器が一般的に想定されますが、スタンは通常兵器であってもその損害が十分であれば反撃能力を満たすことは可能であると考えています(Ibid.)。

懲罰的脅迫の考え方

スタン自身は懲罰的脅迫という用語は用いていませんが、より強引な強要を目的として懲罰を活用することは可能だと考えていました。
つまり、国家は懲罰戦略を用いて現状を変えようとすることもできる、ということです。
「この戦略において、攻者は防者の国家の決定を覆させることが可能だと確信している。ある形態において、攻者は通常であれば航空機やミサイルによってこれを試みる。この戦略は第二次世界大戦の前にドゥーエとミッチェルの理論的研究によって導き出されたものである。ニクソン政権では、米国がベトナムで戦争の後期になってからこの種類の戦略を採用した。その際、米国は地上部隊の大部分を本国に撤収し、一連の懲罰的爆撃によって敵国政府を屈服させようと強制を図った」(Ibid.: 85)
またスタンは歴史的事例として、第二次世界大戦におけるドレスデン、東京、ロンドンに対する戦略爆撃もこの懲罰戦略に基づく攻撃であったと解釈できると述べています(Ibid.)。
また興味深い点として、スタンは毛沢東のゲリラ戦の思想でも懲罰戦略の特徴があるとも指摘しています(Ibid.)。
つまり、懲罰の手段となるのはミサイルや爆撃機ばかりではなく、一撃離脱で敵に損耗を与え続けるゲリラも同様の効果をもたらすことができるということです。

このように考えていくと、懲罰は敵からの攻撃を抑止する目的だけでなく、敵に対して我が方の要求を受け入れさせる目的でも適用することができます。
懲罰戦略に基づく攻撃は大規模な戦争を前提としていないため、ある意味では機動戦略や消耗戦略のような戦略よりも柔軟に用いることができるでしょう。

むすびにかえて

いったん懲罰戦略とは何かを理解すれば、それが対話と圧力を組み合わせた戦略であることが分かります。
その狙いが抑止であれ、脅迫であれ、懲罰戦略をとる国家が計画的に状況をエスカレートさせる必要があり、しかもそれは慎重に計画されたエスカレーションでなければなりません。

現代の戦略学は戦争で敵を打倒することが全てではありません。戦略は達成すべき政治的目的や、その国家が置かれている政治的環境の特性に応じて、利用可能な軍事行動のオプションを示すことが重視されるようになっています。
スタンの考察は懲罰戦略というオプションを理解する上で参考になると思います。

参考文献

Allan C. Stam III, Win, Lose, or Draw: Domestic Politics and the Crucible of War, University of Michigan, 1996.