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2017年3月25日土曜日

敵前で休止するときは前哨を忘れずに

前哨(outpost)とは、休止する部隊がその敵方に向けて出す小規模な警戒部隊のことです。その状況の危険度に応じた兵力で主力を敵の監視や襲来から掩護することが前哨の役目です。

今回は、米軍の教範に沿って、最も危険度が大きい状況に用いられる戦闘前哨(combat outpost)の要領について紹介し、どのような戦術的考察がなされているのかを紹介したいと思います。

戦闘前哨の任務とは何か
戦闘前哨の配置例を示した状況図
前哨本隊の警戒方向に対して視界が良好な2カ所の地点に哨所を配置している
(FM 3-90-2: 3-24)
戦場といっても毎日間断なく銃弾が飛び交っているわけではありません。特に動きがない時期もあり、にらみ合いが続くことになります。しかし、ただにらみ合っているわけでもなく、実際には敵と味方が相手の戦力や配備を探ろうと斥候を密かに送り込むことが一般的です。
前哨はこうした敵の斥候を発見し、また可能であれば射殺、捕獲することによって、主力の安全を確保しているのです。

戦闘前哨はこうした前哨の機能に加えて、ある程度の規模の敵襲を受けても、主力が態勢を整えるまで、持ち堪えて時間をかせぐことが求められます。それだけに、通常よりも強力な武器や装備を戦闘前哨は保有していなければなりません。
とはいえ、戦闘前哨の任務は自ら進んで敵と戦うことではありません。あくまでも戦闘前哨は敵襲の可能性が高い地域で主力が敵から監視されることを防ぎ、また安全を確保することにあります。
「戦闘前哨は限定的な戦闘行動を遂行できる強化された前哨である。戦闘前哨を用いることは、その地域を監視することを妨げるほど険しい地形で警戒部隊を運用する技術である。戦闘前哨はより小規模な前哨では警戒区域に敵部隊が進出し、突破する危険に晒される恐れがある場合にも使用される。指揮官は戦闘前哨を用いることで、警戒区域の縦深を拡げることや、敵の主力を監視できるまで前方に我の前哨を保持し、または敵の部隊によって囲まれる可能性がある前哨の安全を確保できる」(FM 3-90-2: 2-24)
上図は戦闘前哨の配備の一例を示したものですが、中央の前哨本隊が敵方の警戒方向に向かって監視所を設けていることが分かります。この場合、河川の対岸から通報を受けた前哨本隊が直ちに戦闘準備を整え、すぐ前方を流れる河川を前哨抵抗線する企図があることが分かります。
このようにすれば、戦闘前哨は敵の奇襲を未然に防いで主力に警報を発し、態勢が整うまでの間、必要な時間を稼げるでしょう。

戦闘前哨の規模と位置に関する考え方
ここまでの説明で戦闘前哨が警戒任務において重要であることは理解できたと思います。それでは、どの程度の兵力を割り当てるべきなのか、どのような位置に配備すべきなのでしょうか。
原則として、戦闘前哨の兵力は小隊程度であり、その位置は敵の斥候が我の主力を捜索できないほど前方に離れていなければなりません。小隊は後方支援の面から言って長期間主力から離れて行動ができる部隊ではないので、戦闘前哨の小隊は24時間ごとに交代させます。

戦闘前哨の任務に限定的な戦闘行動を遂行することがあることを考えれば、せめて中隊規模の兵力を配備してもよいのではないかという見方もあるでしょう。この点については状況の危険度、そして主力の規模によって答えが変わる場合もあります。
「METT-TCで示された任務の要素は、部隊が設定する戦闘前哨の規模、位置、個数を決めるが、通常、戦闘前哨を占領するのは増強された小隊である。戦闘前哨は、指定された任務を達成するために十分な戦力を持っていなければならないが、主力の戦力を大幅に低下させるほどのものであってはならない。通常、戦闘前哨の配置は敵偵察隊が主力の行動を監視できなくなるほど前方となる」(Ibid.)
教範でも述べられている通り、戦闘前哨は「指定された任務を達成するために十分な戦力を持っていなければならない」と同時に、「主力の戦力を大幅に低下させるほどのものであってはならない」ので、指揮官は可能な限り用いる兵力を抑制する着意が大事です。
長期間にわたって敵の警戒監視のために主力の兵力の大部分を使い続けるとなると、部隊を無暗に疲労させ、いざという時に戦闘力を発揮することができなくなってしまいます。

