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2017年8月11日金曜日

学説紹介 嘉手納を弾道ミサイル攻撃から守り抜けるか

沖縄県の嘉手納飛行場は台湾に最も近接した米軍基地であるだけでなく、第一列島線上に位置する空軍基地でもあります。

米軍の対中作戦において嘉手納のような基地は戦力投射能力の基盤としての意味を持っていますが、これが弾道ミサイル攻撃で機能停止に追い込まれる危険はどれほどあるのでしょうか。

今回は、中国軍の弾道ミサイルの脅威を踏まえ、嘉手納飛行場の防空問題に関する分析を取り上げ、最近のデータも交えてその要点を紹介したいと思います。

弾道ミサイル攻撃の被害見積
1977年に撮影された嘉手納飛行場の航空写真、国土交通省作成
元海兵隊員で、米海軍大学校の元教授のMarshall Hoylerは嘉手納に対する弾道ミサイル攻撃について次のような想定で検討しています。
「中国が嘉手納の滑走路を破壊しようとすると想定しよう。高い命中精度のミサイルがあれば、わずか12発の単一弾頭で実行することができるだろう。6発の弾頭は3,700メートルの滑走路を3つに分断することが可能であり、戦闘機はおろか、AWACSや輸送機も着陸することができなくなる」(Hoyler 2010: 94)
さらにHoylerは滑走路だけでなく、地上に配備された機体もクラスター弾を搭載したCSS-6を40基ほど使用すれば一掃できると推計しています(Ibid.: 95)。

ちなみに、CSS-6(DF-15)は射程が600kmの短距離弾道ミサイルであり、中国では1990年から配備が確認されています。

2017年版の『ミリタリー・バランス』では推定81基保有していると報告されており、CSS-7(DF-11)の推計数と合計すると、短距離弾道ミサイルは189基と見積もられています(Military Balance 2017: 279)。

ただし、嘉手納飛行場には15カ所の掩体壕が設置されているので、それらに格納していれば、ある程度の被害軽減を図ることは可能とも指摘されています(Hoyler 2010: 95)。

中国軍の攻撃要領としては、まず滑走路を破壊し、航空機の離陸を封じてから、シェルターで防護されない機体をクラスター弾で広範囲に破壊する、という手順になるだろうとHoylerは判断しています(Ibid.)。

嘉手納飛行場の防空能力
PAC-3を整備する米兵、実戦での使用は湾岸戦争から始まり、米国以外では日本、韓国、ドイツ、イスラエルなどで運用されている。
弾道ミサイル攻撃が甚大な被害をもたらす危険があることが判明した以上、これに適切な対策を講じなければなりません。

Hoylerは、まず嘉手納飛行場の脆弱性を軽減するためにはシェルターを増設し、被害の局限を図るべきだと述べています(Hoyler 2010: 95)。

しかし、もちろんこの措置では発生する被害を事後的に小さくすることしかできません。

弾道ミサイル攻撃の脅威に対処する上で活用を考えなければならないのは地対空ミサイルであり、HoylerはPAC-3を分析対象として取り上げています。
「嘉手納のパトリオット高射大隊は、対弾道ミサイルPAC-3が配備された高射中隊4個からなる。パトリオット高射中隊には8個の発射装置があり、それぞれの発射装置には16発のミサイルが配備されている。嘉手納のPAC-3高射大隊が発射装置の再装填を行わないとしても、これらの数字は512発(4×8×16)のミサイルの保有を意味している」(Ibid.: 96)
沖縄に配備された高射大隊の規模から、Hoylerは264基のPAC-3が配備されていると見積っており、さらに早期警戒システムが完全に作動して撃破率が70%になると想定すると、対処可能な弾道ミサイル攻撃の規模は132基までだと述べています(Ibid.)。

先ほど述べた通り、2016年末時点での中国軍のCSS-6の推定数は81基とされているので、この数値をもとに計算すれば嘉手納飛行場に被害が生じるとは考えにくいでしょう。

ただし、軍事力に関するデータは情報源によってかなりの幅があることにも留意すべきでしょう。

この論文が出された2010年に出された米国防総省の見積では、中国軍がCSS-6を350基から400基も保有しているとの推計も紹介されています(Ibid.)。

むすびにかえて
嘉手納飛行場にとって弾道ミサイル攻撃の脅威は深刻なものですが、米軍もその脅威には相応の資源を割いて対応していることが分かると思います。

少なくとも2017年の『ミリタリー・バランス』のデータで推計する限り、嘉手納飛行場の防空能力は中国軍のCSS-6の攻撃に対処可能な水準にあるといえます。

ただし、米国防総省の見積が示唆するように、中国軍が132基以上のCSS-6を一斉に発射する能力を持っている可能性があるということも理解し、被害局限のための取り組みも進めておく方がよいということも分かりました。

こうした結果を見ると、米軍の防空への取り組み方が未だ不十分と感じるかもしれませんが、米国防総省が2010年度に調達したPAC-3の実績が791基であり、嘉手納の512基のPAC-3はその3分の2に近い数字になることも理解しておかなければなりません(Ibid.)。またPAC-3だけが弾道ミサイル防御のすべてというわけでもないことも付け加えておきます。

昨今、弾道ミサイルをめぐって東アジア情勢が不安定化しています。日本のミサイル防衛の体制をさらに改善できないか考えてみるきっかけになればと思います。

KT

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参考文献
Marshall Hoyler, China's Antiaccess Ballistic Missiles and U.S. Active Defense, Naval War College Review, Autumn 2010, Vol. 63, No. 4, pp. 84-105.
The Military Balance 2016-2017, 2017, The International Institute for Strategic Studies.

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