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2017年11月10日金曜日

学説紹介 軍事学者クラウゼヴィッツが政治を語った理由―戦争と政治の関係を知るために―

プロイセンの軍事学者として知られるカール・フォン・クラウゼヴィッツは、かつて戦争と政治の関係について重要な学説を提起したことで知られています。

彼の命題はその後の軍事学者の間で繰り返し参照されることになり、政治の観点から戦争を研究する意義を指摘したクラウゼヴィッツの思想を表わす記述として知られるようになりました。

しかし、クラウゼヴィッツは具体的に何を論じていたのかという点については、よく分からない方も少なくないと思います。

今回の記事では、クラウゼヴィッツの戦争観が読み取れる記述をいくつか紹介し、政治と戦争の関係に関する彼の思想を紹介してみたいと思います。

戦争は政治の道具である

クラウゼヴィッツの軍事思想の特徴は、戦争が政治の道具であり、政治が示した目的を達成するために戦争は遂行されるという関係をはっきりと規定したことにあります。
「そこで戦争は政治的行為であるばかりでなく、政治の道具であり、彼我両国の政治的交渉の継続であり、政治における手段とは異なる手段を用いてこの政治的交渉を遂行する行為である。
 してみると、戦争になお独自のものがあるとすれば、それは戦争において用いられる手段に固有の性質に関連するものだけである」(クラウゼヴィッツ『戦争論』上、58頁)
クラウゼヴィッツが述べた通り、戦争が政治の道具であるならば、戦争において用いられる手段、つまり軍隊や武器に特有の性質が多少関連するとしても、それは必ずしもその戦争を理解する上で重要なものではありません。

もちろん、クラウゼヴィッツは軍事力を運用する上で直面するさまざまな問題や制約を理解していましたが、「かかる要求が政治的意図にどれほど強く反映されるにせよ、そのようなものがいちいち政治的意図を変更し得るなどと考えてはならない。政治的意図が常に目的であり、戦争はその手段にすぎないからである」とも述べています(同上)。

戦争の原動力となっているのは政治の目的であり、軍隊の能力はそれを達成するために使用されるに過ぎません。戦争は政治の道具であり、政治が戦争の道具になるようなことは、クラウゼヴィッツの考え方からすると、到底考えられません(同上)。

政策形成における政治対立の問題

戦争が政治の道具だとして、その政治はどのように方向付けられるのでしょうか。
クラウゼヴィッツは基本的に国家で権力を握っている特権的集団によってそれが決まると考えており、そのことを次のように述べています。
「戦争は元来、一国の知能であるところの少数の政治家および軍人によって発起せられる。そしてこの人達なら、彼等の目標をしっかりと見定めて、戦争に関する一切の事項をいちいち点検することができるだろう」(同上、下362頁)
しかし、クラウゼヴィッツは実際の政治がそのように単純なものではないことも理解していました。

つまり、一カ国の内部において権力が複数の人間に分散し、一貫した政策決定が阻害される場合もあると考慮していたのです。(これは過去の記事「論文紹介 政策決定のプロセスから考える日米開戦」で紹介した事例も該当するでしょう)
「しかしそのほかにも国家の要務に携わる多数の人達があり、かかる場合には、この人達の存在も無視するわけにいかない、とは言えかかる人達がすべて当局者と同じ立場にたって、一切の事情を了解し得るとは限らないだろう。そこで反目や軋轢が生じ、この困難を切りぬけるには、多数の反対者を圧服するような力を必要とする。しかし、この力は十分に強力でないのが通例である」(同上)
ここで示唆されているのは、政策形成に携わる関係者が、それぞれ党派的な利害で対立を繰り広げた結果、政策論争で折り合えず、しかも最高権力者さえも自らの立場を押し通すことができない場合があるということです。

これが国家として一貫した戦争目標の設定を困難にするだけでなく、組織的な戦争努力を阻害する要因になることは言うまでもありません。

クラウゼヴィッツは「かかる不一致は、彼我両国のいずれかに生じるし、或はまた双方に生じることもある」と述べた上で(同上)、戦争がより長期化、緩慢になる傾向を助長すると指摘しています。

むすびにかえて

クラウゼヴィッツは戦争を理解するために政治を理解せよと主張していただけではありません。

政治の領域で起こるさまざまな権力闘争や意見対立が強いリーダーシップの下で解消されないままになると、それが戦争の遂行にも影響を及ぼすということを述べていたのです。

一般にクラウゼヴィッツの分析は戦争で起こる事象にのみ焦点が絞られていると考えられがちですが、むしろ戦争で起きている軍事上の出来事を理解するためには、政治の世界で起きていることを理解すべきと論じた人物として位置付けられるべきです。

この意味においてクラウゼヴィッツは、戦争を研究するために、政治分析・政策分析を積極的に取り入れる必要があることを論じた軍事学者だと評することもできるでしょう。

KT

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参考文献
クラウゼヴィッツ『戦争論』篠田英雄訳、全3巻、岩波書店、1968年