優勢な敵の襲撃を受けた場合の戦闘前哨の運用
前哨は前哨抵抗線で戦闘するよりも速やかに退却して主力に収容される必要がある。これは戦闘前哨の場合でも同じことが言える。
Marine Corps photo by Cpl. Timothy Valero
次の問題は戦闘前哨の運用ですが、基本的に戦闘前哨は優勢な敵の部隊から攻撃を受けたなら、速やかに退却を図らなければなりません。
勝負事の始まりを意味する「前哨戦」という言葉はここで取り扱っている前哨に由来しますが、前哨は本来であれば戦闘を早期に切り上げなければなりません。
「指揮官は、優勢な敵部隊に持ち堪えるための全方向に対して防御できるように戦闘前哨を組織する。敵が多数の機甲部隊がある場合、指揮官は戦闘前哨に標準より多くの対戦車武器を与えることができる。戦闘前哨に配属された部隊は積極的に斥候を送り、敵の偵察隊と交戦、撃破し、合わせて敵の主力が行動を起こす前に接触する。指揮官は、敵が戦闘前哨を突破する前に、戦闘前哨から部隊を退却させるように計画する」(Ibid.: 2-25)
全方向に対して防御ができるように準備するというのは、我の戦闘前哨それ自体が側面や背後から急襲を受けて全滅する事態を避けるためです。1個小隊はせいぜい防御正面を500m確保できる程度の兵力しか持たないので、視界を広く確保できる地点にうまく哨所を配置しなければなりません。

また、ここで戦闘前哨が想定する敵の規模はあくまでも分隊規模の斥候ですので、それ以上の脅威が迫っているとなれば、全滅を避けるために後退行動をとらなければなりません。
少し戦術の心得がある人からすると、せっかく前哨抵抗線を保持しているのだから、前哨部隊はその線を保持し、後方から応援を送ってもらう方がよいと思えるかもしれません。しかし、そもそも前哨は休止中の部隊の前方に派遣されるものですので、主力は戦闘の準備を整えていないことを大前提に考えなければなりません。
状況にもよりますが、後方から応援が到着するまでにかなりの時間を要する可能性があると想定すると、教範で示されている通り、指揮官は原則として気長に応援を待つよりも速やかに退却することを優先すべきでしょう。

むすびにかえて
戦闘前哨は普通の前哨とは異なり、小規模な戦闘を遂行することを前提としているので、退却時機の見極めが非常に難しいことが問題としてあります。あまりにも早期に退却を始めるのは戦闘前哨としてあまり望ましくはありません。しかし、退却が遅れると戦闘前哨は最前線で真っ先に全滅する恐れもあるのです。

もし前哨を指揮することになった場合、こうした問題に直面することを予想して、前哨陣地を徹底的に強化しておくことが重要です。少ない人員で武器や弾薬が限られていたとしても、地形地物を利用し、築城工事を入念に行っておけば、それだけ前哨抵抗線上で敵の戦闘力を低下させることができます。
こうした事前の準備を怠れば、敵の攻撃を食い止めて時間を稼ぐことも、また部隊を連れて安全な地域まで退却することもできず、不名誉な結果に終わるでしょう。

KT

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参考文献
U.S. Department of the Army. 2013. Field Manual 3-90-2, Reconnaissance, Security, and Tactical Enabling Tasks, Volume 2, Washington, D.C.: U.S. Department of the Army.

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